ep.42|乞食が往く|VS ダンディーアート2 ★キャラ画公開
異世界に来て初めて、それこそ清水の舞台から飛び降りるつもりでものすごい決意を固めた。俺の新しい人生の役割は、この姉弟への恩を返すこと。現代日本のマーケティング知識と、この不思議な『なんだか良さそうなモノと悪そうなモノがわかる眼』で2人を、いや、3人で幸せになるんだ!
改めて空に向かって拳を固める竜之助。
うん、後半にかけてグダついてしまったけれど、改めて言語化するとそんなところだろう。いやしかしこれは大きな前進だ。今思うと俺はこの3ヶ月を無為に過ごしまくっていた。祭りのど真ん中に転移させられて、「祭りを台無しにする気かなんだお前はあああ」と怖い兄ちゃんたちに追いかけられて、そのまま川に落ちて、乾かしていた服を盗まれて、武士みたいなやつに斬られかけて、そのままスラム街にお世話になって残飯漁って毎日泣いて……
そういえばあの光のような存在も言っていたじゃないか! 「力を授けよう」とか「龍の力を君に」とか「共に歩もう!」とかそんな感じのポジティブなメッセージをくれてたじゃないか。この不思議な力と現代知識で、俺はこの子たちと新しい一歩を踏み出すんだ!
「──お兄ちゃん、ごめん。ブツブツ言ってるところ申し訳ないんだけれど……」
申し訳なさそうに竜之助の一人芝居を止めるカラマル。
「ん? どした!? まずは販売戦略を固めなきゃな! いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように! 君たちはマーケティングというものを知らなさすぎるのが問題であってだな──」
得意げに熱弁する竜之助をカラマルが両手で制する。
「うん、ありがとう。きっと色々考えてくれてて本当に嬉しいよ。僕たちは負けているもんね。問題だよね。でもね、まずはエドモンドのやつのところに一緒に行って欲しいんだ。あいつが嘘をついてたり、現物支給しようとしたら、それを止めて欲しいんだ!」
「あ……負けている、じゃなくってマーケティングと言ってですね──」
「竜之助さん、どうか私からもお願いします……」
ミコノの丁重なお願いに言葉を詰まらせる竜之助。
「ああ、うん。そうですね、まずはエドモンのところに行かなきゃいけないですよね、はい」
無表情で頷く竜之助。
異世界マーケターの道のりはまだ遠いようだ。
* * *
今回納品予定だという新作の琵琶を何面か持って、エドモンドという美術商のところに行くことになった。
マーケティング概論は一先ずお預けのようだ。いいんだ。彼らが俺を必要としてくれるのなら順番なんて。まずはこの「不思議鑑定」で暴いちゃおうじゃないか! 悪徳商人の嘘を! 許し難きその愚行を!
──改めて気を取り直し、イエドの町を歩く竜之助と狐の姉弟。
ここイエドの町はトゥクーセンという公爵家が治める大規模都市だ。聞いた話ではこの国最大の商業都市らしい。確かに、文明レベルは19世紀かと思わせるこの世界だが、日本の中途半端な地方都市なんかよりは全然賑わってる。人口も多い。亜人なんて人種もいるし、魔法が使えるってことで、あっちの世界とは全然違ったユニークな発展を遂げている。
例えばこの道路だ。コンクリート技術はなさそうだが、その代わりに土魔法とやらが使われている。道は無駄な水分が抜かれ乾燥し、さらには押し固められたような硬度を実現している。さすがに全部の道ってわけではないが、この技術により主要幹線道路は太く整然としていて、交通網は高いレベルで発展している。なんだか変な乗り物が猛烈なスピードで走っている。
そして公衆衛生の発展も見逃すことができない。これは水魔法を使っての水源の確保による上下水道の発展と、浄化魔法を使った高水準の浄水処理が目を引く。現代の水道局さながら、公爵家が周辺設備と魔法使いの人的リソースをセントラル管理して、水道代のような税金を徴収する仕組みまでできてる。
ここら辺のとんでも魔法テクノロジーを活かして異世界おもしろマーケティングができると楽しそうだなあ。なんだ! 俺の前途は明るいじゃないか! 神様仏様、いや、ミコノ天女様! 俺を救ってくれてありがとう!!
時折思い出したようにニヤニヤする竜之助を見ながらカラマルは不安にかられている。
「この人……本当に大丈夫そうかな……」
「──着きましたよ」
深い息を吸ってミコノが緊張した面持ちで店の前に立った。看板には「ダンディーアート」と書いてある。これも魔法テクノロジーで再現しているのだろうか、コンク打ちっぱなしのようなモダンな外観は商店街の中でも一際目を引く。敷居が高そうな現代アートギャラリーを思わせるこの店が、今回の目的地のようだ。
「──おお! ミコノちゃんにカラマル君! よーく来たね! そんなところでなーにしてるの入って入って!」
示し合わせたように暖簾をくぐり、店主と思しき男が出てきた。カラマル少年の事前説明によるとこいつが諸悪の権現、天女様特製手作り琵琶叩き売り粗悪品錬金マシーン、悪徳美術商ことエドモンド・ダンディだろう。
変なところで言葉を伸ばすのがいかにも胡散臭い。銀座界隈にいる背広でキメた紳士風悪徳画商を想像していたが、どうやら脳内に修正をかけねばならないらしい。その風貌は明らかに六本木系だ。ラフなコーデに身を包み、実は全身ブランド品、実態不明の朧月、幽玄独歩、曖昧模糊な港区IT系に違いない。シャンパンとナパワインを毎晩煽っているイメージがビンビンに伝わってくる。よし修正は完了だ、どんと来い。
異世界に来て自分を救ってくれた姉弟の困難を打ち払う。竜之助は自分の使命に燃え、最初のクエストにその闘志を燃やしている。
Character File. 30
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