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放課後心霊クライシス ~花園学園七不思議~  作者: 霧南
第六章:部室のラップ音の怪
14/20

■2■ 10月11日(土) 正午

「七不思議調査も、あと一つってところまできたな」


 陸上部の一件が片付いた後、いつもより生徒が少ない学食で、僕と和十はうどんをすすりながら他愛もない話をしていた。今日は半ドンのため、授業は午前中でお終いだ。


「次でいよいよ最後だから、二人とも気を引き締めて頑張ろうね!」


 真知子は単品サラダをテーブルに乗せながら、僕と和十を激励する。普段、真知子はクラスの友達と弁当を食べることが多いのだが、今日は珍しく学食に来ていた。


「頑張るっつってもなあ……って、真知子、昼それだけで足りんのか?」


 和十は真知子のサラダに目を落としながら言う。


「今ダイエット中なの! まったく、和十はいつまで経ってもデリカシーってものがないんだから」

「真知子は体型も顔も可愛らしいんだから、ダイエットなんて必要なさそうだけどな。賢もそう思うよな?」

「……っ!」


 和十の言葉に、真知子が顔を赤らめる。


「……ほんっと、こういうところよねぇ」


 言いながら真知子はつんつんとフォークでサラダをつつく。


「おっ、やっぱりそれだけじゃ足りねーみたいだな。んなら大サービス、この油揚げをやるよ!」

「いらない」


 即座に断る真知子。絶妙に会話がすれ違っているが、相変わらずいいコンビだ。


 僕は二人のやりとりを耳で楽しみながら、静かにうどんを食べ続けた。




……





「じゃじゃ、私はちょっと用があるからお先に失礼」


 先に食事が終わった真知子は立ち上がると、軽快な足取りで学食を出ていった。


「俺たち、本当に頑張ってきたよな」


 真知子の後ろ姿が見えなくなってから、和十はしみじみと言った。


「ホントにね、僕も何度死にそうになったことか」


 七不思議の噂は既に学校中に知れ渡るものとなっていた。新聞部の特集の影響だが、七不思議のほとんどは既に解決済みのため、大きな問題にはなっていない。冷やかしで訪れて何もなかったね、と言って帰る。しばらくすれば自然と鎮火していくだろう。ただ……。


「新聞部が調べた七不思議の七つ目は、やっぱり図書室の女の子の霊になってたね」


 僕の言葉に和十はこくりと頷く。


「でも、真理ちゃん先生は死神のことを知ってたんだよなー」


 保科先生から保健室の依頼を受けた時、確かに保科先生は十三段目という言葉を口にしていた。死神のことも知っているのだろう。


「そうだね。そうなると、真知子の言う死神の話も、あながちデタラメとも言い切れないのかも知れない」


 真知子が情報源を明かしてくれることは稀だ。今回の七不思議に関しても情報源を聞いてみたことがあったが、秘匿されてしまった。


「真知子の情報収集ってマジで謎が多いよなぁ」

「確かに」


 うーんと二人で悩んだが、特に何も閃くものはなかった。


「真知子が何を考えてんのか分かんねーけどさ、ここまできたら、もう最後まで付き合ってやるしかないか」

「そうだね」


 あれこれ考えても何も出てこないので、僕と和十は考えるのをやめて、うどんをすするのを再開したのだった。




……





 学食でうどんを食べ終わった僕は、和十と別れ、保健室に行ってみることにした。


「七不思議の七番目、優耶はどう思う?」

「賢は……。今……それ……」

「優耶?」


 今日は、朝から優耶とうまく会話できていなかった。優耶が側にいるのは感じるし、何かを話しているのは分かるのだが、小さな言葉の断片しか聞き取れず、何を言っているのか全く分からない。まるで別々の部屋で厚い壁越しに話しているような感じだった。霊的な磁場が乱れてる時にはちょくちょく優耶と会話できなくなるが、今日のこの感じは、その時とは少し様子が違っていた。しばらくしたら、自然とよくなるといいけど……。


「保科先生、いるかな?」


 言いながら保健室のドアに手をかける。


「失礼しまーす」


 言いながらドアをあけると、保科先生は机で業務日誌らしきものを書いているところだった。


「あら、春日君。今日はどうしたの?」

「少し話を聞こうかと思って……今はここ、他の生徒はいませんか?」

「ええ。ベッドで休んでる生徒もいないわ。ただ、冷やかしで訪れる生徒はまだ少し多いわね」


 困ったように苦笑する保科先生。


「そうですか。それなら今、大丈夫ですか?」

「えぇ、それじゃあ奥にどうぞ」


 先日と同じく、コの字型に並んだソファに案内される。


 僕は奥の窓際に、先生は手前のソファにそれぞれ座った。


「他の生徒が来ないうちに終わらせたいので単刀直入に聞きますけど、この学園の七不思議の七番目って、出回ってる噂と真知子から聞いた話で内容が食い違ってますよね。どういうことなんですか? 先生も死神のことは知ってるんですよね?」


 僕の質問は予期していたのか、保科先生はあまり動じている様子がなかった。


「春日君たちは既に七不思議のうち六つを解決してるのよね……わたしから話してもいい頃合いなのかしら」

「お願いします」

「まずそうね、十三段目の死神については把握してるわ。死神のいる階段についても、既に封鎖済みよ」


 そう言って、保科先生は真剣な表情になった。


「学園七不思議の七番目……それは本来、知っての通り、図書室の女の子の幽霊だったの。それを青山さんが意図的にすり替えて、春日君、そして竜崎君に教えたというのは事実よ」

「僕と和十に? 寧音は?」

「桂木さんはわたしと同じく、意図的にすり替えられた件については知ってるわ」

「でも、どうしてそんなことを?」


 次から次へと疑問がわいてくる。


「それは、そもそも青山さんが七不思議調査隊……花園アソートって言ってたかしら? それを作った目的が、十三段目の死神を倒すことだったからよ」

「死神を、倒す……?」

「紫雷炎って言ったかしら? 有無を言わさず霊を焼き尽くし滅する業火の炎……これを春日君が自在に操れるようにして、死神を倒す。それがあなたのお兄さんと青山さんの計画だったわ」

「僕の兄って、優耶の?」


 ここに来て意外な名前が出てきて、思わず聞き返す。


「ええ。お兄さんから、死神の話はどこまで?」

「いえ……何も聞いてないです」


 優耶め、僕にずっと黙ってたな。優耶らしいと言えば優耶らしいけど……相変わらずの秘密主義だな。


「失礼しまぁす」


 そう言いながら、一人の女子生徒が保健室に入ってくる。


 もう少し話を聞きたかったが、どうやらここまでみたいだ。


「死神やお兄さんについての詳しい話は、青山さんか桂木さんに聞くといいわ」

「……分かりました」


 真知子はともかく、寧音も死神や優耶と何か関係があるのだろうか。


「それじゃあ保科先生、僕はこれで失礼します」

「ええ、他のみんなにもよろしくね」


 保科先生は笑顔でそう言うと、出入口にいる生徒のところへ向かっていった。


「あらあら、どうしたの?」

「真理ちゃん先生、転んで脚を怪我しちゃったんですぅ、痛いんですよー」

「わたしのことは保科先生と呼びなさい、と言ってるでしょう」

「えへへ、はぁい」


 怪我をした生徒に対応する保科先生に軽く一礼してから、僕は保健室を後にした。

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