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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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最強闘士との邂逅

「全く、あの新人……痛いったらありゃしない! 接近戦なんてバカなことしやがって!」


 莉愛がロッカールームに戻ると、そんなルゥの苛立った独り言が聞こえてきた。


「あ……ええと、ごめんなさい。大丈夫ですか? 医務室、行きますか?」


 莉愛は彼女が痛そうにさする肩や腕などに目をやる。とはいえ特に腫れや痣などは見られなかった。


「は? ねえキミさ、なんなの? メロディアの真似? ああいうふうに上に行きたいとか思ってるわけ?」


 ルゥは質問には答えず、そう言って詰め寄ってきた。


「え? 真似ってわけじゃ……。ただ闘い方を考えたら、近距離メインで遠距離もあった方がいいなって思っただけで。上には行きたいと思ってるよ。Sクラス、目指してる」


「バカじゃないの⁉ ああ、大体接近戦とかいい迷惑だよ! スーツの衝撃吸収があるとはいえ、このボクを殴るなんてさあ! アザでもできてステージに影響でたらどうすんだよ! 遠距離なら傷つかないのに! 全く、困るんだよね!」


「でも――」


 莉愛が反論するのを遮り、ルゥはさっさと荷物を纏めて出て行ってしまった。


「闘士って、そういう仕事だよね……」


 ルゥの去った後で、莉愛はぽつりと呟いた。


「アイドルの試合なんてつまらない、か。そういうところなのかな……。一般のお客さんの反応からしてもそうなのかなあ。アイドルファンの人達は楽しそうだったけど、あたしよりルゥ、って感じだったよね。もしかしてアイドル同士が戦うっていうのが好きな人にとっては、あたしはその期待に沿った試合をしてないってことなのかな……。あたし、どっちにも需要ない?」


 スーツを脱ぎ、サーモンピンクのオフショルダーのカットソーに袖を通し終えると、莉愛は少し肩を落とした。


「でも、メロディアはどっちにも人気なんだしさ。あたしももっと強くなろう。もっとドキドキするような試合をしよう。そうしたら、きっともっとたくさんの人に楽しんでもらえるようになると思うんだよね! それにその方が、あたしも楽しいし!」


 だが、彼女はいつまでも悩んだりはしなかった。



 少し休憩してから帰ろうと、莉愛はラウンジに向かう。するとラウンジの端のミーティングテーブルに、ノートパソコンを広げ、誰かと何やら話している昴を見つけた。向こうも視線に気づいたらしく顔を上げる。目が合った。


「ん? 高須、どうした? 知り合いでもいたか?」


 昴がどこか別のところを見つめているのに気づいた彼の向いに座る男が、昴の視線の先を追って振り返る。


「あれ、彼女どっかで見たような……。あ、この間お前の一つ前の試合で勝ってたコだ。アキリアちゃんだっけか。さっき試合だったのかな。くそ、データ取りで見逃したぜ。けどお前、もしかして知り合いなのか?」


 チラリと莉愛を見てすぐに顔を戻すと、昴に小声で尋ねた。


「まあ、そんなところです。っていうか俺の一つ前の試合なんて何で見てるんですか。それによく覚えていますね?」


「折角の闘技場フリーパスは活用しないとな。彼女活躍してたし、可愛かったから覚えてるよ。新人女子闘士……きっとお前の嫌いな元アイドルだよな。その割に何で知り合いなのお前?」


「実家が近所で。小学校だけですけど同級生でした」


「それはあれか、所謂幼馴染という奴か。あんな可愛い子が。どんだけ持ってるんだよお前。毛根が全部死ねばいいのに」


「何て恐ろしい呪詛を!」


「ちっ……そうか。お前が今日、いつもの変なTシャツじゃなくキレイめな格好をしているのはそういうことか。まあいいさ。妬ましい事この上ないが、お前は博士論文用データ収集の大切な協力者だ。ここは俺も協力してやるよ」


 ヒソヒソと昴と話していた男は振り返り、莉愛に満面の笑みを送る。


「どうぞどうぞ。丁度打ち合わせも終わったし、僕は帰りますんで」


 そして椅子をすすめるとそそくさと去っていった。去り際、頑張れよ、的な面倒臭い視線を昴に送るのも忘れなかった。


「あ、ちょっと待って下さいよ、まだ終わってないですよ! ああもう、全くあの人は変な勘違いをして……」


 先輩の要らぬ気づかいに盛大にため息を吐くと、昴はことの成り行きに戸惑い視線を泳がせている莉愛を睨みつける。


「で、何か用か?」


「別に、何か用があったわけじゃなくて、お茶を飲もうと思って来たらただ目があっちゃっただけで……」


「そうか。じゃあ、もういいな」


 昴はパタンとノートパソコンを閉じ、帰り支度を始める。


「待って! 何でそう冷たいかなあ! ……やっぱり、知り合いには知られたくないか、殺戮機械M45。結構アレな悪役キャラだもんね」


 ふふん、と冗談めかして笑って、莉愛は昴の向かいに座る。昴は苦虫を噛み潰したような顔だ。莉愛としては冗談だったのだが、昴としてはそれもあったらしい。


「ゴメン、あの時聞いちゃったし、ドリーミィメロディアとの試合も見ちゃった。……凄かった。ワクワクした。あたしにああ言った理由が分かった気がした」


 昴は帰り支度の手を止めて、黙って莉愛を見つめた。


「でもやっぱり、色んな楽しみ方はあって良いんじゃないかと思う。あたしに出来ることは、いい試合をすることだけ。他の人のことは知らない。あたしは可愛くて強いアイドル闘士になってみせる。殺戮機械M45にだって勝ってやるんだから!」


「……俺に勝つ? それは、俺が闘えないと言ったことへの当てつけか?」


「それもあるけど、でも……それより見ててワクワクしたから。あんな風に会場を沸かせてみたいし、そういう相手に勝ちたいっていうか」


「試合を見ていたなら理解しろよ、無理だって。Cクラスのお前と、Sクラスの俺。差は歴然だ」


「さっきBクラスの闘士に勝って、昇格が決まったから今はBクラス。ちょっとずつでも、近付いていくから」


「チッ、女子王座のトーナメントか。楽なシステムだよな。女子のBクラスもCクラスも大して変わらねえってのに、ランクだけは上がってく」


「正直それはあたしもそう思った。女子に有利な仕組みになってるのかもしれないし、それはそっちからしたら許せないのかもしれない。けど今はそうなってる以上、最大限利用させてもらって上に行く」


 皮肉な態度の昴に、莉愛はきっぱりと宣言する。


「……お前、何でアイドルを辞めたんだ? 夢だって言ってたから応援してたし、俺だって諦め……いや、なんでもない。とにかく、何で諦めた? それとも、夢じゃなかったのか?」


「諦めた、とは思ってない。でも希望通りに行かないことだってあるんだよ。確かにステージで歌って踊ることは出来なくなったけど、ここでだってお客さんに楽しんで貰うことは出来る。あたしは運よく、この仕事を紹介して貰えた。だからここで頑張るの」


「そうか、なら勝手にしろ」


 昴はノートパソコンをリュックサックに突っ込み、ジャケットを羽織ると莉愛に背を向けた。


「あたしの試合もたまには見にきてよね! 見たことないんでしょ?」


 そう声を掛けてみるが、返事はなかった。


(うわぁ、なんなのあの態度。感じ悪っ! でも、まあいいや。言いたいことは言えたし、後は知らない。あたしはとにかく、あいつと闘えるように強くなるだけ!)


 莉愛はまたそう決意して立ち上がった。

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