第24話 プラネタリウム
最近、癒しが無い。就活に奔走しては心音と出会い、心音と出会っては振り回される。こんな毎日じゃ疲れて当然だ。そろそろ何か癒しが欲しい……。
そんなことを考えながらスマホをスクロールしていると、1つの広告に目が止まった。
「プラネタリウム……か。ありかもな」
亀風のショッピングモールにできた新しいプラネタリウムの施設。そういやまだ行ったこと無かったな。まあそもそも、俺がプラネタリウムなんてキャラじゃねえから行かなかったのもあるんだけど。
よし、今日はプラネタリウムに初挑戦してみっか。
俺は気持ちキレイめな服に着替え、ローファーを履いて外に出た。
「おお、ここか……。なんか緊張すんな。カップルばっかりだし」
プラネタリウムに着いてみると、周りは男女2人組ばかり。俺と同じ大学生くらいのカップルもいれば、白髪の仲良し夫婦まで年代は様々だ。
どうやら1人で来てるのは俺だけ。なんかめちゃくちゃ寂しくなってきたな。帰ろうかな。
いやいや、せっかくここまで来たんだし、放映が始まっちゃえば1人だろうがカップルだろうが一緒だ。俺は癒されに来たんだから、ここで帰ったら意味ねえだろ。
気持ちを強く持ってチケットカウンターへ向かう。すると元気な女の声が俺を出迎えた。
「いらっしゃいませ! ようこそ、プラネタリウム『似星』へ!」
「名前どうなってんだよ! 星のモノマネ芸人みたいになってんじゃねえか! ……って心音!?」
チケットカウンターで満面の笑みを浮かべていたのは、見慣れた茶髪ボブ。おいおい、俺の疲れの半分はこいつのせいなんだぞ。なんでここにまでいんだよ。やっぱ帰ろうかな。
「やっほやっほ健人先輩! プラネタリウムなんて珍しいね! 次に侵略する惑星に目星を付けに来たの?」
「俺悪の宇宙人じゃねえよ! プラネタリウムにそんな物騒なやついる!?」
「そーだよね! そんなことしたら健人先輩がホシになっちゃうもんね!」
「やかましいわ! 上手いこと言うな!」
「それで、今日はどの回を見るの? 今日のラインナップは、第1次宇宙大戦争、第2次宇宙大戦争、夏の夜空の3つだけど」
「一択じゃねえか! 癒されに来てんのになんで宇宙大戦争見なきゃいけねえんだよ!」
「あごめん、あと惑星シューティングもあった! こっちにする?」
「しねえって! なんでここのラインナップ全部物騒なの!?」
なんだこのプラネタリウム……。星を見に来てんのに、星壊そうとしてるラインナップばっかじゃねえか。どうなってんだよ全く。
「とりあえず夏の夜空で頼むわ」
「はいはーい! 指定席と自由席、あと立ち乗りが選べるよ!」
「新幹線か! なんだ立ち乗りって!」
「あ、ごめんごめん! プレミアム席と一般席だった! どっちがいい?」
「それは何が違うんだよ?」
プラネタリウムにもそんな席の区分があんのか……。全然来たことねえから知らなかったわ。でもせっかくだからプレミアム席にしてもいいかもな。
「えっとね、プレミアム席は前方のソファ席で、ほとんど寝転がりながらプラネタリウムを見られるよ!」
「おお、いいじゃねえか。やっぱそっちにしようかな」
「あと上映中販売っていうのがあって、ラーメンとかうどんを食べながら見られるよ!」
「要らねえわそんなサービス! どうやって寝転がりながら麺啜るんだよ! 汁零れて仕方ねえわ!」
「でもでも、ソーキそばもあるんだよ?」
「だから何なんだよ! 別にそれで心動かされねえよ!」
「オプションで上映中販売無しにもできるけどどうする?」
「無しで頼むわ! 星空に集中させろよ!」
なんだその無駄なサービスは……。リラックスして星空見てる時に麺類食いたくねえよ。もっとなんかアロマ焚くとかサービスのやりようあんだろ。
「じゃ、プレミアム席が1枚ね! お座席にストローはお付けしますか?」
「付けねえって! なんでお前そのボケ好きなの!?」
「ご一緒にポテトはいかがですか?」
「俺別にハンバーガー頼んでねえから! 星見させろっつってんの!」
「それではごゆっくりどうぞ〜」
笑顔の心音に送り出され、シアターの中に入る。薄暗いシアターは雰囲気があって、既にくつろいでいる人がほとんどだ。
俺の席は……ここか。ふっかふかのソファだな。これで星見られんのは素晴らしいわ。さ、癒されるとしますか。
ほどなくしてシアターが完全に暗くなり、ドーム型の天井に星が映し出される。同時にアナウンスが聞こえてきた。
「みなさーん! こーんにーちはー!」
「やかましいわ! そんなテンションでやるもんじゃねえだろ!」
「推しの惑星を叫べー!」
「アイドルのライブ前か! おい絶対心音だろこれ!」
「星見たら癒されるって言うけど、実際カワウソとか見た方が癒されるよね」
「人によるだろ! カワウソなんかそうそう見るもんでもねえし!」
「ていうかなんか暗くない? ミラーボールとかつけていい?」
「台無しにすんなバカ! 星見に来てんだこっちは! クラブみたいになんじゃねえか!」
するとドタバタと慌てたような足音がマイクを通して聞こえてきた。しばらくマイクに何かがぶつかるような音が聞こえた後、大人の男の声でアナウンスが入る。
「皆様、大変失礼いたしました。今の者はクビにしましたので、安心してプラネタリウムをお楽しみください」
あーあ、アホなことすっから。ま、これで余計なやつもいなくなったことだし、ゆっくり星空に癒されるとすっか。




