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第12話 寝具店

「うーん……。なんか寝覚めが悪いな」


 最近、朝起きた時の気分がすこぶる悪い。どうにも体が痛くて、起きた瞬間からバキバキだ。


 まあこの布団もうっすいしなあ。そろそろちゃんとしたベッドに変えるべきか。下宿も今年で終わりだけど、社会人生活に向けて寝具を一新しておくのもありだな。

 よし、今日はベッドから何から見に行ってみっか。


 バキバキの体を起こし、身支度をして外に出た。


「ここか……。初めて来たな。いいベッドがあるといいんだけど」


 寝具店に入ると、元気な女の声が俺を出迎えた。


「いらっしゃいませ〜! 番号札お取りになってお待ちください〜!」


「市役所か! 全然混んでねえだろ! ……って心音!? お前どこにでもいんな!」


「いやいや、そこは市役所じゃなくて郵便局でしょ!」


「どっちでもねえわ! ここ寝具店だろ!」


「あーそーだったね! 忘れてた忘れてた! じゃ、そういうことで〜!」


「引っ込むな引っ込むな! 俺を処理しろ!」


「え〜? 仕方ないなあ。で、誰と寝たいの?」


「1人だわ! 何俺そんなクズ男に見えてんの!?」


「どっちかって言うとデカ男だよね」


「やかましいわ!」


 心音はにやにやしながら俺のことをつま先から頭のてっぺんまで見る。なんだよ。そんなじろじろ見られる格好してねえだろ。


「健人先輩が寝られるベッドなんてある? 上半身丸々はみ出しちゃうじゃん」


「そこまでデカくねえよ! あとせめて上半身をベッドに乗せさせてもらえる!?」


「で、どんなベッドがいいの? 天蓋付き?」


「プリンセスか! そんなファンシーなベッド求めてねえよ! なんかこう、普通に寝心地がいいベッドねえの?」


「煮テビチがいい結構?」


「言ってねえよ! 煮たテビチの味知らねえし! 寝心地がいいベッド!」


「ああそう言ってたんだね? もうはっきり喋ってよ! 次同じことしたら耳もぐよ?」


「俺そんな悪いことした!?」


「んー、寝心地がいいのねえ……。そうだね、あっちのとかどうかな?」


 そう言うと心音はスタスタと奥に向かって歩き出す。お、今回は珍しくちゃんとベッド紹介してくれんのか?

 と思ったらどんどん奥に行って、バックヤードを抜けて外に出た。は? 何してんだこいつ?


「ほらこれとかどう? ふかふかの草だから寝心地はいい方だと思うよ?」


「いや草じゃねえか! 何お前俺が普段草で寝てると思ってんの!?」


「え、うん。だって動物園のゴリラとかそうしてるじゃん」


「ゴリラはな!? 俺ゴリラじゃねえから!」


「え? マウンテンゴリラと人間のハーフアンドハーフじゃないの?」


「ピザみたいに言うな! 俺体の半分マウンテンゴリラじゃねえから!」


「ああ、ニシローランドゴリラ?」


「ゴリラの種類で怒ってねえわ! ちょ、いいから店戻れよ!」


 俺がそう言うと、心音は渋々といった感じで店まで引き返す。そりゃそうだろ。なんで俺草で寝なきゃいけねえんだよ。ていうかそもそも何しれっとバックヤード通らせてんだよ。客だぞこっちは。


「じゃあちゃんとベッド紹介するね! これとかどう? ふかふかだよ!」


「おお、確かにこりゃふかふかだな。いいマットレス使ってんのか?」


「マットレスって言うか台湾カステラだよ」


「台湾カステラじゃねえか! なんで俺カステラの上で寝んだよ! 四六時中甘い匂いして腹減って仕方ねえだろ!」


「枕は何カステラがいい?」


「カステラから離れてもらえる!?」


「じゃあこっちのティラミス枕を……」


「ごめん俺が悪かったわ。スイーツから離れろ!?」


「じゃあスイーツが不快にならないように離れようね」


「スイーツのパーソナルスペース知らねえよ! もっと離れろ!」


 すると心音はまたスタスタと歩き出し、大きな鉄のベッドの前で立ち止まった。おお、これならいいんじゃねえか? 丈夫そうだし、サイズも十分。俺にピッタリじゃねえか。


「このベッドなら文句無いでしょ? 体重重めの健人先輩でも安心の鉄骨!」


「そうだな。これなら俺でも安心して寝られそうだわ」


「ああでも健人先輩って湯船なみなみにできるぐらい寝汗かくんだっけ? 鉄骨錆びちゃうかもね」


「そんな汗かかねえよ! 俺起きたらミイラななってんだろ!」


「先輩の場合はミイラって言うよりレーズンじゃない?」


「俺ブドウじゃねえから! お前今日俺のこと雑にいじりすぎじゃねえ!?」


「じゃ、ベッドはこれでいいね。枕はどうする?」


「聞けや!」


 心音はまたスタスタと歩き出し、枕コーナーへ向かった。棚に様々な枕が置いてあり、これなら俺に合う枕もありそうだ。


「じゃー健人先輩に合う枕を選んであげるね! パスタかラーメンどっちがいい?」


「ごめん何の話!?」


「いやだって蕎麦殻だと普通じゃん? パスタかラーメンしか置いてないんだようちの店」


「変な店だな! え、まじでそのどっちかしかねえの!?」


「うんそうだよ? ほら早く選んで?」


「うーん……。じゃあどっちかって言うとパスタか?」


「おっけー! ペペロンチーノでいい?」


「よくねえよ! ソースかけんな! ニンニクの匂いで眠れねえわ!」


「もう、ワガママなんだから! 仕方ないからこの低反発枕にしてあげるね」


「普通のあんじゃねえか! 最初からそれ出せよバカ!」


「じゃあお会計するね! 今日はテイクアウトでよろしいですか?」


「当たり前だろ! 誰が店内で召し上がるんだよ!」


「ベッドにデザートはお付けしますか?」


「付けねえよ! 何が選べんだよそれ!」


「今だと〜、台湾カステラですね」


「台湾カステラは要らねえわ!」


 なんとかお会計を済ませて外に出ようとすると、奥からおばさんが出て来て心音に何か叫んでいる。どうしたんだ?


「ちょっと心音ちゃん! 私が今日デザートに買ってきた台湾カステラ、なんでベッドに入ってるのよ!」


「え!? それは、え、えーっと……」


「あなたねえ、人のデザートを売り物に入れるなんて何考えてるの! 店長に言ってクビにしてもらいますからね!」


「ええ〜!?」


 心音は泣きそうな顔で俺の方を見るが、俺は背を向けて外に出た。ま、ふざけすぎた代償だな。精々反省するこった。

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