第42話 面接官
ピピピピ——。朝6時のアラームが鳴る。
今日は9時半から面接が入ってる。本当の本当にラストチャンスだ。気合いを入れるために早起きをして、脳を目覚めさせる。
気持ちいつもよりしっかりと顔を洗い、少しでも綺麗な顔に見えるようにする。歯磨きは入念に。髪の毛はしっかりと立ち上げ、清潔感のある印象に。
とにかくできることをやった俺はしっかりと朝食を摂り、リクルートスーツに着替えて外に出た。まだ早いんだけどさ、これはもうなんと言うか、気が逸って仕方ないんだ。それに、歩いてたら脳も回るだろ? 軽い運動がてら歩くだけだ。
周りはスーツを着たサラリーマンばかり。この人たちはちゃんと就活を乗り越えてきたんだよな。俺よりも就活に苦戦しなかったんだろな……。
劣等感が芽生えてしまうが、今日は俺にできることをするしかない。これに落ちれば就活浪人だ。気合いを入れていこう。
まだ早いけど電車に乗って最寄り駅まで来た。どうしようか、近くのコンビニでなんか買って飲むか? そうだな、飲むヨーグルトとか体にも脳にも良さそうだし、その辺探してみっか。
駅の近くにあったコンビニに入ると、元気な女の声が俺を出迎えた。
「いらっしゃいませー! ただいまロックアイス1袋増量中でーす!」
「持て余すわ! なんで氷ばっかり持って出かけなきゃいけねえんだよ! ……って心音!?」
「やっほやっほ健人先輩! こんなところでどうしたの? 夜逃げ?」
「違うわバカ! 失礼すぎるだろお前!」
「夜逃げだったら歯ブラシとか要るよね? 買ってく?」
「だから夜逃げじゃねえって! 歯ブラシより要るもんありそうだけど!?」
なんでこいつがここにもいんだよ……。おいおい、面接前に疲れさせられるぞこれは。とんでもねえな、さっさとなんか買って逃げよう。
俺はさっさとパック飲料の棚に行き、飲むヨーグルトを取ってレジまで持って行った。
「飲むヨーグルトが1点〜! ご一緒に食べる方のヨーグルトはいかがですか?」
「要らねえよ! わざわざ飲む方買ってんだから余計なもん付けんな!」
「飲むヨーグルトにお箸はお付けしますか?」
「どうやって使うんだよ! 名前に『飲む』って付いてんだろ!」
「こちら温めますか?」
「早く渡してくれる!?」
こんな時でもボケまくる心音からなんとか飲むヨーグルトを受け取り、近くの公園のベンチに腰掛ける。時間食っちまったな。心音のやつ、人の気持ちも考えずに好き勝手やりやがって……。
そんなことを考えながらヨーグルトを飲んでいると、面接の時間が近づいてきた。よし、行くぞ。今日こそ絶対に内定を取るんだ。
会社に着いて受付を済ませ、部屋の前で待つ。少しすると、元気な女の声が俺を呼んだ。
「望月健人さん、どうぞー!」
……ん? なんか聞き覚えのある声だったような……。まあいいや。入るぞ。
「失礼いたします」
今までとは段違いのプレッシャーを感じながら部屋に入る。面接官の顔は見られてないけど、厳しそうな雰囲気を感じる。
「望月健人です! よろしくお願いいたします!」
「お座りくださーい!」
「はい!」
……あれ? やっぱり聞き覚えある声だな。座って面接官の顔を見ると、そこには見慣れた茶髪ボブ。……はあ!? 心音!? なんでこいつ面接官なんかやってんだよ!?
意味が分かんねえ。なんでそんなことになってんだよ。
「それでは面接を始めます。面接官の川本心音でーす!」
「おいこら待てお前! 何してんだこんなとこで!」
「やっほやっほ! 今日は頑張ってね!」
「うるせえよ! なんでお前に面接されなきゃいけねえんだ!」
「では始めますね! 何か質問はありますか?」
「それ最後にやるやつだろ!」
おいおい、なんでこんなことになってんだ……? しかも最終面接って何人か面接官いるもんじゃねえの? なんでこいつだけなんだよ。
「では、チアガールとしての長所と短所を教えてください!」
「まずチアガールじゃねえよ! 人としてじゃダメ!?」
「長所は人を高く放り投げられることで、短所は放り投げられる側になった時に重すぎて持ち上がらないことですね?」
「言ってねえよ! だから俺チアガールじゃねえって!」
「何か質問はありますか?」
「まだ早えって!」
これ面接なのか? いやそもそもこいつに面接されて、ほんとに採用試験として成り立ってんのかな? え、俺ちゃんと時間通りに来たよな? 間違って変なとこ来てないよな?
「では次に、掃除をする時に気をつけていることを教えてください!」
「それなんか関係ある!? もっと会社に関係あること聞いたら!?」
「あと好きなキノコ料理を教えて欲しいな!」
「それ言って何になんだよ!? キノコ限定の理由が気になって仕方ねえわ!」
「パンはパンでも美味しく食べられるパンはなーんだ?」
「人に寄るだろ! なぞなぞとして成り立ってねえよ! まずなぞなぞすんなよ面接で!」
「じゃあこれで面接を終わります! 最後に何か言い残したことはありますか?」
「死刑囚か! ここで質問聞けよ!」
結局こんな調子で面接は終わり、帰らされてしまった。一応受付で確認したけど、面接官は心音で合ってるとのことだ。なんで合ってんだよ。間違いであって欲しかったわ。




