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放課後心霊クライシス ~花園学園七不思議~  作者: 霧南
第一章:プールの水の怪
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■2■ 10月2日(木) 花園学園放課後七不思議調査隊

 プール棟から出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。


「そういえば、賢の紫雷炎もすごかったけど、寧音ちゃんもなんかすごかったね」


 荷物を取りに教室へ戻る途中、真知子が寧音に話しかける。


「わたしですか?」

「うんうん。あの光る薙刀みたいなの……あれっていったい何なの?」

「あの刀は、霊薙(れいなぎ)と呼ばれるもので、わたしの霊力を薙刀をイメージして具現化させたものなんです」

「それって、霊を倒すことが出来たりするの?」


 引き続き真知子が聞く。


「ええ。除霊ということで滅することもできますし、浄霊……あるべき世界に戻すこともできます。ただ、浄霊は霊の側にも元の世界に戻る意思がないとできないので、できる状況は限られますけど」

「そうなんだー。あの鏡みたいなのも、なんかすごかったよね」

「あれは鏡壁(きょうへき)と呼んでいるものですね。霊の攻撃を直接防ぐこともできますし、弱い霊に対しては忌避効果もあります」


 忌避効果……弱い霊は近寄ることもできなくなるってことか。今回の霊は寧音の前で動きも止まってたし、そこまで強い霊ではなかったのかな。


「なるほどー。こんなに強い霊能力者が二人もいるなら、花園学園放課後七不思議調査隊も安泰だね!」


 真知子は意気揚々と楽し気にスキップする。


「待て待て真知子。あんなに怖い思いをしたっていうのに、まだやんのか? どんだけ太い神経してんだよ」


 乗り気な真知子に対して、和十は顔をしかめる。


「うんうん、まったく。和十の反応が普通だよね。あんな思いは僕ももうごめんだよ」


 僕も即座に同意する。これで反対が二人だ。多数決に持ち込まれても負けることはないな。


「そんなこと言っていいのかにゃー?」


 ピーンと僕と和十に緊張が走る。真知子が猫声になった時は、大抵ろくでもないことを考えている時だからだ。寧音はと言えば、興味津々といった様子で僕たちの会話に聞き耳を立てている。


「な、何……?」


 真知子は動揺する僕をロックオンすると、そっと身体を寄せて、僕の耳元に唇を近づけてきた。


「だいすきなまちこちゃんへ……」


 そ、それは……!


「ぼくはいつも まちこちゃんのことを かんがえています」

「はいはいはいはい、ストーップ!」


 思わず真知子の両肩を強く掴み、引き離す。


「きゃっ♪」


 可愛らしい声をあげて真知子は言葉を止める。なんて可愛らしい声をした悪魔なんだろう。


 真知子の言葉……あれは小学生低学年の頃、僕が真知子に書いて渡したラブレターの言葉だ。もう十年近く経つし、僕自身も今この場で聞かされるまで、すっかり忘却の彼方へ葬り去られていた。まさか、まだあのラブレターをとっておいてあるなんてことは……いや、この流れだととっておいてあるのだろう。しかも、中身をそらんじることができるほど読み込んでる。手紙を渡した後、真知子から何か返事があるわけでもなく、かと言って距離を置かれるわけでもなく、何事もなく普通に幼馴染として接してきた。そうして有耶無耶のままに忘れ去られ、今日まで仲良く過ごしてきたのだけれど……。


(ラブレターという十年来の切り札を、今ここで切るのか……)


 正直なところ、子供の頃のラブレター自体は既に思い出の域の話だった。今更誰かに話されたとしても、子供の頃の思い出の話として笑って流せるので、大した問題ではなかった。それより大事なのは、この十年来の切り札を使ってまで、真知子は僕を勧誘しようとしているってことだ。


 どうやら真知子はこの七不思議の件について、かなり本気でやるつもりらしい。おそらく、僕と和十が参加しなくても真知子は寧音を誘って七不思議ナントカを続けることだろう。となると、このまま僕も和十も参加せず、他の七不思議で本当に霊現象が起きた場合、寧音は真知子をかばいながら一人で霊と戦うことになってしまう。その展開は、おそらく寧音にとって厳しい戦いになることが予想される。そう考えていくと、紫雷炎という武器がある僕は手伝った方がよさそうな気がした。


「賢、参加しなよ。兄ちゃんもサポートするからさ」


 なぜそこで優耶が背中を押すのかは謎だけど、どうやら場の流れは僕が参加する方向に向いているらしい。


「……分かったよ、参加するよ」

「ありがとう、賢! それで、和十はどうする?」


 真知子は和十に向き直って聞く。


「俺はやめとくよ。賢や寧音ちゃんみたいな霊能力もないしさ」

「いいの? 学園の七不思議調査なんて、高校生の今この瞬間でしかできないことだよ? この経験は一生の宝物にできるよ? その貴重な体験を、和十は捨てるの?」

「うっ……」


 今この瞬間しかできない……この経験は一生の宝物……和十ってこういう言葉に弱いんだよなぁ。真知子はよく分かってる。


「私と寧音ちゃんと賢、三人だけで青春を謳歌しちゃうよ? 和十だけ仲間外れ、私は寂しいな……」

「……わーったよ、参加するよ、参加する」


 真知子の口車に乗せられてる自覚はあるみたいだけど、それでも釣られてしまう和十。口は悪くても根はお人よしなんだよな。


「やった♪ それじゃあ、花園学園放課後七不思議調査隊、ここに発足だね!」


 嬉しそうにピョンと跳ねる真知子。


「やるのはいいけどよ、その花園学園何たらって、長すぎねーか?」

「確かにそうね……それじゃあ花園アソート、とでもしておきましょうか」

「花園アソート?」


 なんだかお菓子の詰め合わせみたいな響きだな。


「放課後、七不思議、調査隊……アフター・スクール・セブン・オカルト・リサーチ・チームのイニシャルをとって、アソートだよ」


 言いながら、トントンと人差し指で宙を叩き、文字を六つ並べる仕草をする真知子。


「ま、それなら覚えやすいし、いいんじゃねーの?」


 和十もこくりと頷く。


「それじゃあ改めて、花園アソート、ここに結成っ! だね♪」


 真知子は弾むような声で高らかに宣言した。

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