ep.13|モリア家|ワミ鉱山奪還戦4 ★キャラ画公開
一行がワミ鉱山内の中央広場に到着すると、ペイディアス隊がすでに陣を構えていた。
「あれ?? どうして俺たちより先に着陣してるの??」
テオは兄が率いる一隊の行軍の速さに驚かされた。
なんと彼らのルートでは、ほとんど魔獣に遭遇しなかったのだという。
鉱山入り口では異様な数でケンゴを襲撃し、鉱山内でも直線的に突進を重ねてきた魔獣たち。その不可解な動きにより、結果としてテオ隊がほとんどの魔獣を殲滅してしまったらしい。
「──昨夜のジャクレインもそうだった……魔獣はケンゴを本能的に攻撃対象としている、とでもいうのでしょうか……」
「魔獣がケンゴを狙う理由があるとすれば、そこには何か特別な力や意志があるのかもしれないな……」
アバスの問いに答える形で、テオも考えをまとめていく。
その様子をケンゴはどこか他人事のように見ている。この不可思議な現象の中心は、自身にあることを理解できていないように見えた。
「軍学校では習わなかった事ばかりです……魔獣が特定の個体を忌避するケース……城に戻ったら『マザイ先生』に話を聞いてもいいのかもしれません」
アコシアは道中に書いていた記録を見返しながら、改めてこの異常性に困惑している。
「マザイ先生か……ちょっと苦手なんだよなあ(笑)」
テオは苦笑いしながらアコシアの出した名前を繰り返した。
モリア家はセキ二五家と呼ばれる陰陽師集団を家臣に抱えている。その中でも変わり者で有名なのがマザイ・セキだ。
マザイが発表したのは「魔力と魔法の源でもある『四元素の力』と、主に陰陽師たちがその術式に組み込んでいるこの世界の自然の理『陰陽五行の力』は、相対し、時に反発する」という考え方だ。
そもそも魔力を形成している魔素自体が自然の中に組み込まれており、それを世界の理と区分してしまうこと自体がナンセンスな発想であるとして、世間一般には全く受け入れられていない。
軍学校でも優秀な成績を納めたアコシアは、恩師が提唱したそんなとんでも理論も当然、頭の中に入っているのだろう。ただ現実として、そんな「常識とかけ離れた理論」と近い事態が発生しているのだ。
(五行の線から考えると辻褄が合うのかもしれないな……)
──考察を進めていくテオの思考をペイディアスが遮る。
「考えすぎると疑念が増え、疑念が増えると恐れが増す。お前らも物騒な仮説はそこまでにしておけ。彼がケンゴか? 今朝の軍議でテオがその有用性を熱弁していたが……この行軍ではどうだったんだ?」
改めてアコシアが鉱山入り口からの一連の状況を報告すると、ペイディアスは満足そうに頷いた。
「興味が尽きないな……だがまずは計画通り、改めて狩り残した魔獣がいないか小隊に分かれて捜索することが先だな」
ペイディアスはモリア家の長兄であり、尊敬できる実直な指揮官だ。そんな頼れる兄に諌められ、テオたちも答えの出ない自問を止め、改めて任務に集中する。
──そんなペイディアスの言葉が終わった矢先、轟音が鉱山内に響き渡った。
鉱山が崩れ落ちたかのような衝撃に、アコシアが思わず身をすくめる。地面が揺れ、巨大なミミズのような物体が地表を裂き、その巨体を現した。
「『サンドワーム』だ!!」
誰かが叫ぶように魔獣の名前を口にする。その巨大な口から無数の牙が覗き、光の揺らめきと共に、影が不気味に広がる。混乱と共に全員の緊張感が一気に高まる。
「全員散会! 絶対に直撃は避けろ!」
ペイディアスは迅速に指示を飛ばし、騎士たちが機敏に陣形を整える。
「前衛は注意して対象を引きつけ! 後衛は射撃の準備を整えろ! 無駄な動きをするな、各自の役割を果たせ!」
全員が戦闘体制に入る最中も、ペイディアスの指揮は続く。
サンドワームはその巨大な体をくねらせながら、地面を震わせるように動き回り、その度に岩が砕け、砂塵が舞い上がる。その口から覗く無数の牙が光を反射し、不気味に輝いている。騎士たちはペイディアスの指示に従い、各々の位置を確保しつつ、サンドワームに向けて攻撃の機会をうかがっている。
