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【完結】後輩がまた違うバイトしてる〜なんで俺の行先知ってんの?〜  作者: 仮面大将G


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第22話 ホテル

「とんだ新幹線だったな……」


 東京で降りた俺は、今日泊まるホテルへと向かっていた。面接は明日。今日はもう夕方だし、ホテルでゆっくりしたいとこだな。


 慣れない土地でスマホの地図を見ながら歩く俺を、全員が避けていく。え、俺東京でもそんなに目立つの? 避けるほど怖いの? 東京の人は他人に無頓着なイメージあったから、なんか余計ショックだわ。


 そういや東京駅から新宿駅まで来る電車でも、なんか俺の周りだけ誰もいなかったな。思えばあれもビビられてたってことか。悲しいわもう。


 新宿駅西口から15分ほど歩き、ホテルに辿り着く。適当に取ったホテルだから変なとこにあったな。えーっと、『アザホテル』だったっけな。うんなんだこの名前。生きて帰れんのか俺。


 不安になりながらも自動ドアを通ってフロントへ向かうと、元気な女の声が俺を出迎えた。


「いらっしゃいませ〜! 大浴場の利用時間は17時から0時までです!」


「早い早い! まだ何も手続きしてねえだろ! ……ってはあ!? 心音!?」


 フロントに立っていたのは、なんと制服を着た心音だ。おいおい、これは流石に意味分かんねえよ。え、だってここ東京だぞ? 亀風周辺とかじゃねえぞ? なんでこいつがバイトしてんだよ。


「やっほやっほ健人先輩! えらく驚いてるね! 蛍光ピンクのカッパでも見たの?」


「そこまで変なもんは見てねえわ! いやそれにしてもビックリだけどな……」


「ああ、私がここで働いてること? そーだよね! 頭の回転がVAR判定ぐらい遅い健人先輩には理解できないよね!」


「やかましいわ! バカにしすぎだろ!」


 何故か得意気な心音は、偉そうに肘を着いて俺を見上げてきた。ほんとは見下ろしたかったんだろうけど、俺がデカすぎてすまんな。


「じゃあ説明してあげるね! 私駅の売店でバイトしてたじゃん?」


「その後新幹線の車内販売もやってたけどな」


「ああ、あれは無断! 私が雇われてたのは売店だけだよ!」


「何やってんだよ! え、何じゃあお前勝手に新幹線に潜入したってこと!?」


「まあまあ、そういうサイドストーリーは置いといてさ」


「大メインだわ! お前下手したら捕まんぞ!?」


「で、当然売店の社員さんから電話かかって来てクビにされてさ」


「サラッとクビにされんなよ! もっと真面目にできただろ!」


「それでまあ新幹線乗っちゃったから東京に着いちゃうじゃん? でも車内販売の売り子に潜り込んだからさ、亀風に帰るお金無いんだよね!」


「バカすぎねえ!? なんだお前、行動力が具現化した人!?」


「だからここで急遽雇ってもらって、帰るお金を稼いでるってわけ!」


 なんじゃそりゃ……。内容が衝撃的すぎるだろ。え、まとめたら、駅の売店のバイト勝手に抜け出して、新幹線に無賃乗車。そのまま売り子に紛れ込んで勝手に車内販売。東京から亀風に帰れないから、ホテルで雇ってもらったってことか……。うん、まとめても意味分かんねえ。新幹線のトイレに隠れて移動する炎上系外国人みたいなことしてんなこいつ。それよりもやってることのヤバさは上だけど。


「まあ私の話は置いといてさ、健人先輩の手続き済ませちゃおうよ!」


「ああそれはそうだな。なんか記入すんのか?」


「このシートに名前と住所、電話番号と年齢、座右の銘も書いてね」


「そこまで書かなきゃいけねえの!? ねえよ座右の銘とか」


「あるでしょ! ほらいつも言ってるさ、『ワンフォアオールオールフォーワン』だっけ?」


「ラグビー部か! 俺そんなん言ったことあった!?」


「ポジションとかも書いといてよ! プロップだよね?」


「ラグビー部じゃねえから! 俺知らねえよポジション!」


「プロップはスクラムの前列、両端にいる背番号1と3のことだよ!」


「1番デカいやつがやるとこじゃねえか! いやもうラグビーはいいから書かせてもらえる!?」


 よくこんなんで東京で雇ってもらえたなこいつ。適当が過ぎるだろ。てかおい、ほんとに座右の銘書くとこあんじゃねえか。しかも必須項目になってるし。なんでだよ。もう適当に『継続は力なり』とか書いとくか。


「ほら、書けたぞ」


「おっけー! じゃあまずホテルの説明をするね! お部屋が6階の703号室になります!」


「ややこしいな! 階数と部屋番号合わせとけよ!」


「お部屋にはアビリティがございませんので……」


「アメニティだろ! 部屋にアビリティ求めてねえよ! スマホゲームか!」


「ううん、アメニティはあるんだけど、健人先輩の攻撃力を上げたりはできないってこと!」


「ほんとにアビリティじゃねえか! 部屋だからサポートっぽいアビリティなのも無駄に徹底してんな!」


 なんだ部屋のアビリティって。そんな特殊能力みたいなの要らねえから普通に泊まらせろよ。


「大浴場の利用時間は17時から0時までです!」


「さっき聞いたわ! 初っ端に言うからお前が!」


「1階の共用スペースには、干し草を敷いてタイヤをぶら下げてあるお部屋がありますので、ご自由にお使いください」


「俺ゴリラじゃねえから! タイヤで遊ばねえし!」


「あれ、タイヤ引きでグラウンド整備してきた人生じゃないの?」


「ラグビー部じゃねえってしつけえな!」


「朝食ですが、2階にあるレストラン『バインミー』でのビュッフェとなります」


「ベトナムのサンドイッチしか置いてなさそうだけど!?」


「お時間はベトナム時間で朝6時から9時までです」


「ベトナムに合わせんなよ! 時差計算しなきゃいけねえじゃねえか!」


「これで説明は以上です! ま、分かんないことあったら聞いてよ。ゆっくりしてってよね」


「お前ん家か! 言われなくてもゆっくりするわ!」


 エレベーターで6階に上がり、703号室に入る。やっとこさひと息つけるな。スーツ脱いで風呂でも入るか。


 ネクタイを緩めていると、フロントから電話がかかってきた。なんだ?


「はいもしもし」


「健人先輩大変! 助けて!」


「なんだよ心音。何があったんだ?」


「さっき適当に先輩の案内したら、社員さんが見てたらしくて、クビにされちゃっt」


 最後まで聞くこと無く、俺は電話を切った。

 さ、ゆっくりしよーっと。

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