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華麗なるデビュー戦 #3

「フンだ! 目立たないからって見ようとしなかったんだから、自業自得でしょ!」


 消えていく緑の魔法少女に、はとりんが得意気に笑う。


(はとりんだっけ、このナースっぽい子、あの三人の仲間じゃないから、むしろ両方削れたらラッキーって感じだったんだ! でも……だとしたら、向こうだってあたしがやられたら、次は自分がターゲットになるわけだから、あたしを生かしたままあいつらの攻撃の盾にしながら、あの二人を攻撃しようとするはず。だったら、それに乗っかって先にあの二人を片付けよう!)


 そう決めると、莉愛は素早く近くの黄色い魔法少女に猛然と襲い掛かる。突然の仲間のリタイアに戸惑っていた彼女は隙だらけだ。容易に斬りつけることができた。やはり二割くらいゲージが減った。


(こっちに近づいておけば、少なくとも仲間のもう一人は攻撃してこないはず!)


 莉愛はちらりともう一人の仲間であるピンクの魔法少女の方を振り返り確認すると、すぐさま大きく剣を振りかぶり力を込めて黄色の魔法少女の追撃にかかる。だが、黄色は読んでいた、とばかりに大きくバックステップで躱し、距離を取る。


「そんな大振りな攻撃、ウチには通じんし! 死ね! コルポ・ディ・フルミネ!」


 ようやく余裕を取り戻し、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、剣を空振りした莉愛を杖で指した。さっきのよりも激しい電撃が彼女の杖の先から莉愛に向かって迸る。


「うぇっ⁉ なんかさっきより大きい! けどむしろラッキー!」


 莉愛はやや驚きながらも、慌てず大きく横に飛んで、黄色の電撃魔法を躱す。


「えっ⁉ きゃああああ!」


 莉愛が躱した電撃は、莉愛の後ろでナースと魔法を撃ち合うピンクの魔法少女目がけて飛んでいく。彼女は突然のことに躱すことも防ぐこともできずにただ悲鳴を上げるばかりだった。まともに被弾したピンクのゲージはほとんど残っていなかった。


「あっ⁉ ゆりあ、ゴメン! ウチ、そんなつもりじゃなくて!」


 思わぬ同士討ちに慌てふためく黄色の隙を見逃さず、莉愛が再び黄色に攻めかかる。


「ふふん、狙い通り! 同士討ち、ご苦労様!」


 大きく飛んで斬り下ろし、斬り上げと連続で攻撃を決める。ようやく同士討ちのショックと、大きな魔法を使った後の硬直から抜け出した黄色は防ごうと慌てて杖を構える。だがそんな雑な構えでは莉愛を止められない。莉愛は冷静に、彼女の構えの隙をついて剣を更に振るう。


「そんな……新人に利用されるなんて……」


 信じられない、といった顔で莉愛を見つめて、黄色の魔法少女が崩れ落ちた。

 一連の試合の動きに会場から大きな歓声が上がる。


「エアステン・ブリック!」


 その歓声に紛れて、突如呪文を唱える声がした。莉愛の背後から大きな岩が降り注ぐ。


「くっ! どうして……⁉」


 驚き息をのんだのは、莉愛ではなく呪文を唱えたナース風の魔法少女、はとりんの方だった。


「ピンクの子はさっきの電撃を食らった時はまだ戦ってたわけだから、あなたはまだやられてなかった、って事だよね。ならピンクに止めを刺した後、あたしの隙をついて襲ってくるだろうって。悪いけど、ここまで来て負けるわけにはいかないから!」


 莉愛はぱっと振り向くと、岩をかいくぐり最後の一人、ナース風魔法少女のはとりんに向かって突進する。そして走る勢いに乗せて剣を振るった。大技を撃った後にはシステム上隙ができる。その状態のはとりんに避けることは出来ず、莉愛の攻撃を受け続けるより他になかった。


「嘘……完璧なタイミングだと……思ったのに……」


 はとりんの身体が力を失い、アリーナに崩れ落ちた。


「勝者! アキリア‼」


 闘技場内に勝利宣言のアナウンスが響き渡ると同時に、虚空に勝者であるアキリアの名前が浮かび上がった。

 わっと観客席から歓声が上がる。予想を外した賭博者たちの間からは怨嗟の声や舌打ちが上がったが、それも些細なものだ。大多数は不利なスタートからの彼女の勝利をたたえる声だった。アイドルの応援席の中にも、新しいヒロインにそわそわし、乗り換えを画策する声も密かに上がっていた。


(うわー、すごい歓声! みんな楽しんでくれたんだ! よかった、嬉しい! 勝ったらこんなに声援がもらえて……こんなにたくさんの人に見てもらえる……。初めてなのに勝てちゃったし、あたし結構、闘士向いてるのかも⁉ この勢いでガンガン勝って、大人気美少女闘士になってやる!)


 ついこの間の最後のライブの盛り上がりなど霞むほどの、今までに受けたことのない大歓声に莉愛は身体を振るわせた。美はともかくとうに二十歳を過ぎた莉愛の年齢では少女ではないのだが、そんな事はどうでも良かった。


「あの、そろそろ出て貰えますか?」


 うっとりしていた莉愛だったが、不意にそう声を掛けられ、はっと我に返った。辺りを見回すと、パワードスーツ姿の女性たちが引き上げて行くところだった。


「アレっ⁉ 何で⁉ 魔法少女は?」


「試合が終わればシステムはオフになりますから。ついでに言うと、今のアリーナは観客席からは見えていません。ですから、早く戻って下さい。メインイベントの準備もありますし」


 やや面倒くさそうに、ため息交じりに係員が応じた。莉愛もそれ以上何も言うことはなく、大人しく控室に戻った。

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