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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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持つべきものは

 闘技場の最寄駅の周りに広がる商業エリアで店を探そうと歩き始めたところで、莉愛の足が止まった。駅に向かう人々の群れの中で、頭一つ背が高く、がっちりとした背中と、それに駆け寄り声を掛けるさらりとした黒髪の女性を見つけたからだ。

 駆け寄ってきた女に気づくと、男ははにかんだような笑みを浮かべた。そのまま二人は一緒に歩いていく。遠くて声は聞こえないが、親しげに話していることは見て取れた。


(昴、メロディアと一緒⁉ 結局、あたしじゃなくてメロディアを見に来てたっていうこと……?)


 莉愛はぎゅっと唇を噛んだ。



「昴さん! 見にいらしていたのは存じておりましたけれど、まさかここでお会いできるなんて! 試合、いかがでした?」


 嬉しさいっぱいの笑顔に、昴は少々戸惑った。


「……あ、雨園さん。いや、いい試合でした。素晴らしい動きで。特に最後、焦らずきっちり決めた冷静な判断はお見事でした。それにしても、観客席から見るとドリーミィメロディアの人気の理由が分かりますね。闘う姿に華がある」


「ありがとうございます。折角昴さんが見に来て下さったのに、無様な試合はできませんもの。でも……思ったより手こずりましたわ。わたくしも、まだまだですわね」


「アキリア……思ったよりやりましたね」


「ええ、強かったですわ。何としてもわたくしに勝つって気迫に溢れてましたわ。でも、わたくしも負けるわけにはいきませんの」


 ドリーミィメロディアこと雨園(あまぞの) 音夢(ねむ)はそれだけ言うと、黙って昴を見つめた。昴は少しの間彼女を見ていたが、やがて耐えかねたようについと視線を逸らした。二人は黙ったまま、駅の方へと歩いていった。

 声の届かぬところから二人の姿を莉愛が見ていることなど、彼らは気づきもしなかった。



 急に足を止めた莉愛の異変に気付いた二人が、莉愛の視線の先を見る。


「莉愛ちゃん……? あ、あれ……メロディアだよね」


「ホントだね。男の方は殺戮機械M45だね。闘技場のトップ二人とはねえ」


「えっ、あれ殺戮機械? あんま見えないけど、結構カッコいいかも? って違う! ねえ、莉愛ちゃんどうしたの? ……とにかく、飲みに行こう! 話はそこで!」


「そうだね、ほら、行くよ!」


 飛鳥と安恵は口々に言って、呆然とした様子の莉愛を引っ張り店を探す。


「あ、そこ、どうかな。空いてるといいんだけど」


 飛鳥が指さしたのはチーズと肉が売りの居酒屋だった。店内は女性グループで混雑していたが、運良く空きがあり入ることが出来た。


「莉愛ちゃん、お疲れ様! かんぱーい!」


 飛鳥が元気よく言って、ジョッキを持ち上げる。莉愛もカチンとジョッキを合わせる。


「で、どうしたんだい? メロディアに負けたことだけじゃなさそうだね。M45とアンタ、なんかあったのかい?」


 安恵が直球で質問する。莉愛はぐっとビールを飲み干し、空のジョッキをドン、と机に置いた。


「……あいつ、あたしの幼馴染なんだけどね。アイドル時代は配信見てくれたりとか、最後のライブに来てくれたりとか、結構応援してくれてたんだ。なのに闘技場で会ったらアイドル崩れとか言って思いっきり見下してきて! 試合見に来てって言ってもこなくて、女子王座の決勝でやっと見に来てくれたと思ったらメロディアと一緒に来てるし! 今日だって見に来るって言ってたけど、見てたのはメロディアの方だったし! なんであたしのこと、応援してくれないかな! ううう……昴のバカぁ!」


 莉愛は一気に語った。


「アイドル時代は応援してくれたけど、闘士になったら冷たい幼馴染……? それって、莉愛ちゃんにアイドル続けて欲しかったってことじゃない?」


「え……?」


 飛鳥にそう言われて、莉愛は首をかしげる。


「でも、アイドルグループをクビになったからここにいるんだよね。グループは解散しちゃったし、他のグループに入れて貰えたわけでもない。仕方ないんだよ。それに……実はあたし、こっちの方が合ってるかなって気がしてるんだ。だからここで頑張ってるのに!」


 昴がどう思おうが、ライブアイドルを続けることは出来なかったのだし、新しいステージで頑張る莉愛を応援してくれてもいいじゃないか。どっちにしても、莉愛は莉愛なのだ。そう思って莉愛は抗議する。


「ま、アンタはそうやって頑張ってるけどさ。一部にはそうじゃないコたちもいるし、M45はとくにそういうヤツが嫌いだしねえ。そっちに纏められちまったんじゃないかい? ま、アタシも闘うまではそうだったしね……」


 安恵がそう言ってジョッキを傾けた。


「でも、やっぱり莉愛ちゃんは頑張ってるんだしさ、メロディアの方を見に来たにしても、莉愛ちゃんとの闘いは見てたわけでしょ? そしたら、きっと分かってくれるよ!」


「だと、良いんだけど……」


「見せても分からないってんなら直接対決かねえ……まあ、Sクラスはまだ遠いけどさ」


「あはは。そうだった。元からそうするつもりだったんだ。……本人に倒すって言ったらレベルが違うだろ的なこと言われて馬鹿にされたけど!」


 安恵に言われて、莉愛は以前のことを思い出す。


「え? 莉愛ちゃん倒すなんて言っちゃったの? でも……実際レベル違うかも……」


「まあ、あいつメロディアより強かったわけだし、あたしはメロディアに負けちゃったわけだしね……」


「リベンジすりゃいいじゃないか。もっと強くなるんだよ!」


 安恵がバシバシと莉愛の背中を叩く。


「そう……だよね。くよくよしてなんていられない。もっと強くなって、また挑めばいいだけ。だけど……正直、どうすれば強くなれるか分からなくなっちゃったんだよね。安恵にも付き合ってもらって、あたしだって頑張ったのに、メロディアには届かなかった。スーツのカスタムとか、戦い方とか……もっと工夫しなくちゃいけないとは思うんだけど、どうしたら良いか……」


「莉愛ちゃん……」


「莉愛……」


 飛鳥にも安恵にも、答えは無かった。彼女らもまた、強さに関しては行き詰っていたからだ。メロディアやM45に追いつくためにすべきことなど分からなかった。


「あ……ごめんね、変なこと言って。どうすれば強くなるかは分からないけど……とりあえず今すべきことは分かったよ。食べて、飲んで、楽しむ! 飛鳥、安恵、今日はありがとうね!」


 莉愛はそう言ってメインディッシュのチーズフォンデュに手を伸ばす。飛鳥と安恵は顔を見合わせて笑った。三人は大いに食べ、飲んで、楽しんだ。

お読み頂きありがとうございます。反応なくて寂しいので、是非評価や感想などお願い致します。また、続けて読んで下さる際はブックマークして頂けますと幸いです。

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