表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/37

心機一転 #2

「あ……ありがとう! ゴスロリ、着たの初めてだけど、似合ってるなら良かった! このヘッドドレスのバラ、ルキのコートの差し色と同じだね! お揃いってわけじゃないけど、何か嬉しい! 闘技場っぽくない感じで素敵かも!」


 莉愛は努めて嬉しそうに応じた。ルキに同調しなければならないと本能的に察してのことだった。だが、莉愛が見逃すようなほんの一瞬、ルキは極めて冷たい目をしていた。そして、


「かも、じゃないよ。素晴らしいんだよ、僕達は。さあ、僕達でさらに美を追及していこう。そのための技を磨こうじゃないか」


 にいっと口角を上げ、莉愛に武器を握らせた。


「武器は今まで通り刀と投げナイフだよ。といってもデザインは変えさせてもらったけどね。さあ、新しいスーツの試運転だからね、まずは軽く、だ。僕が構えたところに、打ち込んでみて」


 言ってルキは額の前に剣を構えた。莉愛はそれをめがけて、真っ直ぐに刀を打ち下ろす。次々と、ルキが剣を構える位置を変えていく。莉愛は的確に、そこに刀を打ち込んでいった。


「すごい……! なんだか、身体が軽い! すごく動きやすい!」


 莉愛は嬉しそうに声を上げる。今までよりもずっと軽く、思い通りに体が動いた。


「当然だよ。わが菰田テクニカが作り上げた、最新のスーツなんだから」


 ルキはだんだんとスピードを上げていく。莉愛もそれに合わせて、徐々に動きを加速させていった。


「一旦休憩しようか。いいね、アキリア。思ったよりも動けてる。そのスーツとの相性も良さそうだ。まあ、君の試合のデータを参照して調整させたんだけど、上手く仕上がってるようだね」


「えっ……そうなの? それで動きやすいんだ。うん、今までと全然違う。上手く言えないけど、とにかくすごい!」


 ルキの褒め言葉に、莉愛の声は自然と弾んでいた。


「さ、僕達はこれから、出来るだけ沢山試合を組んで、そして勝つんだ。僕たちの計画のためにも早いところSクラスにならないとね。そうすれば、すぐにチャンスが巡ってくるよ」


 ルキは全てを見透かすかのように、静かに笑った。


「チャンス? 何かあるの? もしかしてルキ、何か計画――」


 尋ねようとした莉愛の唇を、ルキの細い人差し指が押さえた。


「フフフ、いずれ分かるよ。今はとにかくクラスを上げることだよ。Sクラスに上がらなかったら、チャンスも無いんだからね。分かったかい? さ、休憩は終わりだ。次の段階に行こう」


(余計なこと、考えちゃダメだ。ルキに何か計画があるなら、黙ってそれに従えばいい。そうすれば、きっと……!)


 莉愛は余計な考えを振り払うかのように大きく頷いた。そして、今度はルキと実戦形式の訓練が始まった。



 三度目の試合形式の訓練を終えたところで、不意に莉愛の目の前からMRの景色が消え、元の簡素なスタジオに戻った。


「よし、今日はここまでにしよう。それで……今日から君には、僕とここで生活して貰うよ」


 ヘルメットを脱ぎ、さらりとこぼれた髪を指で整えながらルキが言った。


「へっ⁉」


 その唐突な言葉に、莉愛は目を丸くし素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。


「試合の時間以外は訓練に費やすべきだし、食事や睡眠などの健康面にも気を付けなくては」


(あ……そういうことか。まあ、そうだよね。そんなドキドキな展開なわけないよね)

 莉愛は自分の勘違いに気づき、頬を赤くした。


「既に君のご両親にもアルバイト先にも話は通しておいたよ。ああ、収入なら心配しなくていい。僕の事務所所属タレントとして、ちゃんと給料は払うからね。アルバイト先にも、補填はしておくさ」


「えっ⁉ ……そう……凄い、ね……。あたしを強くするために、そこまで用意してくれるなんて嬉しいよ。ありがとう。でも、一度実家とアルバイト先には連絡させて。一応、自分の口から言っておきたいから」


 勝手に話が進められていたことに憤りを感じたものの、莉愛はそれを直接ぶつけることは出来なかった。ルキに意見するのは憚られた。


「もちろんだよ。君の好きにするといい」


 莉愛は家とアルバイト先に電話を掛ける。両方とも特に反対はせず、莉愛を応援してくれた。


「問題ないようだね。良かった。じゃあ、しばらくはここで暮らして貰おう。この施設のことなんかは、係の者に説明させるから。それじゃ、また」


 ルキはそう言って去った。取り残された莉愛の元に係の女性がやってきて、部屋に案内してくれた。



「凄いなあ……。新型のばっちりカスタマイズされた専用のスーツに、恵まれたトレーニング環境、栄養管理ばっちりの食事に、疲れも吹っ飛ぶひろーいお風呂、そして綺麗で広い部屋。夢みたい」


 莉愛はあてがわれた寝室の広めのベッドに体を投げ出した。そして両手足をいっぱいに拡げ、天井を見上げて、今日一日の出来事を思い出して呟いた。


「あたし、もしかしてこれから騙されて酷い目にあうとか? どうしてルキは、あたしなんかに……。って、あたしなんか、なんて思っちゃダメだよ。闘技場で頑張る美少女闘士の将来性に投資してくれたんだよ、きっと。とにかく、ルキの狙いが何であれ、あたしは強くなればいいんだよね。それがあたしの望みでもあるわけだし。うん、今はあたしに出来ることをするだけ!」


 莉愛はパシパシと自分の頬を叩いて雑念を振り払う。


「何か、疲れちゃったしもう……寝よう。明日、試合もあるし……ね」


 そう言い終わるか終わらないうちに、莉愛は眠りに落ちていった。

いつも読んで頂きありがとうございます。良ければ評価していって下さい。また、忌憚のないご意見・ご感想お待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