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【完結】後輩がまた違うバイトしてる〜なんで俺の行先知ってんの?〜  作者: 仮面大将G


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第26話 薬局

「うーわ、雨降ってきた。傘持ってねえよ……」


 面接からの帰り道、突然の雨に降られた俺は、びしょ濡れになりながら走って帰ることにした。こんなの高校以来だな。普段は傘持ってんのに、今日に限って忘れんだもんなあ。ついてねえ。


 亀風駅から俺が住むアパートまでは徒歩15分ほど。走ってもそれなりに濡れる覚悟はしないとだな。あーあ、スーツもクリーニングに出さないとだなあ。


 そんなことを考えながら走って帰宅した俺は、すぐに風呂に入った。


 ——翌日。


「っくしょん! おいおい嘘だろ、すぐ風呂入ったのに風邪引いたか?」


 大きなくしゃみで起きた俺は、止まらない鼻水に苦戦していた。どんどんティッシュが減っていき、ストックしてある箱ティッシュももう少ない。


 しゃーねえ、鼻風邪っぽいし、薬買うついでにティッシュも買ってくっか。


 もう6月だというのに薄手のアウターを羽織った俺は、マスクをして薬局へと向かった。


 薬局に着くと、その雰囲気に似つかわしくない元気な女の声が俺を出迎えた。


「いらっしゃいませ〜! ラリ薬局へようこそ!」


「店名がダメすぎるわ! 絶対違法薬物売ってんだろ! ……って心音!?」


「やっほやっほ健人先輩! 今日も元気に風邪引いてる?」


「それはどっちなんだよ! 風邪引いたことに気づいてねえバカなのか!?」


「あれ、鼻声だね。ほんとに風邪引いてる感じ?」


「そうだよバカ! 引いてなかったらこんなマスクして薬局来ねえわ!」


 病人にツッコませんなよ全く……。どうしても真面目に仕事できないのなこいつ。いや俺がいる時以外はちゃんとやってるらしいから、ほんとに俺がいる時だけふざけては見つかってクビになってんだけども。


「それで、健人先輩の風邪はどこから? 肝臓?」


「違えよ! 酒の飲みすぎから風邪になることある!?」


「もう〜、勿体ぶらずに教えてよ〜! そんな美人なお風邪さんどこでもらって来たの〜?」


「嫁もらったみたいに言うな! なんだ美人なお風邪さんって!」


「え? beautiful cold?」


「英訳聞いてねえよ! 英語にしたところで意味は分かんねえじゃねえか!」


 真面目に聞いてくれよ……。俺風邪引いてんだよ。しんどいんだよ。いや熱も無いし咳も出ないけどさ、鼻詰まってっから喋るのしんどいんだわ。気遣えよこいつ。


「その感じだと多分鼻風邪だね? じゃあ鼻詰まりに効くお薬を紹介してあげるよ!」


「おう、頼むわ。最初っからそうしてくれると助かったんだけどな」


「え? なんて? 子泣き爺フィギュアのキラクリアバージョンにプレミアが付いた?」


「言ってねえよ! どんな耳してんだお前!」


「何言ってんの、プレミアが付いたのはキラクリアバージョンじゃなくてサードカラーの方でしょ?」


「知らねえって! なんで子泣き爺のフィギュアそんな需要あんだよ!?」


 意味不明のことを言う心音に着いて行くと、食料品のコーナーに辿り着いた。あれ、薬って話だったはずだけど……。


「はい! まずはこれ! コッペパンだよ!」


「いやお前、薬出せよ。なんで初手パンなんだよ」


「え、だって鼻詰まってる時にパン食べたら息できなくなるでしょ? 息止める練習に持ってこいだと思って」


「そんな練習しねえから! お前俺のことなんだと思ってんだよ!」


「素潜りインストラクター見習い?」


「なんだその称号!? 何する人なんだよそれ!」


「そりゃなんか、漁禁止のエリアで素潜りでサザエとか獲る人でしょ」


「密猟じゃねえか! さらっと犯罪を助長すんな!」


「それでこのコッペパンにはずんだ餡とホイップが入っててね」


「東北限定のパン!? ちょっとレアだから買っとこうかと思うわ! ……いや薬出せよ早く!」


 なんで俺はパンの説明聞いてんだ……。毎回こいつの思考回路は意味不明だな。どうやってもまともな方向に進まねえ。


「じゃ、お薬ね! これが鼻の通りを良くするお薬だよ!」


「お前最初からそれ出せよ。なんでパン挟んだんだよ」


「挟まれてるのはずんだ餡の方だけどね!」


「やかましいわ! さっさと薬渡せ!」


「ちなみにこのお薬、服用3日目に鼻が通りすぎて北海道に繋がるから気をつけてね!」


「俺の鼻青函トンネルになんの!?」


 なんだその効能……。まあいいや、3日も服用することねえだろ多分。知らねえけど。


「あとさ、ティッシュ切れそうなんだよ」


「ええ、それは大変だね! ティッシュに怒られるなんて」


「ティッシュにブチ切れられてねえよ! 俺ティッシュに何したんだよ!」


「そりゃなんか、使いもしないのに大量に撒き散らすとか」


「ああ多分赤ん坊の頃に心当たりあるわ! え、その恨みまだ引きずられてんの!?」


「それで、ティッシュも色々種類あるけどどんなのがいい?」


 そうか、普通の安いティッシュだと鼻かみ続けると痛いんだな。なんかローションティッシュとかあったらそれがいいかもしれねえな。


「心音、ローションティッシュとかあるか?」


「ジェネレーションギャップ?」


「言ってねえよ! 俺とお前1個しか違わねえだろ!」


「健人先輩、1年の差を舐めちゃいけないよ? この21〜22歳あたりから老いを感じ始めるんだからね! 健人先輩の方が大分おじいちゃんなんだからね!」


「おじいちゃんではねえわ! まだ今年で22だぞ!? もうちょっと若者でいさせてくれよ!」


「はい、ローションティッシュね」


「聞けよ!」


 まあ目的のもんは手に入ったからいいか。会計済ませてさっさと帰ろう。


「それじゃ、お薬とティッシュでお会計3300円になります!」


「ん、じゃあカードで」


「おっけー! 健人先輩は何ペアだった? 私フルハウス!」


「トランプのカード出してねえよ! クレジットカード!」


「クレジットカード……?」


「え、知らねえ!?」


 そんな時、バックヤードから出てきたメガネの男が心音に手招きした。心音は一旦バックヤードに引っ込み、さっきの男の店員がレジにやって来る。


「申し訳ございませんお客様、レジ代わらせていただきますね」


「あれ、さっきの女の子どうしたんすか?」


「ああ、あれについてはしっかりと処分を考えますので、安心してまたお買い物に来ていただければと……」


 あ、またクビなのね。まあ病人が来ることが多い薬局で適当なことやってたら、下手したら命に関わるもんな。ま、しゃーねえ。次は長く続けられるバイト選べよ。

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