華麗なるデビュー戦 #1
「ちょっと、あんた何? 次のバトルロイヤルの出場者は四人じゃなかったの?」
控え室のベンチで出番を待つスーツ姿の四人の女性のうちの一人、気の強そうな派手な顔の女が莉愛をギロリと睨みつけた。試合前で気が立っているようだ。
「あたし、さっき急遽出場が決まったんです。丸楠社長から連絡がいっていると思ったんですけど……」
莉愛はカチンときたのを隠すように笑顔を作り、なるべく落ち着いて答えた。
「ああ、アキリアさんですね。はい、先程伺いました。もうすぐ入場ですけど、それまではこちらでお待ちください」
係員らしき女性が慌ててやってきた。
「……お気に入り枠の新人か」
莉愛を睨んでいた女が小さく舌打ちする。そして莉愛から目を逸らし、両隣にいた二人に目配せした。
少しして、アリーナへのドアが開いた。
(うわあ、すごい人! 日曜日だからってのもあると思うけど、こんなに人が、しかも色んな人がいるなんて思わなかった! 『ホワイトブリード』のライブの何倍いるんだろ?)
莉愛は広いアリーナから、MR映像を観客向けに映すスクリーンである天井越しに、詰めかけた観客達を見上げて嘆息する。
階段状に広がる円形闘技場の観客席は上の方まで埋まっていた。自由席である上部は特に人が多かった。
最上部には擦り切れた野球帽をかぶり、暗い色の、安っぽい化繊のジャンパーを着て、生気のない目でアリーナを見つめる中年の一団が陣取っていた。彼らは時折ポケットからスマートフォンを取り出し、試合の予想情報に目をやっている。いかにも賭け事をしていそうな人種だ。
だがそれは全体からすればごく少数であり、大半はごく普通の、カジュアルな服装の観光客だった。国外からの観光客も多く、客席には色々な言語が飛び交っている。
また、中ほどにある屋内型の個室に区切られたボックス席スペースには、楽しそうな家族連れの姿もあった。合法的に賭博のできる場ではあるが、総じて雰囲気は明るく、ごくありふれた娯楽として受け入れられているようだった。
(あれ? あのへん、何か雰囲気的にライブと似た感じの人がいる)
莉愛はボックス席の下、指定席の下段の一部に、暗い色のくたびれたファストファッションに身を包んだ、地味な男性の集団を見つけた。彼らは目を輝かせて、アリーナに並ぶ女子闘士達を凝視している。中には手を振っているものもおり、闘士達もそれに応えて手を振り返したり、笑顔を向けたりしていた。
(そっか、他の闘士たちもあたしと同じ、元アイドルなんだ。元からのファンが来てるってことだよね。いいなあ……)
楽しそうな雰囲気の客席を見て、莉愛は軽くため息を吐く。彼女の見知った顔は一つもなく、手を振って応援するものもいなかった。
(いや、だってほらあたし、今日突然試合決まったから告知とかしてないし! それに、これだけ人もいるから、活躍したらあたしを推してくれるようになるかもしれないし! うん、きっとそうなる! だからまずは試合、頑張ろう!)
彼女はぶんぶんと首を振りファンのいない不安を振り払い、パシパシと頬を叩き気を引き締める。そして応援されている対戦相手たちに視線を移す。先程までのスーツ姿と違い、複合現実がオンになった今では皆、魔法少女のようなコスチュームだ。
(うわあ、なんか魔法少女シリーズの歴代キャラを揃えた春休みの映画みたいになってる! でもみんな、結構衣装豪華っていうか、あたしのがしょぼいっていうか手抜きな感じなんだよね……。しかも一人ピンクって、色かぶってるし向こうの方が気合入った衣装だから、あたしがパチもんみたいじゃん!)
居並ぶ対戦相手達の姿を見て莉愛は地団駄を踏んだ。
その莉愛を、先ほど控室で莉愛を睨んでいた派手な顔の女が蔑むような目で見た。ピンクのフリルでたっぷり飾られたドレスに黒いケープ、頭には大きなリボンのついたとんがり帽子、という莉愛のよりずっと凝った魔法少女衣装を誇示するように胸を張っている。両隣の、黄色と緑の似たようなドレスで、帽子のデザインは異なる衣装を着た二人も同様に莉愛を見下していた。そこから少し離れた所で、白いナースキャップをかぶった女がやや不安げに様子を窺っている。そんな彼女らの立ち位置を、莉愛は見ていなかった。
「それではCクラスによるバトルロイヤル、試合開始ッ!」
闘技場内に高らかにアナウンスが響いた。
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