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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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女子王座第一戦

(うーん、やっぱり平日だからお客さん少ないのかなあ。せっかく新しい衣装で、新しいファンをがっつり掴んで駆け上がろう、って感じだったのに)


 伽羅のデザインしたニンジャ風の衣装を着てアリーナに立つ莉愛は、まだ余裕のある観客席を見回して嘆息した。

 平日夜の闘技場には、会社帰りらしきワイシャツ姿の男性が多かった。とはいえ、やはり休日に比べれば人はまばらだ。もっとも、前回の莉愛の試合は後ろが大人気闘士同士の試合であり、その場所取りで前の試合も見ているために特別に人が多かった、というのもあるのだが。


(それに、やっぱりアウェー感あるんだよね。SNSの投稿を見て来てくれた人もいるけど、相手に比べたらだいぶ少ないな)


 対戦相手のファンは多数いて、うちわやらスポーツタオルやら、各々グッズを持ち応援席のようなものを形成している。だがそれに対して莉愛のファンはぽつぽつとまばらにいるだけだった。もちろん最初の試合より増えてはいるのだが。


(……っと、数じゃない数じゃない。来てくれた人がちゃんと楽しんでくれるように、きっちり勝とう! それにそしたらきっと、新しいファンだって増えるはず!)


 莉愛はぶんぶんと首を振り、相手のファンの数の多さに対する嫉妬心を振り払う。そしてその人気の主、莉愛より一つ上のBクラス闘士『ルゥ』に目を向ける。詰襟で金の二列ボタンのついた暗紅色の上着にショートパンツ、ショートカットの頭には大きめな制帽と、コスプレ感の強い軍服風の衣装を着た小柄で童顔の女だ。右肩には彼女の背丈と同じくらいの長さのバズーカを背負っている。


「うわぁ、何だいそのヘンな格好? ニンジャかなぁ? あ、もしかしてインバウンド対策のつもりなのかい? でもイマドキ、外人さんもそんなの期待してないよぉ。それにちっとも本格的じゃないし、逆にバカにしてる感じだよねぇ」


 ルゥがやや間延びした声で毒づいた。


「そう、見てのとおり、ニンジャだよ。あたしは本気だし、自分がいいな、って思うスタイルを貫くだけ。いろんなお客さんが楽しんでくれるように試合をするだけ!」


 莉愛は余裕たっぷりの笑顔で答えた。新調した衣装と装備が彼女の気分を高揚させていた。


「随分イイ子な回答だねぇ。ボクはそういう甘っちょろいのはキライだよぉ。あ、そうかぁ。キミ、Cクラスだけどもしかして新人さん? やだなぁ、運よくバトルロイヤルで勝ち残ったってだけで調子に乗らないでほしいなぁ。まあでも、対戦相手としてはそういうヤツのが楽でいいかなぁ?」


 ルゥはクスリと小ばかにしたような笑みを浮かべた。


「そっちこそ、一つ上のBクラスってだけで調子に乗らないでほしいな。まあでも、油断しててくれる方が楽でいっか!」


 莉愛はそう言ってからからと笑った。ルゥが不機嫌そうに眉根を寄せる。知らず知らずのうちに接近して火花を散らしていた二人に、システムから試合開始位置まで下がれ、との指示が飛ぶ。


「それでは女子王座トーナメント、一回戦第五試合、ルゥ対アキリア、試合開始!」


 いつもの試合開始の合図とともに、ルゥがバズーカを莉愛に向けた。

 莉愛はルゥの攻撃が来ることを予測して、回避するために横に飛ぶ。その予想は当たったものの、ルゥが撃ったバズーカから放たれた3.5インチロケット弾……ではなく謎のエネルギー弾と言おうか、予想外に大きな光の塊は、回避したはずの莉愛をかすめていった。莉愛のゲージが一割程度減少する。


(直撃じゃないのに、この威力……! バカでかいバズーカだもんね、威力も高いんだ。でも、威力の高い遠距離攻撃ってことは動きは鈍いはず! 近づいてしまえば、こっちのもの!)


