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3.疎まれる王子

 初夜翌日の昼は、国王夫妻、ソアン王太子、そしてバージリウス王子とアンリーゼが集まって共に食事を取ることになっていた。

 アンリーゼはバージリウス王子の息子であるソアン王太子に直接会うのはこれが初めてである。

 バージリウス王子がマリー前妃を深く愛していた話は有名で、それだけでも再婚相手として名が挙がった令嬢達からは尻込みされてしまい、中々話が纏まらなかった。そこに愛した女性の残した子供まで見せてしまえば、一層令嬢達から相手にしてもらえないと考えた国王夫妻が、初夜を迎えるまでは花嫁にソアン王太子の姿を見せないと決めていたのだ。


 アンリーゼは候補令嬢リストの最後の方だった。

 アンリーゼにいたっては、結婚の話が来た時にすんなりと結婚に承諾した。

 見目麗しく、伯爵家の令嬢であるアンリーゼには、かつてもちろん婚約者がいた。だが、その婚約者は寄宿学校で知り合った男爵家令嬢に入れ込んでしまい、アンリーゼは難癖付けられて一方的に婚約破棄されてしまったのだ。婚約破棄をされた時期も最悪で、学業を終え、周りも次々と結婚をしていく時だった。それゆえに、新しい婚約者を見つけるにはすでに遅く、おまけに婚約破棄をされた問題のある令嬢というケチもつけられていたので、舞踏会に足繁く通っても常に壁の花で、誰からも結婚の申し出などなく、そればかりかダンスの申し出すら貰えなかった。王子の候補リストも最後の方だった理由はここにある。

 もしもリストの最初であれば、即結婚を申し受け、国王夫妻が子供が王子の結婚の障壁になると危惧することはなく、ソアン王太子とも結婚前には交流が出来ていただろう。こればかりはアンリーゼが一人密かに無念に思っている事だった。


 バージリウス王子にエスコートされダイニングルームに入ると、国王夫妻とソアン王太子が楽しそうに和気あいあいと話をしていた。

 だが、バージリウス王子とアンリーゼの姿に気づくや否や、国王は黙り、王妃は眉根を潜め、ソアン王太子も無言になる。


「お待たせして申し訳ありません。父上、母上」

「新婚なんだから、もっとゆっくりでも良かったのよ。孫と水入らずの時間が増えて楽しかったですし」


 王妃はバージリウス王子と目も合わせずに会話をしている。彼女の瞳に映るのはソアン王太子だけ。王妃とバージリウス王子の会話はどこか寒々しかった。


 国王は長テーブル中央最上位の上座に座っており、王妃とソアン王太子の対面にアンリーゼとバージリウス王子は座った。


 国王がアンリーゼに向かってワイングラスを掲げると、昼食会が始まった。


「まずはアンリーゼ、よくぞ王家に嫁いでくれた。心から礼を言おう。これからはベルローズと共にソアン王太子を支えてくれ」

「私も王家に受け入れて頂き身に余る光栄でございます。ソアン王太子の第二の母になれるよう努力いたします」


 だが、ソアン王太子がぽそりと呟く。

 

「母は……一人だ」


 ソアン王太子はアンリーゼを見ようともしなかった。そして息子のソアン王太子に、父であるバージリウス王子の方がどこか遠慮がちに声を掛けていた。


「ソアン、何もマリー妃を忘れろと言ってるわけではないよ。ソアンにとってマリー妃が母である事には変わりはない。アンリーゼは君に誠意を尽くそうとしているんだ。そんな言い方は良くない」


 だがソアン王太子はテーブルの一点を見つめたまま、父であるバージリウス王子に何も返事をしない。それに対してバージリウス王子も何も言えない様子だった。そして国王夫妻も不貞腐れている王太子を諌めようとしなかった。

 

 ダイニングルームが無音となった。


 王妃は扇子を自身の顔の前で開くと席を立ちあがる。隠しきれていない目元は眉間に深い皺が出来ている。


「ベルローズを見て食事など私にはやはり堪えられません。昼食は部屋でソアンとゆっくりいただきます」

「仕方ない、そうしなさい」


 国王は王妃の心ない言葉を咎める事もなく、むしろ仕方ないと片付けた。

 

 アンリーゼはこの場の理解に苦しみ、繰り広げられる不協和音に悪酔いしそうだった。

 

 社交界の大きな規模の舞踏会では、国王夫妻とバージリウス王子が参加する事もあった。なので、たまに王家の様子は見掛けており、親子関係はとても良好に見えた。特に王妃はバージリウス王子を自慢の息子といった様子で愛情深く接していた記憶しかない。

 

 何がどうなればここまで親子関係が拗れるのか。しかも、子供が親に反抗するならまだしも、親の方が子を拒絶するとは、少し歪さを感じる。

 これも全てマリー前妃の死が原因なのだろうか? 前妃の死はこの城にとても深い悲しみを招いただろうが、王家という家庭を壊す程の出来事だったのだろうか?


「食事が不味くなったな。昼食はやはりいつも通り自室で取るか」


 国王まで立ち上がりダイニングルームを出て行く。ソアン王太子もいつの間にか王妃と共に消えていた。

 

 バージリウス王子は儚げな笑みをアンリーゼに見せた。


「アンリーゼ、見苦しいところを見せてすまないが、我が家は元々自室で各自食事を取る。君も部屋に戻ってくれて大丈夫だよ。すぐに部屋に昼食が準備されるはずだ」

「それなら、私は殿下の部屋で一緒に食事をしてもよろしいでしょうか?」

「私の部屋で?」

「ええ、私の部屋でも構いません。とにかく、ご一緒に食事は取りたく思います。私達は結婚までにお互いを知る機会に恵まれませんでしたので」

「そう……。では、私の部屋で」


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