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1.結婚披露パーティー

 トレンヴァニア王国の結婚披露パーティーは、並の貴族が開くものとは違い、それはもう贅を尽くした豪勢なものであった。誰がいるのかもわからない程の出席者数や、周辺諸国の珍しい料理が所狭しと並ぶビュッフェテーブル。奏でられる曲もオーケストラ並みの人数で演奏しており、これから始まる花婿と花嫁のファーストダンスをより一層楽しみにさせる。


 そして、そのファーストダンスを踊る二人が今、大広間中央の大階段に現れる。右上方から降りて来るのはレンバート伯爵令嬢アンリーゼ・リンドール。艶めくブラウンの髪は天使の様な柔らかいウェーブが掛かっており、アクアマリンの様な瞳と、ぽってりとした官能的な唇をしている。歩く姿は堂々としているが、あまりに胸を張りすぎて、肩の力を感じずにはいられない。

 

 アンリーゼの視線の先、対面した階段から降りて来るのは、この国の王子バージリウス・ベルローズ・トレンヴァニア。肩まである光り輝く黄金の髪を後ろで一つに纏め、涼し気な目元に温かみのあるアンバーの瞳、その甘いマスクに淑女は皆溜息を漏らす。

 バージリウスは感情の読めない表情で大階段中央踊り場まで歩みを進めて立ち止まり、腕を差し出して一歩遅れた彼女の到着を待つ。

 アンリーゼも一足遅れて踊り場に着くと、バージリウスから視線を逸らして、そっと彼の腕に手を添える。


 麗しい王子と令嬢が大階段を揃って降りて来る姿は、まるでおとぎ話でも見ているようで、階下から二人を見上げる貴族達は皆胸を高鳴らせて二人の姿に魅入ったが、時折、いやかなりの頻度で哀れみの声が混じっていた。


「かわいそうに……」

「しっ、聞こえる」

「王太子は今でもマリー前妃を想われている」

「もう王太子の地位と公爵位はご子息に譲位されたでしょ」

「そうだった。地位をこんな早い時期から譲られるほど、前妃の忘形見が大切なのね……」

「バージリウス王子は息子の為に結婚するんだろ? アンリーゼ嬢はいわば乳母代わりだ」

「ご子息は今年でおいくつでしたっけ?」

「七歳だよ。前妃が亡くなられて二年だ」

「七歳の子供が継承権第一位の王太子で、寄宿学校も卒業して成熟した王子が第二位(スペア)とは……」


 ダンスホール中央まで来た二人は向き合い、ファーストダンスの体勢に入る。


 バージリウスは片方の手をアンリーゼの腰に回し、もう片方の手で彼女の手を握る。

 アンリーゼもバージリウスの腰に手を回し、繋がれた手を握り返した。


「ご存じの通り、私は一度結婚をしており、前妃との間に息子ソアンがいます」

「はい、存じております。殿下と大恋愛の末に結ばれたマリー妃殿下と、お二人の愛の結晶であられるソアン王太子殿下ですよね」


 曲が始まり、二人はゆっくりとステップを踏み出す。


「私にはすでに王太子の地位はなく、王太子領も手放している。そして子供の為に結婚をすることを承知の上で受け入れてくれたアンリーゼ嬢には、心から感謝している」

「もったいないお言葉です」


 ゆったりとしたロマンチックな曲に乗り、二人はぴたりと身体を寄せ合いながら踊り続ける。ふいに視線が絡み合うと、アンリーゼはバージリウスの温かなアンバー色の瞳に吸い込まれ、胸が熱くなるのを感じた。

 覚悟していた予想とは違い、バージリウスからは自分への気遣いと優しさを感じる気がする。自分の夫となる男性からそんなものを感じれば、淡い期待を抱かずにいられなかった。


「愛を与えられる自信はないが……生涯大切にする」

「……それは……光栄でございます」


 急に強い重力で期待が引き戻された。

 

 やはり、愛はマリー前妃に捧げられ、私には与えられない。アンリーゼは改めて納得し、最初に嫁ぐと決めた時の通り、この結婚に愛を期待しないようにと心に言い聞かせた。

お読みいただきありがとうございます。ブックマーク、評価、感想など頂けたらとても嬉しいです。全21話約4万字の短編小説です。お楽しみ頂けたら幸いです。

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