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第7話 宅配ピザ

 またしても丁寧なお祈りメールが届き、部屋で1人がっくりと肩を落とす。ほんとによお、人相だけで人を見るんじゃねえよお! 占い師かよおお前らはよお!


「あー……。腹減ったな。でも外に出る気力がねえ」


 もそもそと立ち上がって何か食べる物が無いか探すと、1枚のチラシが目に入った。


「ピザ……か。まあたまには贅沢してもいいだろ」


 俺が手に取ったのは、宅配ピザのチラシ。ありがたいことにクーポンも付いていて、1枚買うと1枚無料らしい。空腹の俺には助かる話だ。今はネットから注文できるんだよな。電話だとなんか嫌な予感がするから、今回はネットで注文しよう。


 スマホを取り出してピザ屋のサイトにアクセスし、ズラっと並んだピザの写真を眺める。どれにしようかなあ。やっぱ肉系は欲しいから、この照り焼きマヨは決定だな。あとはシーフードとサラミのハーフアンドハーフにするか。よし、注文っと!


 あとは待ってりゃピザが来る。楽なもんだ。ちょっと値段はしたからほんとに今日だけの贅沢だな。ほとんどバイトもしてねえ就活生には痛い出費だ。まあ自分を慰めるためだから仕方ない仕方ない。


 30分ほど経って、インターホンが鳴る。お、来たか来たか。楽しみだ。ウキウキしながらドアを開けると、元気な女の声が聞こえてきた。


「お待たせしましたー! ピザージョです!」


「なんだその名前! ピザかアヒージョかはっきりしろよ! ……って心音じゃねえか!」


「やっほやっほ健人先輩! ピザなんて贅沢だね! 身内でも死んだ?」


「ボケが不謹慎すぎるわ! もうちょっと配慮しろ!」


 にこにこの心音はピザが入った平たいバッグを持ち、レシートを取り出す。


「先にご注文内容確認させていただきます! 白玉あんみつとよもぎ餅のハーフアンドハーフでお間違い無いですか?」


「ハーフアンドハーフしか合ってねえ! 誰がピザ屋で和のスイーツ頼むんだよ!」


「サイドは天ぷら定食でご用意してます!」


「どっちかっつーと逆だろ! なんで白玉あんみつとよもぎ餅がメインなんだよ!」


「白玉あんみつにメープルシロップはお付けしますか?」


「ちょっと美味そうだけど! いやちゃんと俺の頼んだもん持ってきてもらえる!?」


「ああごめんごめん! こっちだったかー!」


 心音は違うレシートを取り出し、改めて注文を確認し始める。いや、てことは誰か白玉あんみつ頼んだのかよ! 物好きだなおい!


「照り焼きマヨが1点と、シーフードとサラミのハーフアンドハーフが1点でお間違いないでしょうか?」


「それそれ。さっさと寄越してくれ」


「青のりとカツオ節はお付けしますか?」


「お好み焼きか! 要らねえわそんなもん!」


「では2点で2990円になります!」


「2990円な、じゃあ3000円で」


「釣り銭が今ビー玉しか無いんですけどこれでいいですか?」


「いいわけねえだろ! 昭和の子どもか!」


「10円のお返しです」


「小銭あんじゃねえか!」


 釣り銭をもらってドアを閉めようとすると、心音がじーっと俺が持つピザを見てくる。よく見たらヨダレも垂れてんな。なんだ、腹減ってんのか?


「はあ……。1切れ食うか?」


「え、いいの!? じゃあお言葉に甘えて1枚もらっちゃおうかな」


「おい増えてんぞこら! 丸々はやんねえわ!」


「でも私が美味しく食べてるところを見られるんだよ? その表情とピザどっちが大事なの?」


「ピザだよ! お前のコールド負けだわ!」


「えーもう仕方ないなあ。1切れにしといてあげる」


「なんで偉そうなんだよお前は……」


「で? コーラとポテトはどこ?」


「やっぱガッツリ食うつもりじゃねえか!」


 俺がそう言うと、心音は物凄く悲しそうな目で俺を見てくる。なんだよその目は。そんなことしたって俺はお前のために飲み物とポテトまで買って来ねえぞ?


「健人先輩〜、私もう2時間も何も食べてないの……」


「2時間なら我慢しろよ! 何お前常に食ってんの!?」


「あ、ごめんさっきコンビニ寄っておやつに唐揚げ弁当とカルボナーラ食べたから5分ぐらいだったよ」


「めっちゃ食ってんじゃねえか! 絶対飢えてねえだろお前!」


「お願い〜、最悪ピザの上に乗ってる具だけでもいいから〜」


「なんで俺平たいパンだけ食わなきゃいけねえんだよ! 味気ねえわ!」


「ね? お願い! 可愛い後輩のためだと思ってさ! 後輩がお願いしてるんだよ? ちょっとピザくれても良くない? あとなんか頭が高くない?」


「急に偉そうだな! 頼む立場のお前の方が頭が高いだろ!」


「お願い〜! シフト交代でもなんでもするから〜!」


「俺雇われてねえよ! ちょいちょい勝手にバイト仲間にすんのやめてくれる!?」


 結局粘る心音に根負けし、俺はピザの箱を開けてシーフードを1切れ差し出した。


「わーい流石健人先輩! 大きいのは顔だけじゃないね!」


「やかましいわ! 一言余計なんだよお前は!」


「美味しかった〜! ありがとう健人先輩! ぜひまた指名してね!」


「キャバクラか! 安心しろもう暫く頼まねえから!」


 るんるん気分で帰って行く心音の後ろ姿を見送りながら、俺はピザ屋のサイトを再び開く。どうせデリバリーのバイトなら勤務態度がどうでもバレないとか思ってたんだろ。残念だったな。


 俺はサイトの注文履歴からレビューページに飛び、冷えてしまったピザを齧りながら低評価のレビューを書いた。


 次の日心音から泣きそうな声で電話がかかって来たけど、悪いのは俺じゃねえからな。

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