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フジコシノリュウ -異世界一〇八人群像叙述詩-  作者: ノムラハヤ
2.吉田竜之助|泣いて、笑って、なんちゃって 〜異世界マーケティング戦略紀〜
44/54

ep.44|乞食が往く|異世界で再就職1 ★キャラ画公開

「どうもどうもすみません、御三方は初めましてですね。私はこういうものです」


 仲裁に入った太った男が名刺を差し出した。



「トゥクーセン公爵家 文化財分科会 第一専門調査課 筆頭調査員??」


 見慣れない文字の並びに首を傾げる竜之助たち。エドモンドは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「要はね、美術品を守るお仕事をさせていただいてるんですわ。トゥクーセンの殿様は文化とか美術に造詣と愛情が深い方でしてな。昨今の文化財の盗難、ブラックマーケットでの売買被害の取り締まり、適切な管理環境になく劣化してしまう美術品の救済。そんな仕事をさせていただいてます。内輪ではカッコつけて『文化の守人』とか呼んでますわ。わっはっは」


 ──突然なんだこいつは? 役人? 文化庁みたいなことか? エドモンドの顔色が悪いってことは、こいつは俺たちにとってポジティブな要素ってことか? ちょっと面白くなってきやがった。


挿絵(By みてみん)



 新しい人物の登場に警戒し、戦略を練り直す竜之助。目的は変わらず、ミコノが作って納品した琵琶の売り上げを最大化することだ。そんな思慮を竜之助が巡らせている中、カクゾウが言葉を続けた。


「で、エドモンドさん。美を商いにする人間として、不当な評価を押し付けるのはいかんですよ。職人さんあってこその我々なんですから。もう一度見て見なさいよこの楽琵琶を。うっとりするような出来じゃないか」


「──わ、わかってますよ旦那! そういうつもりじゃないですよ! 嫌なら全然、この取引、うちはやめてもらってもいいんだ。ただこいつらが、『もう買い手がついてるモノ』をくれって無茶を言うんで話し合ってただけじゃないですか!」

 

 苦しい言い訳をするエドモンドにカラマルが小さく呟く。


「……怪しいもんだ」


「……なんだとガキ!?」


 ──徐々にエドモンドの化けの皮が剥がれてきたようだ。そしてどうやら、このカクゾウとか言う役人の前ではエドモンドも無茶はできないらしい。もう一押しだな……。こういった類のやつは絶対に正規の料金は払わない。詐欺師というのはそのようにできている。他の高価そうな品物を見定めてそっちがいいと言っても、さっきみたいに難癖つけて譲らないだろう。そんなのはわかってる。俺だってそうする(笑) と、いうことで……


 こうなることが予想できていた竜之助は次のアクションに移る。


「──いやあエドモンドさん! 無茶ばかり言って申し訳ない。ではこうしましょう。あそこの……店の端に置いてあるカゴがあるじゃないですか」


 竜之助はポスターのような半紙が束になって無造作に丸められたカゴを指差す。


「ああ……あれはUTAGAWAブランドの浮世絵だな。あれも上等なものだよ!人気作品の一枚刷りをセットにしてみたんだ! ん?! あれがいいか!? あれにするか!?」


「そうですね……あれなら、1枚1枚の単価も安そうですし……楽器を買いに来た方についでに手に取ってもらう形で、我々の店子でも取り扱いできるかもしれません!」


「そうだな! きっとそうだろう!」

 竜之助からの打診に前のめりに反応するエドモンド。


「ただ、エドモンドさんちょっとご相談なんですが……この版画たち、1枚1枚はさっきの茶碗よりも価値が低そうじゃないですか……? なので、不躾なのですが……カゴごといただくってことでいかがですか?」


「もちろん! もちろんだよ! 素晴らしい出来の琵琶だったしな! そうしよう!そうしてあげよう! いやあ決まった決まったよかったよかった」


 慌ててミコノに握手を求め、版画を包むように店員に指示するエドモンド。


 ──カラマルやカクゾウは不審な顔でこちらを見ている。きっと相場を知っている人間からしたら、いい取引ではないのだろう。エドモンドも「これで話がまとまるのであれば!」という姿勢が全面に出ちゃってるもんな。カクゾウも見ていることだし、エドモンドは急いでこの場を納めたいはずだ。行こう、このまま行っちゃおう。大丈夫。見えてるから。俺にはその束が、()()()()()()()()()見えてるから。



* * *



 取引を終え、カクゾウらと共に店を出る一行。


「いやあ、カクゾウさんでしたか? 改めまして、私は九尾音楽堂の竜之助と申します。先ほどは助け舟を出してくださいましてありがとうございました。」


「いえいえこちらこそ……あの店は……いろんな意味で定期的に訪問させていただいているんですよ。僕はたまたま居合わせただけだから」


 ──薄らと笑い、カクゾウはこちらに過剰な恩を売ってこなかった。ひょっとしたら裏の意図もない真摯なお役人様なのかもしれない。そしてお国の美術品取扱のお役人様ってことは、美術商界隈にそれ相応のツテがあるんだろう。そう思うとこれは暁光だよ。このビックチャンスを逃す手はありませんよ。


「兄ちゃん、ちゃんと説明してくれよな! こんな大量生産の木版画なんて、いくらにもならないんじゃないか?!」


 カラまるは竜之助の袖をつかみ猛抗議する構えだ。


「まあ待てってカラマル少年──カクゾウさん、ここでお会いしたのも何かのご縁。ちょいと私たちにお付き合いいただけませんか? 面白いものをお見せしますよ。あとこの辺で、絵画や版画の目利きがちゃんとしてて、信頼できる美術商のお店があればご紹介いただきたいんですが」


「……ふふふ。なんだか面白そうですな。いいでしょう」



 カクゾウの案内で近くの美術商に向かうことになった一行。


 カラマルは依然として不機嫌な顔をしているが、ミコノは上品な笑みを浮かべている。


「さっきのエドモンドさんとのやりとりは思わず笑っちゃいました。竜之助さん、この後も楽しみにしてていいんですよね?」

 竜之助がニヤリと笑うと、ミコノも不敵な笑みで応じた。


 ──常識知らずのお嬢様型職人さんかと思っていたら、どうやらそうでもないらしい。天女様は案外肝っ玉が座ってるのかもな……いや、違うな……肉体系清掃業者様たちから俺を守ってくれた時は、悪鬼が乗り移ったかのごとく大気を震わせていたなそういえば……うん。気を引き締めよう。もう一勝負だ!


 版画の束を見つめ、竜之助は気合を入れ直した。



Character File. 31

挿絵(By みてみん)


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