女子王座決勝戦 #2
だが刀の届く距離までたどり着くよりも先に、レディ・タイガーのハルバードの穂先が莉愛を襲った。莉愛は余裕の表情で横に飛んで躱し、レディ・タイガーを攻撃しようと再び距離を詰める。それをレディ・タイガーのハルバードが薙いだ。突きの後、薙ぎにくると動画で研究済みだった莉愛は落ち着いて刀で受ける。だが、遠心力のついた一撃は彼女の想像よりもずっと重く、受け止めきれずに莉愛は大きく横に飛ばされた。飛鳥に聞いていた通りだが、やはり実際に受けてみると戸惑うものだった。
「ファーストアタックはレディ・タイガー! ここまで調子よく勝ち上がってきたアキリアだが、やはりAクラス相手では辛いか⁉ レディ・タイガー、更に追撃だ!」
バランスを崩しつつも何とか着地した莉愛に、レディ・タイガーのハルバードが迫る。莉愛は慌てて体を捻って躱すと、大きく後ろに飛んで距離を取った。
「くっ! 来るってわかったのに、予想よりもずっと攻撃が重い! 威力もあるし……!でも飛鳥の言った通り小回りは利かなそう。近づいちゃえば、どうってことない!」
レディ・タイガーのハルバードは突くだけでなく、斬ることもできる。そして当然莉愛の刀よりも攻撃範囲が広い。厄介な相手だ、ということはもう莉愛も十分理解していた。それでも彼女は不敵に笑い、再びレディ・タイガーに向けて地面を蹴る。
「近づけば、だって? 簡単に近づけるなんて思わないことだね!」
迎え撃つべく相手がハルバードを構え、まさに突き出そうとするその瞬間に、突然莉愛は後ろに飛んだ。空中で投げナイフを太腿から引き抜き、投げつける。莉愛の直接攻撃に注意を払っていたレディ・タイガーに対応する余裕はなく、肩当ての下の腕にざっくりとナイフが突き刺さった。
「飛び道具……。そうかい、近づこうとしたのはフェイントってわけかい。小癪なマネ、してくれるじゃないか!」
突き刺さったナイフを引き抜き、投げ捨てるや否や鬼の形相でこちらに向かってくるレディ・タイガー。だが莉愛は慌てず再び投げナイフを投げつける。
「だけど、やっぱり大した攻撃力は無いみたいだねえ! こんなものじゃアタシを倒す事は出来ないよ!」
二本目のそれを躱そうともせず、何の痛痒も感じずに距離を詰めてくるレディ・タイガーに対し、莉愛は苦々しげに顔をしかめた。次々と突きを繰り出すレディ・タイガーに対し、莉愛はとにかく後ろに飛んで逃げながら、ナイフを投げつける事を繰り返す。
「アキリアの反撃も空しくレディ・タイガーが追い詰める! レディ・タイガーのパワーの前には為す術無しか⁉」
投げナイフはレディ・タイガーにダメージを与えることが出来るし、ダメージを与えれば彼女の動きも鈍る。けれど彼女が言った通り、それだけでは全く勝ち目は無かった。
「はあん、無駄な足掻きだねえ! その投げナイフのダメージなんて知れてるし、それに、それももうすぐ打ち止めだろ?」
レディ・タイガーは自分の肩や胸元に刺さっていた投げナイフを引き抜き、ばらりとまとめて地面に放った。刺さったままにしておくと、動作に影響が出るためだ。因みにこの投げナイフをレディ・タイガーが使うことも可能であるが、彼女はそうはしなかった。下手に使い慣れない、かつ攻撃力の高くない武器を使うのはメリットよりもデメリットが大きかった。
「それでも、ダメージはゼロじゃないでしょ! っていうか、一本一本は大したことなくっても、それなりにダメージ、受けてるでしょ!」
莉愛は太腿に巻きつけられた最後の一本に手を伸ばしつつ、レディ・タイガーの右側、先程彼女が捨てたナイフをちらりと見遣る。
「だったら、倒される前に削り切ってやる!」
莉愛は最後の一本を投げつけると、その隙に、とばかりにアリーナに投げ捨てられた投げナイフを目指して走る。
「ハッ、こいつは目くらましのつもりかい? 無駄だよ! アンタの狙いなんてバレバレさ! もうなくなっちまったから、投げナイフを拾おうってんだろ? そんなことさせるもんかい!」
渾身の力を込めて、レディ・タイガーは莉愛に向けてハルバードを振るった。
「そっちこそ、狙いはバレバレだよ!」
莉愛は不敵に笑うと、横薙ぎに振られたハルバードを軽やかに飛び越える。
「おっと、ここでアキリア、レディ・タイガーの攻撃を躱して反撃に移る!」
実況の声とほぼ同時に、莉愛が力を込め過ぎたが故に隙だらけになったレディ・タイガーに向けて、刀を振り下ろす。
「くっ……! 今度はこっちがフェイントってわけかい!」
大きく減ったゲージを目の端に捉えて、レディ・タイガーが忌々しげに吐き捨てた。それでも何とか態勢を立て直そうとするレディ・タイガーだったが、近い距離で素早く攻撃を繰り出す莉愛の攻撃に対処しきれず、ますますゲージを減らしていく。
「おのれ、ちょこまかと鬱陶しい!」
レディ・タイガーが強引に振るったハルバードが、莉愛を地面に叩きつけた。莉愛は地面に手をつき、体を起こそうとするが、叩きつけられた衝撃か上手く体を起こせないでいた。
その莉愛にハルバードの穂先が迫る。彼女はごろりとその体を転がしてギリギリでそれを躱すと、地面に手をつき急いで跳ね起きた。
「うう……後ちょっと、後ほんのちょっとだったのに!」
莉愛は悔しそうに叫んだ。レディ・タイガーのゲージは、赤い筋がギリギリ見えるか見えないか、といったくらいに極々僅かだった。運よく――莉愛にとっては運悪く――残った、としか言えないほどだ。
「さあて、また元に戻ったねえ。お互い、後一撃ってとこだけど」
レディ・タイガーがニヤリと笑った。ゲージの量は莉愛の方が多い。だが、レディ・タイガーの攻撃力なら彼女のいう通り後一撃で莉愛のゲージもゼロになるのは確実だった。莉愛は唇を噛み締め、刀を構え相手を睨みつけると、レディ・タイガーに切りかからんと踏み込んだ。
ここまでお読み頂きありがとうございます。よろしければ評価・感想・ブックマークなど頂けますと幸いです




