心機一転 #1
翌日の早朝、莉愛の家の前に黒塗りの高級外車が止まった。中からきちんとしたスーツ姿の運転手が現れ、莉愛の家のベルを鳴らした。莉愛はその迎えに促されるまま車に乗り込む。運転手との会話も殆ど無いまま車は走り続けている。都心から離れ、郊外に向かっているようだ。窓の外の景色は緑ばかりになった。
「菰田テクニカ株式会社 中央研究所……?」
ようやく莉愛の目の前に人工物が再び現れた。彼女はその入り口付近に置かれた石碑に刻み込まれた会社名を読み上げる。ルキが寄越した迎えの車は、その敷地内に入っていった。莉愛はどういうことか、と運転手に尋ねる。だが彼は答えてはくれず、ただ後で説明がある、と繰り返すだけだった。それで彼女も諦めた。
やがて車は合宿所か企業の保養所、といった雰囲気の建物の前に止まった。入り口のところに、トレーニングウェア姿の銀髪の美形が立っている。
「ルキ! ねえ、これは一体どういうこと? ここは一体どこ? どこかの会社の研究所みたいだけど……」
「僕たちの協力者の施設さ。闘技場で使うパワードスーツを研究しているんだ。それより、早くおいで。君が輝くために必要なモノを見せてあげる」
ルキは不安げに眉根を寄せる莉愛をそう促すと、建物の中に入っていった。莉愛も後を追う。
「凄い、ジムがある!」
「基礎体力アップの為にマシンを揃えたよ。トレーニングメニューは別途組ませよう。さ、それよりこっちだ」
そう言ってルキが次に案内したのは、壁際の天井近くにぐるりとカメラが並んだスタジオだった。それには莉愛も見覚えがあった。
「これ……MRのトレーニングルーム?」
「そうだよ。さ、早速トレーニングしようじゃないか」
「えっ、でもスーツは闘技場だし……」
促すルキに、莉愛は戸惑った。それにルキはきょとんとしていたが、やがてああ、と小さく呟き、クスリと笑った。
「きちんと言ってなかったね。君には、新しいパワードスーツを使ってもらうよ。ここで研究開発されたより高性能な新型だよ。大丈夫、闘技場でもちゃんと使える。向こうのレギュレーションは通しているからね。じゃあ、早速着替えて貰おうか」
そう補足を入れ、彼はパチン、と指を鳴らす。すると白衣を着た眼鏡の女性がやってきて、莉愛を隣の部屋に連れていった。
「では、こちらのスーツをどうぞ。着方は今までのものと変わりません」
莉愛は言われるがままスーツに着替えた。
「アクチュエータの位置等、確認させて頂きますね……はい、問題ありませんね。では、ヘルメットをどうぞ。スーツのアシストに何かおかしなところや、もっとこうしたい、という点があれば、何でも仰って下さい」
莉愛のスーツを点検すると、女性は頭を下げ、部屋を出ていった。
莉愛がトレーニングルームに戻ると、パワードスーツ姿のルキが待っていた。
「じゃあ、まずはウォーミングアップからだね。準備は良いかい? じゃあMRのスイッチを入れるよ」
MRシステムがオンになり、莉愛の目の前に先程までとは違う光景が広がる。
「アレっ⁉ コスチュームが違う⁉」
自分が見慣れぬ衣装を纏っていることに気付き、莉愛は身体のあちこちを見回した。
「ああ、言っただろう? 輝くモノに相応しいドレスと武器をあげるって。そうだね、気になるだろうから、一度じっくり見てみると良いよ。ミラー機能を使ってごらん」
莉愛は言われた通り、ミラー機能を使ってみる。
「うわっ、ゴスロリ⁉」
鏡の中の莉愛は、レースたっぷりの白いベルスリーブのブラウスに、胸元を紐で編み上げた、黒いぴったりしたビスチェ、黒い二段フリルの短いスカート、ガーターベルトにソックス、ストラップシューズという、いわゆるゴスロリ服を着ていた。そして頭には真っ赤なバラをあしらった、黒いレースのヘッドドレスを付けている。
(伽羅さんにデザインしてもらったニンジャ衣装、気に入ってたんだけどな……。でも、ルキが用意してくれたわけだし……。この環境と、スーツを提供してもらうわけだから、文句を言うわけにはいかないよね……)
「うん。良いね。僕のイメージ通りだよ。それでこそ、僕のパートナーだ!」
ルキがうっとりと、満足げな笑みを浮かべた。
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