砂埃で徐々に視界が遮られていく中、サンドワームが鋭く頭を持ち上げ、ケンゴに向けて突進した。
「ケンゴ! ぼーっとするな!」
アバスがケンゴの手を引いて叫ぶ。
ケンゴはサンドワームのうねる動体を、ギリギリのところで身をよじるように避けた。
──突進が空振りに終わった魔獣の巨体は、一瞬の隙を見せる。
「今だ、全員一斉に攻撃!」
ペイディアスの声が響き、騎士たちは一斉に動き出す。
魔獣の巨体が地面を行き来し、激しい振動が鉱山を巡る中でも、一瞬の隙を伺っていた騎士たち。彼らの連携は見事であり、待ってましたと言わんばかりに剣、斧、弓、魔法、次々と攻撃を加えていく。
「……装甲が硬いです! 有効ダメージ観測できません!」
騎士の一人が叫ぶ。
サンドワームの外皮はまるで鋼鉄のように頑丈で、その表皮にしか攻撃が通っていないようだった。暴れ回るそのスピードも尋常ではなく、捉えようとする騎士たちの動きをあざ笑うかのように、地面を震わせながら進み続ける。
「──アバス!」
テオの声が響き渡り、その瞬間、アバスは集中を深める。
「マッドチェイン!」
アバスの声が静かに響き魔法陣を描く。魔法が発動するとサンドワームの動きが明らかに鈍くなる。魔獣が蠢いていた地面が緩く液状化し、深い泥の中に足を取られたかのように、その巨体はもがき始めた。
「シルバーインテシオ!!」
続けて、ペイディアスの右手から巨大な銀の矢が出現し、まばゆい光と共に一直線に放たれた。銀の矢は風を切り裂き、まるで閃光のようにサンドワームの長い脇腹の一部を貫いた。その矢は後方の石壁までも貫通し、深く突き刺さっている。
──魔獣はこの世のものとは思えない叫び声を上げるが、依然として戦意は衰えていない。
「ちっ、捉えきれないな……」
ペイディアスは仕留めきれない悔しさを滲ませ、眉間にしわを寄せた。
アバスの固有魔法で魔獣の動きを封じ、貫通力のあるペイディアスの固有魔法との連携で仕留める作戦は、サンドワームの異常なスピードがそれを許さなかった。
「──ケンゴ! 避けろ!」
のたうち回るサンドワームは、その巨体を捩じらせながら再びケンゴに向かって突進してきた。彼は瞬間的に目を見開き、全身の筋肉を緊張で固くする。
「……この力が、本物だというのなら、やれるはずなんだ!」
ケンゴから強い意志を宿った言葉が紡がれる。
ケンゴは唾液を帯びたおぞましい魔獣の口中を見据え、剣の柄に手を置いている。そして、普段の彼の様子からは、想像がつかないほどの力強い咆哮が聞こえた。
「うおおおおおおおおお!!!!」
その声は洞窟内に響き渡る。ケンゴの右手には五芒星が浮かび上がり、紫のオーラが立ち昇る。そのオーラは闇のように濃く、周囲の空気を重く染めた。
──振り上げらた剣は淡く紫色に光ながら巨大な衝撃波を生み出し、サンドワームを真っ二つにした。
天井には一閃の剣戟が残り、その場の騎士たちは息を呑んだ。ペイディアスは目を見開いて驚愕している。
サンドワームの断面からは生温かい蒸気が立ち上り、その異臭が鼻を突いたが、洞窟内にはケンゴの放った壮絶な一撃による静寂に包まれていた。
「──ケンゴまたやってくれたなー!」
テオが笑顔でケンゴに抱きつき、その静寂を破る。
「テオさん、俺、強いのかもしれない……」
ケンゴは確かめるように呟いた。
その声には、これまで抱えてきた疑念や不安が晴れたかのような清々しさがあった。
ペイディアスは驚きを隠せない様子でケンゴを見つめながら、静かに言葉を紡いだ。
「こいつは……すごいな……」
Character File. 11
ペイディアス兄さん、無骨な感じで好きです。
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