ep.2 プロローグ2 ★キャラ画公開
バスが富士山五合目の駐車場に到着すると、外の空気は予想外の冷たさを帯びていた。紗英はバックパックから慌ててパーカーを取り出す。
「12度だって、ひええーー」
紗英は寒さに震えながら声を上げた。
6月の空は寒色に染まり、季節を裏切る冷気が肌を刺す。まるで異邦の地に迷い込んだかのような風景の中、駐車場にはひときわ目を引く存在があった。
リュウからの事前の約束通り、そこには鮮やかな黄色のFJクルーザー。車の横では3人の大人たちがコーヒーを片手に談笑している。
その様子はどこか暖かく、謙吾はすぐにそれが彼らだと分かった。1年程、オンラインで交流してきた仲間たち。謙吾はこれが初めての対面だった。
(あれだ! 絶対あの3人だ! うわ……声かけるの緊張するよ……)
ようやく出会えた色鮮やかな仲間、尊敬する大人たちを前に謙吾は思わず体を硬直させる。そんな興奮と緊張が同居する謙吾を尻目に、紗英は迷わずお得意の挨拶を彼らへ投げかける。
「あの人たちだよね⁈ こんにちはーー!」
物おじしない紗英の元気な声で、富士山五号目の空気が一気に暖かくなっていくようだった。
(さすがコミュ力おばけ……)
謙吾は紗英を心の中で称える。
「──こんにちは! もしかして謙吾君と紗英ちゃん⁈ 初めまして、会いたかったです!」
紗英の挨拶に最初に答えたのは、チームの紅一点『SHINO』だった。
彼女の真っ直ぐで温かい出迎えにさらに場の空気が和んでいく。
「え⁇ 謙吾君? こっちが噂の彼女? うわー! 奇跡の美少女女子高校生だ‼︎」
明るく、そして無遠慮に続けたのが『リュウ』。
紗英はその言葉に顔を赤くしながらも、ケラケラと笑っている。
「バスでの長旅お疲れ様!」
一際体格の良い男性が最後の挨拶を締める。
その頼もしい様子から、謙吾はすぐに彼が元自衛官の『軍曹』だと分かった。
──紗英はリュウの誤解を笑い飛ばしながら爽やかに挨拶を重ねる。
「皆さん初めまして! 私だけゲーム仲間じゃないので、先にちゃんと自己紹介しますね。私は越野紗英、都内の私立高校に通う高校2年生で17歳です。この金髪はこないだの春休みに染めてみました(笑)! 謙吾とは幼稚園の頃からの幼馴染で、今日はアウトドアデートだと思ってます。よろしくお願いしまーす!」
「ガッハッは! 元気な自己紹介ありがとう! そこのカフェで温かい飲み物でも買おう! 改めて自己紹介しながら今日の作戦を確認して冒険に出発だ!」
紗英の唐突な自己紹介にも、見事な包容力で応じる軍曹。
「二人のアウトドアデートを邪魔するみたいでなんか悪いわね(笑)」
「SHINOさん何言ってるの!? これはアウトドアデートじゃなくって冒険だよ(笑)!」
SHINOとリュウも軽快に会話を繋げ、初めて集まったとは思えない暖かい空気が流れていく。
遊びも仕事も一生懸命、謙吾には彼らが一際魅力的な大人に映った。
これは、ただの遊びの延長でありながらも、日常の連続のそれではない。
謙吾はこれから始まる冒険に心を躍らせている。古代王朝の謎を追うという、非日常の空気に駆り立てられている。
古代の神秘が、彼らの前に広がる未知の扉を、そっと開けようとしていた。
* * *
一行が富士山の樹林帯を抜ける小道を歩き続け、既に3時間が経過していた。
談笑しながらの緊張感のないハイキングの中で、風に揺れる木々の音が静寂を誘い、ここは人の通らない富士北麓であることを思い出させる。インナーの中にひっそりと汗が滲むのがわかる。
「──次の休憩では、昼食を楽しもうか!」
「さんせー! 汗だくー!」
「疲れたー! はらぺこー!」
軍曹の提案に紗英とSHINOが元気に答え、全員が頷いた。
古びた地図と現代の地図を見比べながら、たわいもない話で盛り上がりつつ、神秘的な山道を進む。足元には、遥か昔の人々が歩んだであろう石畳が、ひっそりと息を潜めていた。
謙吾が学校の教室で思い描いていた大冒険とは違い、穏やかな空気が流れている。
──ここまでの一番の盛り上がりは、古地図が薄汚れて見えなくなっている箇所に立つ、怪しい石像の分岐を、紗英のインスピレーションに従って、石畳が続く方へと歩を進めた時だったろうか。
