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フジコシノリュウ -異世界一〇八人群像叙述詩-  作者: ノムラハヤ
1.藤野謙吾|友情、成長、死化粧 〜異世界六十夜冒険譚〜
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ep.29|幕間|皇都学術院大学のとある授業風景4

「ハロハロー! 今日もめっちゃこんにちゃ☆ リリルラ先生の時間外特別授業始めるよおー! 今日も授業を受けるのは……テラスちゃん一人だけだねよろしくねー(笑)!」 

 いつものように元気に授業を始めるリリルラ。


「……はーい」

 爪をいじりながら低いテンションで返事をするテラス。


「はいはーい! ……時にテラスちゃん、お味噌汁は好きですか?」

 唐突に尋ねるリリルラ。


「急だなあ(笑)……うーん、私はやっぱりベーシックにワカメとお豆腐かなあ。でもこれはこだわりがありましてですね……お出汁を入れた後にお豆腐を入れてから45秒、その後にわかめを入れて15秒、そして素早くお味噌を溶かす。ここまで来たらもう、すぐにでもいただきたいですね! お豆腐がぐずぐずに、ワカメの食感が無くなるとか許せませんね!!」

 いつになく熱弁するテラス。


挿絵(By みてみん)



「ふむ……合格です。合格。あなたにこれから陰陽五行の極意の一つを伝授しましょう。その味噌汁愛に敬意を表しましょう……」

 神妙な面持ちのリリルラ。


「味噌汁トークが極意に繋がるのなんで(笑)」

 嬉しそうツッコミを入れるテラス。


「そもそも『陰陽五行』とは……世の理を『陰』と『陽』で考える『陰陽説』と、『木・火・土・金・水』の5つの要素で考える『五行説』が合わさってできたものです。」

 いつになく真面目なリリルラ。


「まずは陰陽説について──森羅万象は隠と陽に分けられ、陰陽のあり方によって様々な事象を説明することができます。陰陽とは相反する2つのもの、例えば男と女、昼と夜、太陽と月、動と静、表と裏……それぞれがお互いにバランスをとりながら常に変化し、片方があるからもう一方も成り立っている、そんな二元論の考えに基づいた事象の循環を表現しています」

 鋭い目をしながら話し続けるリリルラ。


「……これはマジな時の顔だな」

 緊張感に怯えるテラス。


「そして五行説──五行の法則は『相生』と『相剋』からなります。木が擦れて火が発生し、火が燃えて灰を経て土になり、土の中には金属が埋まっており、鉱脈の近くには水源が流れ、水は木を育てるのです。これらも時計回りに循環を示します。」

 黒板に図式を描き始めるリリルラ。


「……木→火→土→金→水→木」

 熱心に書き写すテラス。


「そして『相剋』。木は根を張り土を抉り、土は水を堰き止め、水は火を消し、火は金属を歪め、金属は木を倒すという、それぞれの要素に対しての位置報告の矢印が表現でき、これにより先ほどの『相生』の循環図と重ねると、陰陽五行の象徴、我らが陰陽殿のシンボル五芒星の形が形成されるわけです」

 黒板を文字と図で埋め尽くすリリルラ。


「……水剋火、火剋金」

 熱心に書き写すテラス。


「そして五行にはさらに21種の要素が配当されています。色、季節、方角、味、臓腑、志、星……色がわかりやすいですかね。火は赤色、土は黄色、金属は白に輝き、水は黒……水は青じゃないかって? 違います。水は同時に方角で言うと北、時間で言うと夜を表現するため真夜中の海の色である黒と表現され、ただこれが転じて紫色でも表現ができます。五色の短冊、五色の吹き流し、幕、素麺、糸、様々な五色を使った品物が愛されているのは、五色が揃うことが森羅万象を表現し、それぞれを相剋することで最強の魔除け、転じて縁起がいい状態を表現するからですね」

 黒板を五色に染めていくリリルラ。


「……っ」

 ノートへの書き留めが追いつかずに焦るテラス。


「さあ本題です。テラスさん。あなたはご飯をいただく時、ご飯茶碗と汁椀はそれぞれどちらに配膳しますか?」

 問い詰めるような顔のリリルラ。


「……えっ……と……ご飯が左で汁物が右です」

 思い出しながら答えるテラス。


「そうですね。これを反対にしてしまうと『夷膳』。礼を欠く配となり忌み嫌われます。ではそれはなぜなのか? 我々皇国人にとって米は格別の主食であり、古くから大切にされてきました。稲は神様から賜ったありがたい食べ物であり、神の依代となり八十八の神様が宿ると信じられている、我々の文化の象徴のような食材です」

 真っ直ぐにテラスを見つめるリリルラ。


「──はい」

 背筋を伸ばし答えるテラス。


「陰陽説では左を陽で尊いと見做し、右を陰で卑しいと見做します。主食で神が宿るご飯を左に、そして水とも対応する陰である汁物を右に配膳するのです。我々の生活に根ざしたほとんどの事が、実はこの、陰陽五行の慣わしにより説明ができます。普段何とも思っていないことには、古の人々が築いた森羅万象のロジックが息づいているのです」

 教科書を閉じるリリルラ。


「──はい」

 背筋を伸ばし直すテラス。


「……」

 無言のリリルラ。


「……ん? 終わりですか?」

 不審に思うテラス。


「終わりです」

 キッパリと答えるリリルラ。


「あの……陰陽五行の極意は……?」

 戸惑うテラス。


「ご飯と味噌汁の配膳以上に大切なことはありますか?」

 遠い目をするリリルラ。


「あの……極意ってもっと──」

 食い下がるテラス。


「終わりです」

 遠い目をするリリルラ。


(そりゃセイメイさんに叱られるわな……)

 呆れ顔のテラス。



 皇国最高学府の放課後はまだまだ長い──


すごく真面目な話でした!


ここまで読んでいただいてありがとうございます。ブックマークと☆のワンクリックが本当に励みになります! 楽しんで読んでいただけるように頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたしますmm


※Xでキャラと遊んでいます。ぜひこちらもお立ち寄りください

@fujikoshinoryuu

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