未来を賭けて #1
東西南北に設置されたゲートから四人の闘士が入場して来るや、観客席から大きな歓声が上がった。
だが、にこやかに手を振り観客の声援に応えているのはルキだけだった。他の三人に笑顔は無く、無言で真っ直ぐにアリーナの中央に向かってただ歩いていた。もっとも、殺戮機械M45に笑顔が無いのはいつもの事だったが。
「闘技場の未来を決めるのはこの僕だ。もっとエキサイティングな試合、よりスリリングな闘いを皆に届けるために、旧いものにしがみつく邪魔者には消えて貰わないとね!」
ルキが目を細め唇の端を吊り上げて、ドリーミィメロディアと殺戮機械M45に言い放つ。野心溢れる冷たい笑顔はルキのファンたちを熱狂させ、メロディアを激昂させた。
「何でも自分の思い通りにしたいだけの暴君、いえ、我儘な子供ですのね。あなたなどにこの闘技場を支配させるわけにはいきませんわ! このドリーミィメロディアが、あなたの野望を打ち砕いて差し上げます!」
メロディアがすっと剣をルキに突きつけた。そして、視線をその隣に移し、
「……あなたは、自分では勝てないと悟ってその男に引き上げて貰う事を選んだんですのね。でも前に教えた通り、ここは実力の世界ですわ。自ら考え、動かないものに、勝利などありませんことよ?」
と、莉愛に切っ先を向けた。
「あたしが何を選ぼうとあたしの勝手でしょう? そのおかげで、あたしは強くなった。前と同じだと思わないで。変わったのは見た目だけじゃない! もう絶対、誰にも負けない! ここで輝くチャンスを必ず掴んでみせる‼」
莉愛は負けじとメロディアを睨み返す。
「元アイドルだからとか、そんな事は言わせない! あたしが勝って、強くて可愛い、すなわち最強だって、証明してやるんだから!」
そして更に殺戮機械M45を睨みつけた。そんな莉愛の視線を、M45はフンと鼻で笑い、受け流す。
「……御託はいい。さっさと始めよう。お前達に勝ち、私が最強であることを証明する。私の存在理由はそれだけだ。全てはプロフェッサー・タキトゥスの理論の証明のために」
殺戮機械M45はいつも通りだった。そしていつも通りに観客席からブーイングが飛んだ。
「それでは、Sクラスのルキ、ドリーミィメロディア、アキリア、殺戮機械M45による変則バトルロイヤル、開始!」
アナウンスが流れた瞬間、上空を円盤が飛び始めた。そしてあちこちにジャンプ台が出現していた。
「早速、殺戮機械M45が跳んだっ! 開始早々躊躇いなく終わらせようとするあたり、さすが目的の為なら手段を選ばない冷徹機械!」
他の三人が動き出す前に、その機動力を活かしいち早くM45がジャンプ台から飛び上がった。直接円盤を攻撃し、墜落させる事はルールで禁止されているため、普通の跳躍では届かない位置を飛んでいる円盤を捕まえるためには、このジャンプ台を使う必要があった。
「そうはさせない!」
莉愛が空中のM45に向け、ナイフを投げる。M45はそれを腕で振り払う。ナイフによる攻撃のダメージは無かったが、攻撃のせいでタイミングがずれ、結局M45の手は円盤に届かなかった。莉愛の目的は達せられたといえよう。
開幕早々負ける、という事態を回避した莉愛が安堵の笑みを浮かべた瞬間、
「アキリア! 油断するな」
ルキの叫び声が聞こえた。莉愛はとっさにその場から飛びのく。メロディアの放った衝撃波が莉愛の腕をかすめた。ダメージは大した事はないが、莉愛の動きは一瞬止められた。
「ルキ! メロディアが狙ってる!」
追撃が来るか、と思ったものの、メロディアの視線が自分ではなくルキを向いていることに気づいた莉愛は心配して叫ぶ。だが、ルキは慌てた様子もなくにこりと微笑み返した。
「ああ、大丈夫。彼らの狙いは分かっているよ!」
ルキはメロディアの衝撃波をあっさりと自身の衝撃波で相殺すると、今度はM45に向けてそれを放つ。もう一度ジャンプ台から跳ぼうとしていたM45は、跳躍を諦めて身体をひねり、ルキの攻撃を躱した。
「ふう……やっぱりそう来たか。姑息な君らしい考え方だよ、全く。上手く隙をついて円盤を奪い取る、なんてねえ。ああ、なんてつまらないんだ、僕はそういう美しくないのは嫌いだよ。全員を倒した後、ゆっくり円盤を回収させて貰うよ」
ルキは相変わらずの笑顔を浮かべたまま、ごく軽く言いながら、再び大剣を振るい衝撃波を繰り出す。
結局それでは通常の試合と変わらず、このルールならではの戦いにならないではないか、という主催者や観客の不満など、彼にはどうでも良い事だった。彼はただ、自分が誰よりも強いことを見せられれば良かったのだし、それが結局のところ、観客の満足に繋がると信じて疑わなかった。
「ねえ、殺戮機械M45。君は最強を目指してるんだろう? だったら僕とアキリア、それにメロディアも倒して完全勝利以外に、勝ちなんてないんじゃないのかい? ああ、もしかして君、彼女を――」
ニヤリと蔑むような笑みを浮かべたルキの横面を、M45の回し蹴りが襲う。ルキの頬をM45の金属のつま先が掠める。ルキにとって僅かとはいえ攻撃を受けたのは初めてだった。苛立ちを露わに反撃に移る。そのルキの激しい斬撃をM45は紙一重で躱していく。
「アキリア、メロディアは任せたよ。今の君なら、彼女くらい簡単に片づけられるはずだよ。存分に、リベンジしてやってよ」
ルキは莉愛を顧みることなく、M45に向けて大剣を振るいながら淡々と告げた。ルキの言葉にはどことなく、そのくらい出来てもらわなければ困る、とでもいうような冷たさが見え隠れしていた。
「うん、わかったよ!」
莉愛はそれだけ答えてメロディアに向き直る。殺戮機械M45、いや昴を倒したいという気持ちは莉愛にもあったが、ルキの指示通りにメロディアを倒す事が先決だ、と彼女は思い直した。
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