ep.20|モリア家|明かされる陰陽五行の力3
この3日間、テオとアコシアは謙吾の宿に入り浸っている。
二人はマザイからの連絡を待つという名目で、謙吾が元いた世界の話を、少年少女のように目を輝かせながら聞いている。まるで続きが気になる冒険譚のように。
「──しかし面白いなあ‼︎ 並列世界という考え方はこっちにもあるが、まさにそれだな。この世界の可能性が別の道を辿っただけで、そんなに常識が変わるのか⁈ 進化の可能性……考えただけでムズムズワクワクしてくるなあ‼︎」
テオの声は興奮に震えている。
「ケンゴ君、さっき話していたソレンとアメリカの冷戦の話なんだけど……」
アコシアも負けじと問いかける。
(この人たち……マザイさんよりも寝食を忘れているんじゃないか??)
「──テオさん、アコシアさん、ちょっと休憩しませんか……?」
謙吾が何度目になるかわからない休憩の要望で、止まらない2人の口撃を静止しようとしたその時──部屋のドアがノックされる音が響いた。
意外にもそれはマザイからの進捗連絡ではなく、当主アンティコス・モリアからの登城命令だった。
使者は「明日登城せよ」という簡単な要件だけを伝えて部屋を去っていった。
──アコシアは不安げに呟く。
「マザイ先生もいらっしゃるということだけど……何かわかったのかなあ?」
「親父からの呼び出しかあ……なんか嫌な予感がするなあ……」
テオも同様に、不安を隠せない様子だ
二人の質問攻めから解放されるという安堵が勝り、謙吾は登城に向けた緊張が嘘のようになくなってる事に気づいた。
(……もう当主様にはお会いしたくないと思ってたんだけど、この止まらない質問攻めよりはマシかもな笑)
明日の登城は、自分の置かれた状況を、この世界でのレール作りを、確実にどこかに向かっては進めることになるのだろう。異世界人であるという自分の素性を明らかにした謙吾は、どこか清々しさを感じていた。
(鬼が出るか蛇が出るか……)
心の中で、新たな展開への期待と一抹の不安が入り混じり、謙吾の胸を締め付ける。
* * *
前回も訪れた城の広間で、当主アンティコスとの謁見が始まった。
壁には古の英雄たちであろう肖像画が並び、荘厳な空気が流れている。謙吾、テオ、アコシアの3人が指定の席に付く。当主の横には、マザイとマラミ、そして数人の高位の大臣と思わしき人物たちが控えていた。部屋の空気は、ただならぬ緊張感に包まれている。
──そんな中、マザイが軽く咳払いをし、重々しく口を開いた。
「改めまして、謹んで、客将のケンゴ・フジノ殿の調査結果をお話しさせていただきます。内容が内容ですので、一部の皆様にのみお伝えしたく、お集まりいただきました」
マザイの言葉が部屋に響くと、全員がその先を聞こうと身を乗り出した。窓の外では、微かな風の音だけが静かに流れている。
「まず初めに、ケンゴ・フジノは、この世界のパラレルワールドと思われる世界から転移してきた異世界人です。転移時に、超常の力を取得しています。その力は、この世界の理の一つ、『陰陽五行』を象徴する力です」
この世界の常識を覆しかねない話であろうに、一つ一つ丁寧に、そして力強く断言していくマザイの言葉を、誰もが息を呑むように聞き入っている。
「皇都の『陰陽殿』と連絡を取った所、ケンゴ氏がこちらの世界に転移し、テオ様と邂逅した同日に、彼が出現した際と同様の現象が皇国内で他に四つ観測されています。あの日、ケンゴ氏を含む五つの光の柱が観測された事になります」
窓の外の鳥のさえずりが一瞬途切れる。まるで自然すらこの話の重要性を感じ取っているかのようだった。
「イーストのフジワラ領に黄色、ウェストセントラルのトゥクーセン領に赤色、イヨノスに青色、クノシスのウェス領に白色、そしてここ、ウェストのモリア領に紫色の光です。尚、クノシスには白い光と共に降臨した者の存在まで確認できています。クノシスはまさに魔族と戦争中の地域です。その紛争の中で、その者はすでに驚異的な力を見せ、魔族の殲滅とウェス家の戦線維持に大きく貢献してくれているようです」