「……このまま山道をいくか、それともこっちの石畳か……」
「せっかくだから、こっちの道にしましょう!」
「だよね! 石畳! 雰囲気あるよねー!」
元気な紗英と軽快なリュウとのやりとり。
冒険の緊張感ではなく、親しい仲間との暖かいひと時が流れ、謙吾の顔も思わず綻ぶ。
──その後も何事かがあるはずもなく、謙吾たちの富士山探検が進んでいく。
そんな中、唯一の理系脳であるSHINOがポツリと言った。
「なんかさっきから、気温もそうだけど、植生もちょっと変わったかなあ……」
──『舞阪 詩乃』は都内の某有名農大で講師を務めている。
「年齢は……君たちの倍もないよ(笑)」
紗英の質問に、詩乃は答えをはぐらかした。
紗英は好奇心に身を任せ、先ほどから詩乃を質問攻めにしている。
「身長はいくつなんですか⁈」
「それについてはしっかりとお答えできます! 170センチ、です!」
「おおー! モデルさんみたい!」
紗英の小さな拍手に、詩乃は照れながらも嬉しそうだった。
「ねえ謙吾聞いた⁉︎ 詩乃さんは北海道出身でご実家は米農家をやられてるんだって! だから好きな食べ物は『塩おむすび』なんだって(笑) デキ女で超美人なのにギャップが素敵すぎるよぉ」
紗英が無邪気に仕入れた情報を大声で共有する。
「紗英ちゃんに褒められるなんて光栄だわ(笑) でもねえ……勤め先の大学には若い子かおじいちゃんしかいなくって、切実に出会いがないの……せっかくのお休みもこうやって冒険に出ちゃうしね。友たちに今日のことを言ったら、もう呆れられたわ(笑)」
「出会いより冒険優先の詩乃さんカワイイ(笑)」
詩乃は綺麗なおでこに八の字の皺を寄せ、紗英と一緒にケラケラと笑っている。
──詩乃を先導するよう歩いているのは『吉田 竜之助』
「あ、詩乃さんここ滑るんで気をつけてくださいね!」
先ほどのお返しとばかりに紗英が竜之助を茶化す。
「さっすが広告代理店の人! 美女には優しい!(笑)」
詩乃もこの空気が嫌いではなさそうだ。
「竜之助君は私と違ってモテモテなんじゃないのー? イケメン、高身長、高収入なんて周りがほっとかないでしょ?」
「そんなことないっす! 彼女は常に募集中! それでも冒険、最優先(笑)!」
竜之助は人懐こそうな笑顔を振りまき、紗英とは違う形でこのメンバーのムードメーカーになっている。
「博識で頭の回転が早そうなところとか、謙吾と似てるんだよなあ……あーあ、謙吾がこんな大人になったらちょっと嫌だなあ……」
「あ、紗英ちゃん⁈ 今のは悪意があるなあ(笑)」
「私、人たらしに騙されるなよって、叔母さんに言われてるんだ(笑)」
「素晴らしい叔母さんだと思うけど……悪意があるのは変わらないね!」
紗英と竜之助のリズミカルな会話が続いていく。
──そんな軽口を叩く一行の最後尾を歩くのが、元自衛官『則島 鉄平』
軍曹というニックネームは伊達ではないようで、今日も迷彩が入った服を着て、しっかりとした足取りで一行を見守っている。
鉄平は現在、実家の町工場を継いで社長をしている。こんな体躯でありながら、ミリ単位で鉄を削る仕事をしていると、カフェでは笑いながら丁寧な自己紹介をしていた。
「さあ! ここで休憩にしようか!」
そんな鉄平の、まるで引率の教師のような声が響く。
全員が顔を上げ、待ち望んでいたかのようにザックを下ろした。皆、それぞれが見つけた場所に腰を下ろし、疲れた体をゆっくりと伸ばしていった。
「あー疲れた!」
「普段は研究室に篭りっきりだから、ほんとにいい運動!」
「飯食いましょう! 飯!」
待ち侘びた休憩に各々が羽を伸ばす。辺りには木漏れ日が降り注ぎ、さわやかな風が葉を揺らしながら心地よく頬を撫でていく。
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紗英は人懐っこくて可愛いですね(^^)
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