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放課後心霊クライシス ~花園学園七不思議~  作者: 霧南
第三章:音楽室のピアノの怪
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■2■ 10月6日(月) 大宮幸恵

 寧音と別れて、男子寮に向かう道すがら。


「ねえ、優耶……」


 そう言って優耶に話しかけようとした時、外灯の下に一人の女生徒がいるのが見えた。両手で鞄を持ち、静かに佇んでいる。どうやらその場から動く気はなさそうだ。


(おっと……)


 優耶に言いかけた言葉を止める。優耶との会話を聞かれると、独り言をつぶやいている怪しい男子生徒に見られてしまう。


 手早く女生徒のいる外灯の横を通り過ぎようと思うと、自然と早足になった。


「春日賢先輩」

「えっ?」


 急に名前を呼ばれ、思わず振り返る。その場にいたのは先ほどの女生徒一人だけだった。


「……もしかして、僕のこと呼んだ?」


 襟元のスカーフに目がいく。若草色ということは、おそらく一年生なのだろう。


「はい、呼びました。春日先輩にお伝え……いえ、忠告したいことがあるので」


 両耳をすっぽりと覆い隠し、ふんわりとボリュームのあるショートカットの髪。雰囲気は大人しそうだが、きりりとした目、言葉をためらわない口調からは、芯のしっかりした性格が読み取れる。ただ、まったく見覚えのない子だった。


「忠告? 君は一体……」

「私のことはどうでもいいでしょう……と言いたいところですが、気になりますよね」


 視線を上ずらせながら頬に指をあて、しばらく逡巡した後、女生徒は僕に視線を戻す。


「……ここで私に会ったこと、誰にも言わないと約束していただけるのでしたら、名前をお教えしますが」

「えっと……どうして会ったことを秘密に?」

「余計な詮索をするなら、名前は教えません。忠告だけして帰ります」


 間髪を容れず言い切る少女。


「あっ、ごめん、詮索はしないっ! 詮索はしないから、名前だけでも教えてくれないかな?」


 名前も言わずに言いたいことだけ言って去られたら、ものすごいモヤモヤが残るに決まってる。


「そうですか、ありがとうございます」


 その女生徒は無表情のまま礼儀正しくお辞儀をする。なんかちょっと調子狂うな……。


「私の名前は大宮(おおみや)幸恵(さちえ)。幸せの恵みと書いて幸恵、素敵な名前でしょう? この制服を見て分かる通り、花園学園高等部の一年です」


 もったいぶった割にはサラサラとためらいなく自己紹介する。ついでにさりげなく自分の名前を自画自賛してる。


「僕は春日賢……って、君は僕のことを既に知ってるんだよね?」

「キミ、ではなく幸恵です。せっかくサービスして名前を教えてあげたんですから、私のことは名前で呼んでください」

「あ、うん、そうだね、幸恵ちゃん」


 完全に会話の主導権を握られてしまったな……。


「それと先ほどの質問の答えですが、回答はYESです。とある人から春日先輩の話は聞いていたので、先輩のことはある程度存じ上げています」


 後輩から存じ上げるなんて言葉を使われたのは初めてだな。


「そっか……それでその幸恵ちゃんが、僕にどんな忠告を?」


 とある人って誰?と思ったが、伏せているということは明かしたくないんだろう。詮索をするとまた何か言われそうなので、聞くのはやめておいた。


「忠告します」


 一呼吸おいて彼女は続ける。


「……花園学園七不思議に関わるのは、もうやめてください」


 僕の顔を正面からまっすぐ見て彼女は言い放った。


「それは……理由を聞いても?」


 流石に理由も添えずにやめろと言われて「はいそうですか」と返答するほど物分かりがいい僕ではない。


「理由は簡単です」


 僕に向けた視線をまったく動かさず、その少女……幸恵ちゃんは続ける。


「七不思議に関わるのは危険すぎるからです。悪いことは言いませんから、これ以上関わるのはやめてください。先輩がたには荷が重すぎます」


 幸恵ちゃんはきっぱりと言い切った。


「……なるほど」


 この子がどこまで僕たちの活動内容を知っているのかは分からないが、割と詳しいところまで把握しているんだろう。いきなり忠告と言われたので身構えてしまったが、言われてみると至極真っ当な……いや、むしろ思いやりがある忠告だった。


