女子王座決勝戦 #3
「それにしても全く学ばないねえ! この距離でアンタが攻め込むことなんて出来やしないよ!」
レディ・タイガーは鋭く叫び、莉愛を迎え撃とうとハルバードを繰り出す。その穂先が莉愛に届くかと思った瞬間、莉愛は再び後ろに大きく飛んだ。
「学んでないのはそっちだよ! 近づけなくても、攻めることはできるんだから!」
莉愛は空中で、レディ・タイガーに向けてナイフを投げつけた。狙い違わず、それはレディ・タイガーの胸元に突き刺さり、彼女の残り僅かなゲージをゼロにした。
「くっ……さっき近づいてきたときに……結局ちゃっかり回収してたってわけかい……」
悔しそうに呟くレディ・タイガーに、莉愛は無言でにこりと微笑んだ。
「ふん、やるじゃないか……!」
レディ・タイガーはわずかに口角を上げ、目を細めた。その表情は、どこか楽しげでもあった。
「勝者、アキリア!」
勝利を告げる声が闘技場内に響き渡るとともに、客席からわっと歓声が上がる。
「おめでとう、アキリア。デビュー以来連戦連勝、あっという間に女子王座まで上ってくるなんて驚いたわ。これからも頑張って頂戴」
社長のアンがパチパチと手を叩きながらやってきて、妖艶な笑みを浮かべた。そしてそばに控えていた男から大きなベルトを受け取ると、それを莉愛に手渡した。また大きな歓声が上がった。
「アキリア、女子王座に就いた気分はどうかしら?」
アンの女子王座という言葉に、歓声に酔いしれていた莉愛ははっと我に返る。
莉愛はキッと、目の前に立つアンの後ろ、斜め上にあるボックス席の方を一瞬だけ睨みつけた。そして軽く目を閉じ、大きく息を吸い込む。莉愛はゆっくりともう一度目を開きながら、
「ここまで来れたのは嬉しい……けど、あたしはまだ、女子のトップじゃない。あなたに勝たなきゃ、意味がないの! ドリーミィメロディア、あたしはあなたと闘いたい!」
と、気合を込めて大音声で叫んだ。その言葉と気迫に一気に会場が沸いた。
「莉愛……あの身の程知らずが……!」
誰もが熱狂する中、観客席で昴が苦々し気に呟いた。
「勝ち続ければ、勘違いもしますわ。でも、それだけではないかもしれませんわねえ」
ふふ、と笑って、メロディアは傍らの昴を見上げる。昴はその視線の意味を図りかねて眉根を寄せた。
「良いですわ。早速わたくしからも、試合を組んでもらえるようにお願いしておきますわ」
そう呟くと彼女はスマートフォンを取り出し、早速メッセージを送る。
「雨園さん⁉ 受けるんですか、そんな試合?」
「昴さんはあの子が負けるところを見るのはお嫌かしら? あなたがわざわざこんな試合を見に来るくらいですもの、あの子、貴方にとって特別なのじゃなくて?」
「そ……そんなのじゃありませんよ、ただ単に結果の見えた試合なんてつまらないってだけです。だいたい、Aクラスのレディー・タイガーに勝ったとはいえ、それでも精々Aクラスに上がるかってくらいでしょう? Sクラスのあなたと試合を組みますかね?」
「これだけ高らかに宣言したのですし、ここにいる観客の皆さんも楽しみにされているようですわ。興行的な成功が見込めるなら、あの社長は組みますわよ。わたくしが受ければ、なおさら」
ドリーミィメロディアこと雨園 音夢は彼女にしては珍しく獰猛な笑みを浮かべてアリーナを見下ろした。
「まあ! 早速そのメロディアから返事が届いたわ」
熱狂した観客たちの声が響く中、ふいにアンが嬉しそうに言った。観客たちはざわついた後、一気に水を打ったように静まり返った。莉愛も黙って、アンをじっと見つめた。誰もが固唾をのんでアンの言葉を今か今かと待ち受けている。
「『受けて立つ』だそうよ。良かったわね。試合の日程は決まり次第発表するわ! みんな、楽しみに待っていて頂戴!」
しばらくの沈黙の後、アンがふっと楽しそうに笑い、そして高らかにそう宣言した。
彼女の言葉に、会場からますますヒートアップした声が上がる。試合自体も盛り上がったが、この表彰式も大盛り上がりだった。莉愛は一躍、闘技場の人気者になったのだった。
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