部屋の隅で、誰かが微かに息を吸い込む音が聞こえた。マザイの言葉の一言一言が、全員の胸に深く刻まれていく。
「また、その者の右手にも、ケンゴ氏と同じく、五芒星のが浮かび上がり、その力が宿っていると報告されています」
この言葉に謙吾は一瞬、自分の右手を見下ろした。それを横目にとらえながら、マザイは続ける。
「──その者の名は……テッペイ・ノリジマ」
「鉄平さんだ!」
謙吾の心に喜びが広がった。ついに仲間の所在が具体的にわかったのだ。
「マザイさん! 他のみんなは⁈ 紗英はどこに⁈」
謙吾の問いかけも虚しく、マザイは残念そうに首を振りながら答えた。
「ケンゴ君、すまんが現時点で国や陰陽師連が把握しているのは、クノシスのテッペイ・ノリジマと、ここにいる君の存在だけだ……」
謙吾は天を仰ぎ、希望と不安を交錯させる。
「テッペイ・ノリジマとケンゴ氏の2例だけなのでまだ心許ないですが、転移してきた異世界人5名は、ケンゴ氏の仲間であり、またそのそれぞれが、神々の力ともいうべき超常の力を携えてこの世界に降臨したといって間違いないでしょう」
窓の外で風が木々を揺らし、その音が部屋に微かに響く。謙吾の心の中には、仲間たちの姿が鮮明に浮かんでいた。紗英、鉄平さん、詩乃さん、竜之助さん……彼らもまた、どこかでこの異世界の運命に巻き込まれているのだ。
「陰陽師頭のマドとセイメイとも話をしました。魔族と紛争中の皇国として、魔族と相対する特別な五行の力を有する彼ら5人の出現は暁光であり、早急に国と陰陽師連で保護する方向で方針がまとまりそうです」
──謙吾は混乱しながらも必死に思考を巡らせ、マザイの重要な発表に集中してその内容を整理していた。
(鉄平さんはクノシス? にいて、現地の人たちと一緒に魔族と戦っている。紗英、詩乃さん、竜之助さんの転移先は特定されているけど、まだ国の保護下にはない……僕たちは全員、超常の力を持ってこの世界に転移した……)
思考の途中で、紗英の笑顔が鮮やかに蘇える。
(紗英を……探さないと……!)
謙吾が顔を上げ、口を開こうとした瞬間、マザイが手を上げて謙吾の発言を制した。
「ケンゴ君、焦る気持ちは分かる。探したい仲間がいるんだろう? まあ待て。君の力をもっと解明するには、皇都にいるマドとセイメイの助けを借りるべきだ。彼らは国の陰陽師集団のトップであり、五行に関して最先端の理論を研究している。幸い、彼らもこの話に乗り気だ。彼らと協力することで更ににわかってくることもあるだろう」
マザイの声は落ち着いていて、その言葉には引き込まれるような自信が滲んでいる。
「そして知っていると思うが、皇国は今、魔族の脅威にさらされている。君たち5人の居場所を早急に特定し、保護し、その力を借りることが皇国の国益にもつながってくるのだ。最終的には我々が総力を挙げて君たち5人を探し出し、皇都に集結させる。我々には君たちの力を借りたいという明確な目的がある。だからこそ、我々が君たちの不思議な力を解き明かし、その存在を保護するという対価を支払えるんだ。君たちにとって悪い話ではないだろう?」
マザイが冷静に続ける。
「この世界のことを知らないケンゴ君が自力で、闇雲に、計画性なく探すよりも、陰陽師連といつでも連絡が取れる今の環境に身を置き、新しく入ってきた情報を元にそこから動き出す。そのほうが効率的じゃないかね?」
謙吾はその言葉に反論の余地がないことを理解し、自分の無力さに悔しさを覚えながらも小さく頷いた。
深く息を吸い込み、心を落ち着ける。仲間たちとの再会の可能性が具現化すると同時に、この世界で果たすべき役割の輪郭が見え始めたことを理解した。
ついに仲間の話が出ました!謙吾君よかったね!
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