第34話 メガネ屋
「うーん、やっぱそうかなあ」
新聞の文字とにらめっこする俺。何をしているのかと言うと、視力が落ちたかどうか確かめてるんだ。
最近どうも目が悪くなった気がして、試しにコンビニで新聞買って帰って来たんだけど、やっぱり前より見えづらくなってる。こんなに近づかないと文字見えなかったかなあ。割とショックだ。
「嫌だけど……。メガネ買いに行かなきゃかなあ」
新聞を置いてスマホを開き、メガネ屋のホームページを見る。なんかキャンペーンとかやってねえかな。普通に躊躇無くメガネ買えるほど金持ってねえよ俺。
いくつかページを見ていると、ちょうどフレーム無料キャンペーンをやってるところがあった。お、じゃあここにしてみっか。場所は……。隣駅にあんな。まあそれぐらいの交通費なら、フレーム代より安いか。
俺は出かける準備をして、メガネ屋へ向かうべく外へ出た。
隣駅に着くと、目の前にショッピングモールが立ちはだかる。これがあるからここは栄えてんだよな。メガネ屋もこの中にあるらしい。さっさと行ってメガネ作ってもらおう。
あとメガネかけて面接行ったら、多少印象変わるんじゃねえかな。そうだったらいいな。
微かな期待を胸にメガネ屋へ向かう。モールの2階にあったメガネ屋に入店すると、元気な女の声が俺を出迎えた。
「いらっしゃいませ〜! ただいまレンズ30個増量中です!」
「目目連か! あの障子にめっちゃ目付いてる妖怪! そんな大量に目ねえわ! ……って心音!?」
「やっほやっほ健人先輩! メガネ屋に用なんてどうしたの? あ、鼻あてだけ買いに来たの?」
「そんなやついねえよ! 何の目的で鼻あてだけ買いに来んだよ!」
「そりゃあれだよ、コレクションだよ。東京ガール〇コレクション」
「それは別もんだろ! なんでファッションショーになんだよ! ちょ、いいからさっさとメガネ見せてもらえる!?」
「あ、メガネ買いに来たの? なーんだじゃあ最初からそう言ってくれれば良かったのに!」
「言わなくても分かれよ! 俺が他の目的でメガネ屋なんか来ねえよ!」
しかしなんで隣駅にまでこいついんだよ。逆にどこに行ったら心音と遭遇しなくて済むのか気になってきたわ。マジで遭遇しなかったことねえもんな。
「それじゃ、まずはフレームを選んでね! 今なら新作がたくさん入ってるよ!」
「お、そうなのか。じゃあ見せてもらおうかな」
「おっけー! じゃあまずはこれ! かんぴょうでできてるんだけどね」
「しまえ早く! なんで俺かんぴょう顔に付けねえといけねえんだよ!」
「えーダメ? じゃあこっちはどう? スルメイカでできてるんだけど」
「同じだわ! むしろ匂いの分そっちのが嫌だわ! 何ここおつまみフレームしか置いてねえの!?」
「そんなわけないじゃん! ちゃんとデザートも用意してあるよ!」
「とりあえず食べものやめてもらえる!?」
なんでここ食べられるフレームしか置いてねえんだよ。とりあえずメガネ屋名乗るのやめた方がいいんじゃえの? メガネ食べたいなとか思ったことねえよ。
「じゃあこのレインボーフレームで作っちゃうね! さ、視力測りに行こー!」
「おい勝手に決めんな! なんで俺レインボーのメガネかけなきゃいけねえんだよ!?」
「まーまーそれはいいじゃん! ほら視力測りるよ!」
心音の頑なな態度に根負けし、仕方無く俺は視力検査に向かう。椅子に座らされると、レンズが付いた機械と向き合った。
「これはオートレフラクトメーターだよ! 覗き込んでみてね!」
「無駄に詳しいな……。まあメガネ屋で働いてたらそれぐらい知ってるか。よし、覗くぞ」
オートレフラクトメーターを覗き込むと、何か白いものに文字が書いてあるのが見える。でもぼやけてんな……。ん、なんかちょっとずつ見えてきたぞ。
少しはっきりしてきたところで、俺は勢い良く椅子から立ち上がった。
「おい心音お前! なんでこんな画像持ってんだよ!」
「あ、お疲れ〜! 見えた?」
「見えたわバカ! あれ俺の高校の時の成績表じゃねえか!」
「やっぱり健人先輩って美術が1なんだね! 実技科目で1取る人初めて見たよ!」
「やかましいわ! ほっとけ! 美的センス0なんだよこっちは!」
「やっぱり自画像描く授業でメスマウンテンゴリラ描いたりしたの?」
「舐めんなよお前! あとせめてオスにしてもらえる!?」
「あ、メガネできたよ!」
「まだ視力検査終わってなくね!?」
出来上がったメガネを持って来た心音は、嬉しそうな顔で俺にそれを差し出す。でもなんかやけにレンズがギラギラしてるような……。
「どーぞ! かけてみて!」
「お前これなんでこんなギラギラなんだよ! 普通のメガネにできなかった!?」
「ああ、サービスで偏光レンズにしておいたよ!」
「余計なことすんなよ! レインボーのフレームでこんなギラギラのもんかけてたら俺怖すぎるだろ!」
「まああんまり近づきたくはないよね」
「分かってんならやめろよバカ! おいどうすんだよこれ……」
結局代金を支払い、ギラギラのメガネを持って外に出ようとすると、メガネをかけた女が慌てて店に駆け込んで行くのが見えた。
「ちょっと川本さん!? 勝手にメガネ作った!?」
「作りましたよ! ギラギラのやつ!」
「今出て行ったあの怖い人に!? ちょっとあなた、あんな怖い人と繋がりがあるの!? そんな人うちに置いておけません! クビ!」
「ええ〜!?」
いやなんで俺のせいなんだよ。