心機一転 #2
「あ……ありがとう! ゴスロリ、着たの初めてだけど、似合ってるなら良かった! このヘッドドレスのバラ、ルキのコートの差し色と同じだね! お揃いってわけじゃないけど、何か嬉しい! 闘技場っぽくない感じで素敵かも!」
莉愛は努めて嬉しそうに応じた。ルキに同調しなければならないと本能的に察してのことだった。だが、莉愛が見逃すようなほんの一瞬、ルキは極めて冷たい目をしていた。そして、
「かも、じゃないよ。素晴らしいんだよ、僕達は。さあ、僕達でさらに美を追及していこう。そのための技を磨こうじゃないか」
にいっと口角を上げ、莉愛に武器を握らせた。
「武器は今まで通り刀と投げナイフだよ。といってもデザインは変えさせてもらったけどね。さあ、新しいスーツの試運転だからね、まずは軽く、だ。僕が構えたところに、打ち込んでみて」
言ってルキは額の前に剣を構えた。莉愛はそれをめがけて、真っ直ぐに刀を打ち下ろす。次々と、ルキが剣を構える位置を変えていく。莉愛は的確に、そこに刀を打ち込んでいった。
「すごい……! なんだか、身体が軽い! すごく動きやすい!」
莉愛は嬉しそうに声を上げる。今までよりもずっと軽く、思い通りに体が動いた。
「当然だよ。わが菰田テクニカが作り上げた、最新のスーツなんだから」
ルキはだんだんとスピードを上げていく。莉愛もそれに合わせて、徐々に動きを加速させていった。
「一旦休憩しようか。いいね、アキリア。思ったよりも動けてる。そのスーツとの相性も良さそうだ。まあ、君の試合のデータを参照して調整させたんだけど、上手く仕上がってるようだね」
「えっ……そうなの? それで動きやすいんだ。うん、今までと全然違う。上手く言えないけど、とにかくすごい!」
ルキの褒め言葉に、莉愛の声は自然と弾んでいた。
「さ、僕達はこれから、出来るだけ沢山試合を組んで、そして勝つんだ。僕たちの計画のためにも早いところSクラスにならないとね。そうすれば、すぐにチャンスが巡ってくるよ」
ルキは全てを見透かすかのように、静かに笑った。
「チャンス? 何かあるの? もしかしてルキ、何か計画――」
尋ねようとした莉愛の唇を、ルキの細い人差し指が押さえた。
「フフフ、いずれ分かるよ。今はとにかくクラスを上げることだよ。Sクラスに上がらなかったら、チャンスも無いんだからね。分かったかい? さ、休憩は終わりだ。次の段階に行こう」
(余計なこと、考えちゃダメだ。ルキに何か計画があるなら、黙ってそれに従えばいい。そうすれば、きっと……!)
莉愛は余計な考えを振り払うかのように大きく頷いた。そして、今度はルキと実戦形式の訓練が始まった。
三度目の試合形式の訓練を終えたところで、不意に莉愛の目の前からMRの景色が消え、元の簡素なスタジオに戻った。
「よし、今日はここまでにしよう。それで……今日から君には、僕とここで生活して貰うよ」
ヘルメットを脱ぎ、さらりとこぼれた髪を指で整えながらルキが言った。
「へっ⁉」
その唐突な言葉に、莉愛は目を丸くし素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。
「試合の時間以外は訓練に費やすべきだし、食事や睡眠などの健康面にも気を付けなくては」
(あ……そういうことか。まあ、そうだよね。そんなドキドキな展開なわけないよね)
莉愛は自分の勘違いに気づき、頬を赤くした。
「既に君のご両親にもアルバイト先にも話は通しておいたよ。ああ、収入なら心配しなくていい。僕の事務所所属タレントとして、ちゃんと給料は払うからね。アルバイト先にも、補填はしておくさ」
「えっ⁉ ……そう……凄い、ね……。あたしを強くするために、そこまで用意してくれるなんて嬉しいよ。ありがとう。でも、一度実家とアルバイト先には連絡させて。一応、自分の口から言っておきたいから」
勝手に話が進められていたことに憤りを感じたものの、莉愛はそれを直接ぶつけることは出来なかった。ルキに意見するのは憚られた。
「もちろんだよ。君の好きにするといい」
莉愛は家とアルバイト先に電話を掛ける。両方とも特に反対はせず、莉愛を応援してくれた。
「問題ないようだね。良かった。じゃあ、しばらくはここで暮らして貰おう。この施設のことなんかは、係の者に説明させるから。それじゃ、また」
ルキはそう言って去った。取り残された莉愛の元に係の女性がやってきて、部屋に案内してくれた。
「凄いなあ……。新型のばっちりカスタマイズされた専用のスーツに、恵まれたトレーニング環境、栄養管理ばっちりの食事に、疲れも吹っ飛ぶひろーいお風呂、そして綺麗で広い部屋。夢みたい」
莉愛はあてがわれた寝室の広めのベッドに体を投げ出した。そして両手足をいっぱいに拡げ、天井を見上げて、今日一日の出来事を思い出して呟いた。
「あたし、もしかしてこれから騙されて酷い目にあうとか? どうしてルキは、あたしなんかに……。って、あたしなんか、なんて思っちゃダメだよ。闘技場で頑張る美少女闘士の将来性に投資してくれたんだよ、きっと。とにかく、ルキの狙いが何であれ、あたしは強くなればいいんだよね。それがあたしの望みでもあるわけだし。うん、今はあたしに出来ることをするだけ!」
莉愛はパシパシと自分の頬を叩いて雑念を振り払う。
「何か、疲れちゃったしもう……寝よう。明日、試合もあるし……ね」
そう言い終わるか終わらないうちに、莉愛は眠りに落ちていった。
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