 危険なのは確かだ。荷が重すぎるというのも、反論はできない。実際、もう何度か死にかけてるし……。


「幸恵ちゃんのご忠告は、理解できたよ」

「ありがとうございます。それでしたら……」

「でもね、今後も七不思議の調査は続けるよ」


 幸恵ちゃんの言葉を遮って、僕は自分の意思を伝えた。


「…………」


 僕の返答は予想外だったのか、ずっと無表情だった幸恵ちゃんの表情に、一瞬だけ苛立ちの色が宿る。


「私の話、聞いてましたか? 七不思議に関わるのは危険すぎるんです。下手すれば死にます。今日だって……」


 言いかけて、幸恵ちゃんはハッと口元に手をあてて言葉を止める。思わず口が滑ってしまったといった表情だ。


「今日……?」


 もしかして、この子は今日の音楽室の一件も、どこかで見ていたのだろうか?


 だとすると……。


「もしかして、急に飛んできた護符……あれは君が?」

「……」


 冷静さを取り戻した幸恵ちゃんは、再び表情を消して無表情になる。少しだけ見せてくれた感情の揺らめきだったが、またすぐに表情が読めなくなってしまった。


 でも何となく彼女の意図が見えてきた。


「なるほど。君は僕たちのこと、陰ながら助けてくれてたわけね。それで、僕たちが何度もピンチになってるのを見かねて、こうしてわざわざ忠告しに来てくれた……と」


 僕が言うと、彼女は軽くため息をつき、小さくゆらりと体を揺らす。


「ご推察の通りです。あと、私のことは幸恵と名前で呼んでください。次にキミなんて言われたら、反応しませんから」

「あ、うん、わかったよ、幸恵ちゃん」


 どんだけ自分の名前が気に入ってるんだ、この子は。


「実際、幸恵ちゃんの助けがなかったら、僕たちはみんな死んでたかも知れないしね」

「それなら、どうして花園学園放課後七不思議調査隊なんてものを続けるんですか?」


 真知子以外、みんな長すぎて覚えられない花園アソートの正式名称を、すらすらと口にする少女。この名称は僕ら四人の間でしか使われてないし、最近は僕達四人の間ですら使われなくなった正式名称なんだけどな。


「乗りかかった船っていうのもあるし……」


 どうして七不思議調査隊に参加し続けているのか……その素直な気持ちを自分の中から引っ張り出す。最初は、真知子に半ば強制されての参加だった。でも、今は……。


「危険ということならなおさら、他の生徒達が危ない目に遭わないように、霊能力のある僕たちが対処しないといけないから」

「それで春日先輩が死んでしまったとしても……?」


 無表情ではあったが、おそらくこの子は心の底から僕たちのことを心配しているのだろう。


「死なないように善処はするさ」


 声のトーンを上げ、つとめて明るく言葉にする。僕の言葉を聞くと、彼女は小さく嘆息した。


「……春日先輩の考えはよく分かりました。でも、私は忠告しましたからね」

「ああ、ありがとう」

「それと、最初にお話した通り、私のことは他の方々に他言無用でお願いします」

「了解、分かったよ」


 言ってから少し気になることがあり、言葉を続ける。


「でも忠告するなら僕より真知子の方では? もともと七不思議調査隊なんていうのをやろうと言い出したのも真知子だし」

「そうですね……単に真知子先輩に忠告しただけではやめてくれませんが、春日先輩が降りるということになれば、真知子先輩も今後の七不思議調査を断念せざるを得ないと思ったので」


 なるほど。これだけの目に遭っていながら真知子が七不思議調査を続けるのは、僕の紫雷炎をアテにしてる側面が大きいってことか。


 それにしても、真知子の性格までよく分かってるんだな、この子。


「それでは、これで話はおしまいです」


 そう言って幸恵ちゃんはスカートの前側をパンパンと軽く手で払うと、再び鞄を両手で持つ。


「もうすっかり暗くなっちゃったけど、幸恵ちゃんは自宅通い? 少し送ろうか?」

「いえ、私は寮に入ってるので心配には及びません。それでは失礼します」


 そう言って恭しく一礼すると、彼女は踵を返し、女子寮のある方へと歩いていった。


(大宮幸恵ちゃん、か……)


 彼女の後ろ姿が見えなくなったのを確認してから、僕は再び男子寮へ向かって歩き出した。

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