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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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次の闘いに向けて

 試合後、莉愛が着替えを終えてラウンジに出ると、暗めの茶色の髪をベリーショートに刈り込んだ三十前後の大柄な女性が嬉しそうに近づいてきた。


「お疲れ様。女子王座、おめでとう。だけどまさか、ドリーミィメロディアに試合を申し込むとはねえ! ま、勝ったらアタシもそうするつもりだったんだけどさ! アンタ、アイドル出身の割に気合入ってるじゃないか‼」


 そして莉愛の背中をバシバシと叩きながらそう言って豪快に笑った。ただのコミュニケーションの一手段であり力は加減されているのだろうが、タンクトップから覗く、その日焼けした逞しい筋肉に覆われた腕の力はなお強く、叩かれた莉愛は若干涙目になっていた。


「ええと、レディ・タイガーですよね? ありがとうございます。あたし……早くSクラスに上がりたいんです。それに、メロディアにも勝ちたい。だから、ここがチャンスだなって思ったんです」


 莉愛は彼女を見上げて答えた。


「おや、なんだい、そんな堅苦しく構えないでおくれよ! さっきまでの勢いはどうしたんだい、あのままでいいのにさ。敬語なんてよしとくれ。それと、アタシは虎井(とらい) 安恵(やすえ)。そうだ、もしこの先訓練相手が必要だったら、アタシでよければ相手になるよ。実戦形式の方が、お互いトレーニングになるしね。まあ、メロディアとアタシじゃ戦闘スタイルが全然違うから、次の試合の参考にはならないけどさ」


 安恵はまた豪快な笑顔でそう言った。どうやら彼女は莉愛を気に入ったらしかった。


「ありがとう! あ、あたしは秋山 莉愛。莉愛って呼んで。こちらこそ、よろしくね」


 そういって、莉愛は右手を差し出した。大きな手がそれを力強く握り返し、ぶんぶんと上下に大きく振った。 安恵はその手を離すと、ふいに真剣な顔をした。


「しかし、Sクラスに上がりたい、か……。その意気込みは買うけど、実際厳しいもんだよ。アタシはAクラスだけどさ、Sクラスに上がるにはまだまだだ。それと……メロディアは強いよ。この間負けたとはいえ、ずっと闘技場のトップだったくらいだからね。こう言っちゃ悪いんだけどさ、アンタはもちろん強かったよ。けど去年闘ったメロディアはもっと強かった。遠距離と近距離両方を使い分ける……アンタと闘い方は似てるけど、向こうの方が洗練されていたね」


 莉愛は息をのんだ。実際に両方と闘ったことがある安恵の言葉には重みがあった。だが、退くわけにはいかない。


「それでも、あたしは闘う。メロディアと闘えるチャンスなんて、今しかないんだもの! 頑張って、練習して、なんとしても食らいつく!」


「悪かったね、変なこと言って。アタシだって、アンタにゃ勝って欲しいんだ。その意気だよ、頑張りな!」


 安恵はまたバシッと莉愛の背を叩いた。


「ありがとう! あたし、負けないから!」


 莉愛は不敵ににいっと笑う。



『ドリーミィメロディアとの試合、見に来てくれる?』


 安恵と別れた後で、莉愛はすぐ昴にメッセージを打った。

 が、しばらく返事は来なかった。地下鉄の駅についてもまだ返事はなかったし、地下鉄に乗り込みやや混み合った車内でしばらく揺られている間も、莉愛のスマートフォンは何らの反応も示さなかった。


『了解』


 という短いメッセージが返ってきたのは夜遅く、彼女が自宅で寝る前にくつろいでいるときだった。

 返信の遅さと内容の短さに莉愛は思い切り眉をひそめたものの、見に来る、という事実にすぐさま頬を緩めた。


「良かった! ありがとう。応援してよね!」


 と打って、少しの間その文面を見つめていた後、莉愛は最後の一文を削除して送信ボタンを押した。


「本当に、あたしを見に来るのかな……? もしかして、メロディアを見るためなんじゃないの……? 昴は、どっちを応援するんだろう?」


 彼女はぱたん、と背中からベッドに倒れ込むと、手に持ったスマートフォンの画面をぼんやりと眺めて呟いた。今日見た二人の様子が思い出された。


「どっちでもいいか。そんな事気にしたって仕方ないもんね。とにかく勝って、あたしの魅力と凄さを見せつけて、ただのアイドル崩れなんかじゃないって見直させればいいだけ」


 スマートフォンを胸の前でぎゅっと握りしめ、莉愛は不安を打ち消すように呟く。だがそれも束の間、彼女は襲ってきた睡魔にあっさりと囚われ、そのままぱたりと意識を手放した。



 安恵との基礎訓練や、シミュレータによるメロディアを想定した訓練、家にいるときはライブラリの動画でイメージトレーニングと、とにかく莉愛はメロディアとの対戦に向けて感覚を磨いていった。

 アルバイト以外の時間は全て練習に費やした。安恵からも動きが良くなったと褒められたし、自分でも手ごたえを掴んでいた。

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