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パワードスーツを着よう

 アンは莉愛(りあ)を連れ、闘技場の地階にあるとある部屋に向かった。


「入るわよ」


「ふぁッ⁉ 社長⁉」


 モニタの前の女性が寝ぼけまなこで振り向くや否や、素っ頓狂な声を上げた。


「このコの闘士登録を頼むわ。ワタシは準備してくるから、それまでにデータの登録とスーツの装着、お願いね」

「は、はい、分かりました。すぐに取り掛かります!」


 係の女性は居眠りの失態を取り戻すかのようにびしっと敬礼して答える。だが、最早アンはそこにいなかった。さっさと奥の部屋へ行ってしまったのだった。後には事情が飲み込めずにきょとんとしている莉愛だけが取り残されていた。


「どうぞこちらへ。さ、じゃまずこちらに着替えて下さい。あ、着替えはそこのカーテンの向こうでどうぞ」


 係の女性はその莉愛に着替えを手渡すと、横に設置された、空港の保安検査にあるような大きな円筒形のスキャン装置の方に向かう。莉愛は大人しく指示に従い、渡されたぴったりした伸縮性のハーフトップとスパッツに着替える。


「では、そちらの足形のあるところに立って下さい。手は少し身体から離して、斜め下に……はい、そうです。しばらくじっとしていて下さい」


 言われたポーズで静止する莉愛の周りを、ぐるりと機械が回転していった。


「はい。計測終了です。映像用の3Dデータはじきにできますから、その間にスーツですね。こちらへどうぞ」


 係の女性は装置の横のコンピュータを凄い勢いで操作し終えると、部屋の隅に置かれたロッカーに向かった。


「では、こちらがパワードスーツです」


「えっ⁉ 全身タイツ⁉ パワードスーツっていうから、もっとずっとメカメカしいやつだと思ってた!」


 女性から手渡されたスーツを受け取りながら、莉愛は驚きの声を上げた。関節部分にはアクチュエータらしき機械が、そして背中にはバッテリーらしき箱がついているものの、それらも想像よりはずっと小さなものだった。


「ふふふ……皆さん驚かれるんですよ! とにかくすごいんですから! 動作補助用のアクチュエータは新開発の技術により従来品より約四割、バッテリーは約三割の小型・軽量化に成功! またスーツ自体も伸縮性と衝撃吸収性に優れた新素材を使用しており快適な着用感を維持したまま高い防御力――」


 係の女性が得意気に何やら説明を始めたのだが、分からないの単語の羅列に莉愛は最早聞いていなかった。


「へえ、すごいんですね! これ、普通に着たらいいんですか?」


 とりあえず感心したようにそう言って、莉愛は話を先に進めようとする。説明に夢中だった女性は莉愛が聞いていたかどうかは気にせず、凄いと言われたことに気を良くしたようだ。ニコニコと頷いている。ひたすら自分の事を語ってくるファンたちとの交流で鍛えられた彼女のスルースキルの勝利だった。

 莉愛はスーツに足を入れ、腕を通し、前面のジッパーをきゅっと引き上げる。厚手だが高い弾力性と強い伸縮性のある青い生地が、彼女の引き締まった体をぴったりと包んだ。


「ああ、サイズ、大丈夫そうですね。じゃ、アクチュエータの位置や装着のチェックをします。ちょっと体に触りますね。不快感があれば言って下さい」


 女性が肘やひざなど関節部分に触れ、アクチュエータの位置を確認していく。思ったより小さい、とはいえその部分はなにやら機械的だった。


「よし、大丈夫ですね。じゃあ、後はこちらのヘルメットをどうぞ。丁度3Dデータ作成も終了しましたから、次はチュートリアルです。きっと社長が待ち兼ねてますよ。まったくもう、社長自らそんなことしなくてもいいのに気にいった女の子が来るとすぐこれだ……」


 愚痴を言い始めた女性に何と言っていいか分からず、莉愛は苦笑しながらヘルメットを受け取った。


「あっ、すみません、ついうっかり。くれぐれも社長には黙ってて下さい。とにかくそっちの扉から、隣の訓練室にどうぞ」


 そんな莉愛の視線に気付いた女性は、慌てて扉を指差し、莉愛を追い出した。

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