表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/42

第36話 動物園

「久しぶりに来たなこんなとこ……」


 そう呟く俺がいるのは、動物園のゲートの前。あまりにも立て続けに面接に落ちたもんだから、気分転換がしたくなって来てみたんだけど……。なんか1人で動物園にいると寂しさが強調されるな。みんなカップルとか家族じゃねえか。なんで俺だけ1人なんだよ。彼女とかいろよ。


「とりあえず入るか。えーっと、料金は……800円か。安いな」


 チケットを買いに窓口へ向かうと、元気な女の声が俺を出迎えた。


「お次の方どうぞー! 動物好きが集まる場所、ズーマニアへようこそ!」


「そんなルーマニアみたいに! ネーミングセンス終わってんな! ……って心音!?」


「やっほやっほ健人先輩! 動物園なんてどうしたの? ディベート?」


「言うならデートだろ! なんで俺動物園で討論してんだよ!」


「あ、デートだった?」


「残念ながら違えよ! 1人だわ1人」


火鳥(ひとり)? そんなのいたかなあ?」


「動物の話じゃねえよ! 俺が1人って話!」


「え、健人先輩って火鳥っていう分類なの?」


「そうじゃねえよ! ああもうめんどくせえな、早くチケット渡せよ!」


 とっくに800円をコイントレーに置いている俺は、心音がなかなかチケットを出さないために入口で足止めされている。幸い並んでる人はいなかったからいいけど、これ土日とかならクレームもんだぞ。


「あれ、健人先輩って動物園に入るのにチケット要るの?」


「は? どういう意味だよ」


「いや、だってゴリラ側の人でしょ?」


「違えよ! なんだゴリラ側の人って! どんな日本語だよ!」


「ゴリラ寄りの人だった?」


「どっちでもねえわ! 何俺ここで展示される側なの!?」


「就活生類面接に落ちた人族だよね」


「やかましいわ!」


 なんとか心音からチケットを受け取り、俺はようやく入口のゲートを潜った。


 しかし動物園に1人で来るのなんて初めてだな。前行ったのは小学生の時だったか? 家族に連れて来てもらって、俺も大人料金請求されて一悶着あったな。……うん、そんな悲しいことは思い出さないでおこう。


「お、ゾウか。デカいしのんびりしてて好きなんだよな。見てくか」


 ゾウの檻に近づくと、ちょうど飼育員が餌をやるところだった。餌やりのタイミングとかち合ったのはラッキーだな。ゾウって何食うんだ?


 興味津々で見ていると、飼育員はゾウに向かって話し出した。


「いらっしゃいませこんにちは! ご注文をどうぞ!」


「ファストフード店か! ゾウにそれ聞いてどうすんだよ! ……ってあれ心音じゃねえか!?」


 よく見ると、飼育員の髪型は見慣れた茶髪ボブ。おいあいつ何してんだよ。チケット窓口が持ち場じゃねえの? なんで檻の中入ってんだよ。


 俺が混乱している中、心音は当たり前のようにゾウと話している。


「はい! はい! ありがとうございます! ではご注文繰り返します! ハンバーガー蕎麦が1点」


「久しぶりに聞いたハンバーガー蕎麦! あいつゾウ相手にもその接客すんの!?」


「ハンバーガー蕎麦にストローはお付けしますか?」


「付けなくていいわ! 付けるならドリンクに付けろよ! ……いやゾウはストロー使わねえよ!」


「え? ストローはハート型のやつ?」


「絶対言ってねえだろ! ゾウがそんなバカップルみたいなことするか!」


「すみません、当店はハート型は置いてなくて……。六芒星型ならありますけど」


「どうやって形作ってんだよ! 吸ってから飲むまでにタイムラグありすぎんだろ!」


 ゾウ相手にボケ続ける心音に疲れ、俺は次の檻へ向かった。次は何見るかな。やっぱ定番はキリンとかライオンだけど……。

 お、ライオンの檻がすぐそこだな。行ってみっか。


 ライオンの檻に着くと、たてがみを靡かせながら横たわるオスライオンと、その周りでくつろいでいるメスライオンの姿があった。そしてオスライオンの後ろには、ハサミとクシを持った茶髪ボブの姿。……いや心音じゃねえか! 何してんだあいつ!


「お客さん、今日はどんな感じにします?」


「美容師やんなよライオン相手に! たてがみはもう完成してんだろ!」


「髪型は坊主で、カラーはブルーですね?」


「ライオンがそんなこと言うかよ! いかつすぎるわ! いや元々いかついけども!」


「シャンプーハットはお使いになられますか?」


「使わねえだろ! 美容室でシャンプーハット使ってるやつ見たことねえわ! ……いやここ美容室じゃねえよ!」


 オスライオンがどんどん青坊主になっていく様子を見てられなくて、俺は次の檻へ向かうことにした。ライオンの檻から目を離そうとすると、心音とは別の飼育員が慌てて檻の中に入って来た。


「ちょっとちょっと川本さん! 何してるの!?」


「え? 匂わせカットですけど」


「なんでライオンにそんなことしてるの!? 勝手にそういうことするのやめてね!?」


「でもこのお客さんが青坊主にしたいって」


「言ってないよね!? あとライオンのことお客さん呼びしないで!?」


「あ、代金だけもらってもいいですか?」


「いいわけなくない!? ちょっと川本さん、もうクビ!」


「ええ〜!?」


 いや当たり前だろバカかよ。でも代金きちんと取るってことは、さっきのゾウに出したハンバーガー蕎麦からも代金取ってんのかな。そんなことせず真面目に働けよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