 莉愛はルゥ目指して走る。


「近付かせないよ!」


 だがそんな莉愛に次々と砲弾が浴びせられる。回避はするのだが、大きな弾は躱しきれない。徐々にとはいえ、莉愛の体力ゲージは削られていく。


「ルゥの攻撃を躱しきれないアキリア! 近付けないまま終わってしまうのか⁉」


 だが、徐々に莉愛もバズーカの攻撃範囲や、攻撃時のルゥの癖が分かってきた。ルゥの攻撃を躱し、次の攻撃が来るであろう地点を予測し、そこを外して距離を詰める。そして思い切り、刀を振り下ろす。


「痛ったぁ……!」


「アキリアの攻撃がルゥに初のヒットだ!」


 莉愛は続けて刀を振るう。だが、それはルゥのバズーカに止められた。そしてルゥは力任せにバズーカを振り回す。


「えっ、それ近接武器としても使えるの⁉」


 莉愛は反射的に後ろへ下がる。そこへ追撃とばかりに弾が飛んできた。莉愛は辛うじてそれを躱したものの、またルゥとの距離が開いてしまった。


「ふふ……振り出しに戻ったね! ここから先はもう近づかせない!」


 また弾が飛んでくる。だが、莉愛は落ち着いてそれを躱し、


「近付かなくたって、攻撃はできる!」


 さっと太腿から投げナイフを引き抜き、ルゥに投げつける。


「なっ……投げナイフ? そんな遠距離攻撃、使うなんて!」


 莉愛の遠距離攻撃の可能性を全く考慮していなかった上に、バズーカを撃ち終わったばかりのルゥに躱すことは出来なかった。ルゥがダメージに混乱する隙に、莉愛は一気に距離を詰め、刀を振り下ろす。


「アキリア、投げナイフから攻撃に転じたぞ! ルゥ、捕まったが抜け出すことはできるのか⁉」


 莉愛はまたバズーカで止められないよう、死角に回り込んでの攻撃を繰り返した。遠距離武器の威力に全振りのルゥには、とても莉愛の動きに追いつけなかった。躱すことも防ぐことも出来ずに斬られ続け、あっという間にルゥのゲージが減っていく。

 やがて彼女はかくり、と膝を折った。


「うう……こんなはずじゃ……このボクがこんな新人にやられるなんて……!」


 ルゥは悔しそうに呻くと、やがて消えていった。


「勝者! アキリア‼」


 アナウンスが流れると同時に、いそいそとマイクを持ったインタビュワーがやってきた。


「それでは勝ったアキリアさん、一言どうぞ」


 話を向けられて莉愛は一瞬戸惑ったが、すぐにはっとそのインタビューが勝者の特権であることに気づき、満面の笑みでPRを始める。


「みなさん応援ありがとうございました! キューティーニンジャガール、アキリアです! みなさんのおかげで、今日は勝つことが出来ました! これからも、女子の頂点目指して――」


 上機嫌に話していた莉愛だったが、時間が来たらしく早く終われと催促されて、


「頑張りますので応援よろしく!」


 と、早口になりながらもそう言い切って観客席に手を振った。

 だが上の方に陣取る賭博愛好家たちはもう次の試合の予想を立て始めていたし、一般客は試合の合間のリフレッシュに売店に向かっていたり、混む前に外に出ようと席を立っていたりと反応は薄い。残っているアイドルのファンらしき客席の一団だけはそこそこ盛り上がっていたものの、やはりルゥの敗北を嘆く声の方が大きかった。そんな中、いつも通りに係員がやってきて、莉愛を退場させた。

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― 新着の感想 ―
キューティニンジャガール、自分で言っちゃうのが潔い(笑)。さすがアイドル!
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