第21話 新幹線
「着いた着いた。何買おうかなあ」
亀風駅から少し電車に乗り、珍しく大きな駅にやって来た俺は、少しだけワクワクしていた。
というのも、俺はこれから新幹線に乗るんだ。亀風近くの企業ばっかり応募してたけど、東京の企業なら俺の内面を見てくれるんじゃないかと応募してみたら、書類選考とオンライン面接を二次まで突破。今日は最終面接に臨むため、これから東京に向かう。
新幹線用の改札を抜けると、弁当屋や売店が立ち並んでいる。これこれ、この感じがワクワクすんだよ。車内で何食うか楽しみだ。
とりあえず近くの売店に行くと、元気な女の声が俺を出迎える。
「いらっしゃいませー! 弁当がらちゃんのグリーティングにお並びの方はこちらでーす!」
「なんだそのかわいくなさそうなキャラは!? せめて中身入れてやりゃ良かったのに! ……って心音!?」
元気良く呼び込みをしていたのは、まさかの見慣れた茶髪ボブ。おいなんでこいつこんなとこにもいんだよ。聞いてねえぞ。
「やっほやっほ健人先輩! こんなところで奇遇だね! 山に帰るの?」
「俺クマじゃねえから! 誰が山出身なんだよ!」
「でも健人先輩爪鋭いじゃん? 新幹線乗れるの?」
「爪以前にそもそもクマが乗れねえだろ! 猛獣だし! ……いや誰がクマなんだよ!」
「やっぱり実家では川で鮭捕ったりするの?」
「舐めんなよお前!」
どこまでもクマ扱いしてくる心音をスルーして売店に入ろうとすると、心音が俺の裾を掴んで離さない。なんだよこいつ。新幹線の時間もあるからさっさと買いたいんだけど。
「ねえお願い健人先輩、弁当がらちゃんのグリーティング参加して?」
「しねえよ!? なんですると思った!?」
「このグリーティングが失敗に終わると、弁当がらちゃんはこの売店のイメージキャラクターから降ろされちゃうの! 助けて健人先輩!」
「助けねえわ! さっさと降りてしまえ!」
「あと健人先輩みたいなジャックコングがゆるキャラと写真撮ってるのって面白いから見てみたい」
「やかましいわ! 誰がキングコ〇グの跡継ぎだよ! 俺はさっさと飯買って新幹線のりてえの!」
ようやく心音から解放され、並んでいる商品を見る。いややっぱさ、新幹線で食うものと言えばカツサンドだよな。他の人はどうか知らねえけど、俺はカツサンド。これが1番旅行感あっていいんだよ。
カツサンドの箱を持ってレジに向かう。箱を店員に手渡して財布を出そうとしていると、再び元気な女の声が聞こえてきた。
「カツサンドが1点ですね! ご一緒に食パンとトンカツはいかがですか?」
「ほぼカツサンドもう1個じゃねえか! なんで作らせんだよ! ……って心音!? お前さっきまであっちにいなかったか!?」
「やっほやっほ健人先輩! カツサンドなんか食べていいの? 主食笹だったよね?」
「パンダじゃねえんだわ! え、俺そんなかわいく見える!?」
「うーん、パンダが真っ黒になった感じ?」
「じゃあクマじゃねえか! もういいわクマは! さっさと会計してくれる!?」
「カツサンドに袋ーはお付けしますか?」
「ストローみたいに言うな! 早く渡せバカ!」
やっとこさカツサンドを手に入れた俺は、新幹線のホームへ向かう。心音のせいで時間ギリギリじゃねえか。間に合ったから良かったけども。
汗を拭きながら立っていると、アナウンスが鳴って新幹線が到着した。
目の前のドアが開いて、小ぶりのスーツケースを持った俺は、いそいそと新幹線に乗り込んだ。ぶら下げるビニール袋に入ったカツサンドが仄かに温かい。
やっぱ新幹線乗る時ってちょっとテンション上がるよな。まあ俺はこれから面接に行くだけなんだけども。
大都会東京を目指して発車した新幹線の車内では、寝ている人や仕事をしている人がぽつぽつ。今日はガラガラだな。隣にも誰もいねえし。ま、この方が快適だわ。
早速カツサンドを広げようとすると、とんでもない失態に気がついた。
「うわミスった、飲み物買ってねえじゃん」
カツサンド単体だと喉渇くよなあ。心音のせいで飲み物まで気が回らなかった。仕方ねえ、車内販売で買うか。
最近は車内販売も無くなっている新幹線が多いけど、幸いこの新幹線にはまだ残ってる。とりあえず回って来たら水買おう。
すると早速車内販売の声が聞こえてきた。
「ジュースにお茶ー、チャイにラッシーはいかがですかー?」
「なんで後半のラインナップインド色強いんだよ! 国間違えたかと思うわ! ……ってはあ!? 心音!?」
意味不明の車内販売に振り返ると、ワゴンを押しているのはなんと心音。なんでだよ。あいつ駅の売店にいただろ。
「やっほやっほ健人先輩! さっきぶりだね!」
「お前なんで車内にいんだよ! 売店はどうしたんだよ!」
「まあまあそこはいいじゃん! で、なんか要る? チーズナンとか?」
「だからなんでラインナップインドなの!? そんな腹に溜まるもん要らねえって!」
「おかわりも自由だから、遠慮なく食べてね?」
「インドカレー屋か! あれおかわり要求されすぎて腹いっぱいになんだよ!」
「でもインドカレー屋って大体ネパール人がやってるよね」
「だから何なんだよ!」
もうインドのくだりはいいわ。早く水買って、心音にはご退場願おう。
「とりあえず水もらえる?」
「はいはーい! ミネラルウォーターとガンジス川の水どっち?」
「ガンジス川の選択肢撤廃しとけよ! ミネラルウォーターで頼むわ!」
「ミネラルウォーターにカ〇ピスの原液はお付けしますか?」
「じゃあカ〇ピスになんだろ! 水だけでいいわ!」
「お会計800円になります!」
「高級レストランか! 高えなおい!」
なんとか水を手に入れると、信じられないアナウンスが聞こえてきた。
『ご乗車ありがとうございました。間も無く終点、東京です。お忘れ物、落し物の無いようご注意ください』
「おい東京着いちゃったじゃねえか! お前がだらだらしてっから!」
「たはぱら☆」
「せめててへぺろだろ! なんで全部母音『あ』に変換したんだよ!」
結局何も飲み食いできなかった俺は、急いで新幹線を降りた。




