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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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VIPルームの親子

 莉愛たちがいたのとは別のVIPルームの前で、ぴったりとした紫のスーツを纏った、豊かな巻き髪の女がドアを叩いた。黒いスーツの男がキビキビと中から扉を開け、彼女を招き入れる。


「お前の施策が裏目に出たわけだが、どうするつもりだ、アン? あの演説、どうやら菰田(こもだ)はここを乗っ取るつもりのようだな」


 窓のそばのソファに腰を下ろす、身なりの良い初老の男が振り返り、女に声を掛けた。


「そのようね」


 女はうなずくと、黒い封筒と便箋をパサリとサイドテーブルに投げる。男がそれにさっと目を通す間に、アンは続ける。


「それで、お父さ……会長がわざわざワタシを呼び出したのは、お説教の為かしら?」


 皮肉めかして言ってはいるが、それはただの虚勢だった。彼女の父である丸楠グループ会長、丸楠(まるくす) 哲人(てつと)の冷たい瞳に射竦められて、アンの大きな目に段々と怯えの色が強くなっていく。


「ただの質問だ。私はお前がどうするつもりなのかを聞いているだけだ」


 会長はふっと呆れたように息をつくと、アンの目をじっと見た。その態度に彼女はいくらか冷静さを取り戻す。


「そうは言っても、ここの株式はグループで持っているのだから、グループ内に裏切り者が居なければ問題ないでしょう。それにIR管理委員会との関係も雨園先生のおかげで良好だから、免許をはく奪されるなんて心配もないわ。直ちに何かできるわけじゃないはずよ。でも……」


 何か懸念があるらしく彼女は目を伏せた。会長は、そんな彼女を黙って見つめていた。


「確かにルキを呼んだのはワタシ。話題になると思ったし、彼が始めたプロダクションからスター性のある闘士を供給して貰おうとも思ったの。ワタシは寧ろ特別な試合を組もうとしたのよ。でも向こうが断ってきたわ。普通の闘士と同じで良いって。それでその条件で契約したはずなのに、デビュー戦でいきなり運営批判。観客は大喜び! 嫌になっちゃうわ!」


 アンは会長の隣のソファに身を投げ出し、大きくため息をついた。


「あの人気に、ファンの組織力……。欲しかったものだけど、首を絞められたわ。今はSNSで悪評を立てられれば、立ち行かなくなる時代だもの。こっちが証拠を出したところで、ファンたちは信じないでしょうし、余計に歪めるだけよ。それを盾に、ルキはワタシに『賭け』に乗るよう要求してきたわ」


 アンは会長が読み終え、サイドテーブルに置いた便箋を手に取り、パチンと指ではじく。


「『僕が君の闘士の誰よりも強くなった暁には、僕を実質的な闘技場の支配者にしてもらいたい』と書いてあったが、それの事か?」


 会長はアンの方に身を乗り出した。その顔には、どこか愉しそうな笑みが浮かんでいる。アンはこくりと大きく頷いた。


「ええ、そうよ。今日の勢いで勝ち続けて、どこか……そうね、きっとSクラスにでもなったあたりでそういう趣旨のイベントを組ませて、支配権を奪うってとこじゃないかしら。でも、そんな馬鹿げた話に乗る気はないわ」


「ではどうするつもりだ?」


 会長はややつまらなそうに尋ねた。


「追い出すわ。ルキがあれだけ強いのって、彼が持ち込んだ菰田テクニカ勢のスーツのせいなのよ。チェックしたときはレギュレーションを守ったものだったけど、ルキが実際使っているのは出力等で違反の可能性が高いって、スタッフが言ってたわ。だから不正を暴いてやるつもり」


 アンはぱさり、と調査資料を応接机の上に乗せた。だが、会長はそれを見もしなかった。


「それこそ叩かれるネタだろう。運営側が一方的に捏造した、と言われるのがオチだ。お前が自分で言った通りに」


「じゃあどうしろっていうの? 菰田テクニカのスーツはうちのより、ずっと高性能なのよ! それがルキがあれだけ強い理由だわ! いっそ皆で向こうに乗り換えればいいのかしら⁉」


 呆れたように首を振る会長に、アンはドンと机を叩き、イライラと早口に言った。


「負け惜しみではないが、菰田の製品は安全性に疑問がある。彼にそれを言っても無駄だろうが、他の闘士に使わせるのは許さん。我がグループのサービスにおいて、人命を危険にさらすことはあってはならん」


 会長はぴしゃりと答えた。アンは何も返すことが出来なかった。


「まあ、真っ向から受けることだな。試合形式、出場選手、よく検討するといい」


 会長の声音は弾んでいた。その表情からも彼の高揚が読み取れた。


「お父様⁉ 結局お父様は、闘いが見たいだけなのね! 満足のいく闘いを見るためなら、グループの利益なんてどうでもいいって言うのね! そう……分かったわ! やってやろうじゃない! 何とか考えるわよ! 駄目だったら? そんなことは考えないわ! 見てなさいよ!」


 アンはそう言って父親を睨みつけると、VIPルームを足早に出て行った。

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