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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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負けられない闘い

 そして迎えた対戦当日、莉愛は闘技場いっぱいの観客たちが上げる歓声を浴び、それに応えるように手を振りながら、花道を進んでいく。反対側からは、莉愛に注がれるのとは比較にならない、割れんばかりの歓声を浴びながらドリーミィメロディアが優雅に歩いてくる。莉愛は彼女をきっと睨みつける。

 だが、そのドリーミィメロディアの仮面の奥の涼やかな目は、莉愛のことなど見てはいなかった。はっとして莉愛が彼女の視線の先を素早く追うと、そこにいたのは果たして昴であった。莉愛がまたメロディアに視線を戻しても、彼女の目はまだ観客席を見上げたままだ。


「よそ見なんて、余裕じゃん! アイドル崩れの相手なんて、見なくても出来るってこと?」


 莉愛はふん、と鼻を鳴らし、とげとげしく言った。メロディアはそんな事には構わず、ふうと大きく息を吐くと、平然と莉愛を眺めた。


「今この瞬間、わたくしにとって一番大切なのは、わたくしを応援してくださる方に応えることですの。あなたの相手なら、これからたっぷりして差し上げますわ。それと、あなたがどんな出自であろうとわたくしには関係ありませんことよ。誰であろうと、全力で倒すだけですわ」


 彼女は余裕の笑みを浮かべてきっぱりと言い、手にした細身の剣をヒュンと莉愛に突きつけた。観客席からわっと、メロディアを応援する声が上がる。観客席の様子からしても、オッズからしても、メロディアを支持する者が大半だった。もちろんニューヒロインたる莉愛の応援者も随分と増えていた。今までの試合で最多だ。それでも割合からすると、彼女にとってこの会場はアウェーと言って差し支えなかった。


「それではドリーミィメロディア対アキリア、試合開始!」


 宣言と共に、メロディアが手にした剣を振るう。莉愛はそうくるだろうと思い、これまでの遠距離主体の相手同様に大きく横に飛んでいた。


 だが、メロディアの攻撃はまともに莉愛を襲った。追尾してきた、というわけではなさそうだ。躱してその隙にメロディアに接近戦を挑む、という莉愛の目論見は、その脇腹に走る痛みに中断された。


「メロディアの攻撃がアキリアにヒットだ! メロディア、アキリアの動きを読んでの攻撃か⁉」


 実況の叫びと、会場の歓喜の声が重なる。多くの者が喜ぶ中、莉愛は悔しそうに唇を噛んでいた。


(避ける方向を読まれてた……! ただ……思ったよりダメージは少ない。それなら、多少のダメージはガマンして突っ込もう!)


 莉愛はそう気持ちを切り替えると、メロディアを睨みつけ、真っ直ぐに彼女に向かって走る。どうせ躱せないのなら、余計な事はせず最速で彼女に攻撃する、という姿勢だ。莉愛はメロディアが距離をとり、また遠距離攻撃をしてくると踏んでいた。


「えっ……?」


 だがその予想は外れた。メロディアまであと少し、もう一歩で攻撃が届くと刀を振り上げた莉愛の胸に、メロディアの剣が突き刺さった。先程よりもずっと大きな衝撃とゲージの減りだ。完全に予想外であったメロディアの直接攻撃だが、そんな事に戸惑っている暇はない。二撃目を防ぐべく、莉愛はすぐさま刀を構える。


「あら……思ったよりも冷静ですのね」


 追撃を辛くも防いだ莉愛に、メロディアは皮肉交じりに言うと、更に打ちかかる。


「確かにM45と剣で戦っていたし、接近戦も出来ることは分かってたけど……でも自分から仕掛けるほどじゃないと思ってた。過去の試合では、遠距離の方が主体だったから。ごめん、間違ってたね。だけど、あたしだって得意の距離で負けるわけにはいかない!」


 莉愛はメロディアの剣を刀で止めると、くるりと体を入れ替え横に回り込み、刀を振り下ろす。メロディアのゲージが減る。

 そこからしばらく、莉愛とメロディアの緊迫した剣の打ち合いが続く。何合も打ち合い、お互いにゲージを削り合う。観客たちも息をのみ、静かに二人の攻防を見守っていた。


「あら、思っていたよりやりますのね。レディ・タイガーを倒したのも伊達ではないということですわね」


「当然! ふふふ……ちょっと、攻撃が鈍ってるんじゃない? このまま、押し切らせてもらっちゃうから!」


 莉愛は更に刀を振るい、攻め続ける。だがメロディアはそれで勝てるほど甘くはなかった。


「調子に乗らないで下さる? 運良く勝ち続けたが故に勘違いしてしまったのね。でも、その勘違いを正すのも、上位闘士たるわたくしの努めですわ!」


 そう叫ぶや、メロディアが反撃に転じる。


「運良く? そりゃあ、運もあったと思うよ! けどあたしだって頑張って勝ってきたの! 勝手に勘違いとか決めつけないでよね!」


 莉愛はメロディアが振り下ろした剣を受け、その細身の剣の切っ先を逸らす。そしてさっと太腿から投げナイフを引き抜き、至近距離でメロディアに向けて投げつけた。


「アキリアの攻撃が決まった! メロディア、ゲージを減らしたぞ! これで二人の残りゲージは同程度、のこりわずかだ! さあ、メロディアか、アキリアか、決めるのはどっちだ」


 そんな実況の声とほぼ同時に、これ以上接近戦を続けるより自分の得意な距離で、と思ったのか、メロディアが大きく後ろに跳んだ。そして獰猛な笑みで莉愛を見た。その顔に、莉愛ははっと息をのむ。


(そっか、M45との対戦のときに使ってた、あの技だ! あの時はM45が躱してたけど、あたしにできるかな……いや、やるんだ! 彼女の必殺技を躱して、そしてあたしが決める!)


 莉愛はメロディアに向かって走る。


「喰らいなさい!」


 メロディアがその細身の剣を突き出そうとするのが見えるや、莉愛は反射的に大きく横に飛ぶ。だがメロディアの技は発動していなかった。目の端に、メロディアがすっと剣を振るうのが見えた。


「えっ……これ……普通の遠距離攻撃? さっきのはフェイント……!」


 脇腹を走るチクリとした痛みに莉愛が驚きの声を上げる。その眼前にメロディアが迫っていた。


「そうですわ。そしてこれがとどめ」


 呆然とする莉愛に、メロディアが走り込み剣を突き出す。それは莉愛の胸に刺さり、彼女はかくりと力を失いくずおれた。


「勝者! ドリーミィメロディア!」


 会場内にアナウンスが響き、その瞬間に今まで静まり返っていた観客席が、はじかれたようにメロディアを讃える割れんばかりの歓声を上げる。


「やった! 途中ヒヤヒヤしたけど、やっぱりメロディアは強いね!」


「ちっ、やっぱりメロディアかよ! 大穴狙いに行ったのは失敗だったな!」


「ぽっと出のアイドルにしちゃいい線いってたが、やっぱり勝てねえか」


 歓声の中には莉愛に対する失望の声も混じっていたが、幸か不幸か、闘技場を後にする彼女の耳には何一つ入らなかった。

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