第45話 居酒屋
1月も終わる頃、遂に先日面接を受けた会社から連絡が来た。何やらオンラインで結果を伝えるので、ミーティングに参加しろとのことだ。
ドキドキだな……。これで受かってなかったら俺は就活浪人。受かってたら晴れて4月から社会人。このミーティング次第で全てが決まる。ミーティングは10時からの設定だけど、俺は9時45分ぐらいからミーティングに入り、きっちりとスーツを着て正座した状態で待っている。
そわそわしながら時計を何度も確認し、時刻が9時59分になったところで、会社の人がミーティングに参加した。
そして十数分後、俺はミーティングを退出し、その場でガッツポーズをした。
「受かっったあああああああ!!」
結果を言うと、俺は今回の面接に通っていた。心音を面接官のバイトとして雇ったのは、イレギュラー対応能力を見るためらしく、心音が面接官という異例な状況でツッコミを入れ続けた俺の対応力が採用の決め手になったらしい。なんだそれ。
通った理由自体は意味不明だけど、とりあえず内定が出たことは出たんだ。これは素晴らしいこと。だって単に内定をもらえなかったってだけでフリーターになる道を避けられたんだからな。危なかった……。
しかしこんなんで内定って、ある意味心音に感謝だな。あいつが至るところでバイトとして現れなかったら、俺は戸惑って終わってただろう。よし、今日は内定祝いだ。夜になったら居酒屋に飲みに行こう。
そういや心音は今日どうなんだろな? 1人飲みってのも寂しいし、ある意味今回の内定は心音のおかげ。奢ってもいいから誘ってみっか。
スマホをスクロールして心音の連絡先をタップし、電話をかける。2回目のコールで心音が電話に出た。
『節々? あ、間違えたもしもし?』
「どんな間違いだよ! 何お前インフルとかなの!?」
『ううん、めっちゃ元気! それで、どうしたの?』
「ああいや、なんかお前が面接してくれた会社から内定もらったんだよ。それで今日内定祝いに飲みに行こうかと思ったんだけど、心音もどうかなと思って」
『ほんと! 焦げバター! あ、間違えたおめでとー!』
「だからどんな間違いだよ! で、今日どうだ?」
『バイトがあるから時間帯によるかも! 遅い時間ならだいじょーぶだよ! 22時とか!』
「お、そうか。じゃあ22時から行くか」
『りょーかい! じゃ、また後でねー!』
そう言って心音は電話を切った。22時からか……。まあ暇だからいいけど、結構遅い時間ではあるな。暇だから寝るか。
「んん……今何時だ?」
気持ち良く寝ちゃったな。ええと時間は……21時か。めっちゃ寝たな。緊張して疲れてたのか俺。まあちょうどいい時間だし、準備して行くか。
顔を洗って歯磨きをし、適当な服に着替えて外に出る。駅前の居酒屋に着くと、時刻は21時30分。ちょっと早いけど、先に入っとくか。席に座ったら心音には連絡入れとこう。
居酒屋のドアを開けて中に入ると、元気な女の声が俺を出迎えた。
「いらっしゃいませー! えーっと、1名様でご予約の田部杉様で?」
「違うわ! その名前のやつ絶対食い荒らしていくだろ! ……って心音!?」
「やっほやっほ健人先輩! 早くない?」
「いやお前バイトってここでだったのかよ! 上がったら最速で来れんじゃねえか!」
「そーなの! 健人先輩との約束にいち早く駆けつけられるよ! 車で行くね!」
「車要らねえしそのまま来いよ! そもそも車乗ったら酒飲めねえだろ!」
こいつここでバイトしてんなら先に言っとけよ……。まあいいや、心音が上がったらすぐ来られるってことだもんな。それはそれで都合いいからいいや。
「それで健人先輩、1杯目は何にする? アヒージョ?」
「アヒージョ飲みものカウントなの!? いやとりあえず心音が上がるまではソフトドリンク飲んでるわ。烏龍茶ある?」
「魯肉飯?」
「言ってねえよ! 魯肉飯ソフトドリンク扱いの店絶対デブがやってんだろ!」
「はい! 烏龍茶ピッチャーね!」
「違う違う! 1杯でいいんだよ! なんでお前ピッチャーで持って来んの!?」
「ああ守備走塁コーチが良かった?」
「野球の話してねえんだわ! なんで烏龍茶に守備と走塁教えられなきゃいけねえんだよ!」
「じゃ、それ飲んで待っててねー!」
デカいピッチャーを目の前にして、俺はチビチビと烏龍茶を飲む。心音が上がるまであと20分ほど。それぐらいなら全然待つから、それまでは真面目に働いて欲しいもんだ。
すると、私服姿の心音がこちらに向かって来るのが見えた。
「え、どうしたんだよお前。早上がりか?」
「ううん! 別れ話してるカップルの卓にハート型ストローを付けたアヒージョ持って行ったらめっちゃ怒られて、クビになっちゃった!」
「何してんだよお前! 空気読めねえにもほどがあんだろ!」
「でもでも、これで健人先輩と早く飲めるね! 結果オーライじゃない?」
「いや別にそこまでしなくても良かったんだけど……」
「さー何飲もうかなー! あ、すいませーん! レモンサワー1つー!」
「よくお前今クビになったバイト先で元気に注文できんな!」
こうして心音と夜遅くまで飲み明かし、気持ち良く内定祝いができた俺だった。しかし心音のやつ、俺より酒強いじゃねえか……。




