莉愛の決意
「Sクラスになったら、M45と戦えるんだよね?」
哲たちと別れた後、帰り道で莉愛が問いかける。
「M45と⁉ そうだけど……女子でSクラスなんて、メロディアくらいなんだよ」
「えっ、そうなの?」
「Bクラス以下は男女別、Aクラス以上は男女一緒なんだけど、中々Aクラスで勝てないんだよね」
「男子の方が強いってこと? ……でも、パワードスーツで体格差は埋まるって言ってたような……? それにメロディアは負けたとはいえM45と互角に戦ってたよ?」
確かアンがそんな事を言っていた。殺戮機械M45こと昴と控室で見たメロディアでは覆しがたい体格差がある。現実ならば昴が圧勝することだろう。だが、先ほどの試合はそうではなかった。
「メロディアだからだよ。普通の女子闘士は遠距離攻撃主体だし、スーツのアシスト力が強くても、それを使いこなせていないんだよね。っていうのもあって、大体男子の方が強いんだ」
「なるほど」
「うん。でもね、男子の方が強いし試合も見ごたえがあるんだけど、上位ランクの試合は別として、女子の方がお客さんの入りが良かったりするんだ。アイドル時代のファンとかも来るし。その辺が気に入らないって声もあるんだよね……」
「そんなこと言ってたなあ……。分からなくも無いけど。でもエンタメとしてはお客さんの求めているものを供給するのが重要なわけだしね」
莉愛もアンが男子闘士たちに言っていたことに賛成だった。
「だから可愛くて、強ければオールオッケーでしょ! あの殺戮機械M45だって、実力があれば黙るしかない! あたし、絶対強くなってやる!」
あの時昴がメロディアは特別、と言っていたのを思い出しながら、莉愛は拳を握る。彼女だけが特別というのは、莉愛には耐えがたかった。
「……凄いねえ、莉愛ちゃん。それなら、まずは装備を工夫するところからだよ。さっき哲さんが言ってたように、遠距離攻撃の威力とスーツのアシスト力のトレードオフは重要だよ」
「そっか。じゃあ帰ったら早速装備、見直してみる! とにかくできるところからやっていかなくちゃね!」
莉愛は気合を込めて飛鳥に応じる。
「ちょうどこれから女子王座本戦が始まるからね……ランクを上げるならチャンスかも」
「え? そういえば、ちょいちょいさっきから話が出てたけど女子王座って何?」
「名前通り、女子のトップを決める闘いだよ。今日のは予選、次からはトーナメント形式。普段戦えない上のランクの闘士とも戦えるし、勝ち上がっていけば試合数も稼げるよ」
へえ、と莉愛は頷く。確かにそれは勝利数を稼ぎランクを上げるチャンスに違いなかった。
「あ、じゃあメロディアとも戦えるの? 勝ったら、一気にSクラス?」
「ううん。メロディアは出てないよ。他の女子じゃ相手にならないから」
「そうなんだ……」
残念そうな莉愛に、飛鳥は呆れと驚きと羨望の混じった笑みを向ける。
「そうそう、後、人気闘士を目指すなら見た目というかキャラクター。なんだかんだ言って人気もランクに反映されるみたいだから、重要だよ。かのM45だって、そのへん作りこんでるわけだしね。ちゃーんとキャラを作って、これからのトーナメントでアピール!」
「色々教えてくれてありがとう。それに飛鳥の無茶のおかげであんないい場所で見られたし、励みになってホント良かったよ!」
莉愛は心から礼を言った。飛鳥は少し照れたように笑う。
「そんなのいいよ。わたしが見たかっただけだし。でもそういえば、哲さんて結局何者なんだろうね? メロディアのおじいさんとかかなあ? それともただのファンの人なのかな」
「謎だよね。ここの事に詳しかったし、眼光鋭かったし、実は闘士とか? でもさすがにあの年でってことはないと思うし、若い頃は、って言うほど闘技場に歴史はないよね。ま、分かんないし気にしない方がいいのかも」
飛鳥の問いに、莉愛は腕組みしながら考えてみたものの、結局答えは出なかった。
「そうだね。あ、わたしはモノレールだから向こうだけど、莉愛ちゃんは……ああ、地下鉄? じゃ、ここでお別れだね。じゃあね!」
とりとめなく話しているうちに闘技場の敷地外に出ていた。別の駅に向かう飛鳥とは、ここでお別れのようだ。飛鳥はぶんぶんと手を振ると、莉愛とは逆の道をのんびりと歩いていった。莉愛も手を振り返し、彼女を見送った。
(昴……殺戮機械M45、凄く強かった。会場を沸かせてた。だけど、元アイドルだからって下に見るのは許せない。つよくてかわいい女子闘士として、絶対勝って振り向かせてやる!)
莉愛は決意を新たにすると、地下鉄の駅を目指して駆け出した。
帰宅し、食事や入浴を終えた莉愛は、ごく狭いワンルームの中央に置かれたローテーブルの前に腰を下すと、タブレットで早速専用サイトを開く。
「ええと……専用のサイトにログインして、アプリをダウンロード、と。じゃあ、さっそくやってみよう!」
てきぱきと環境を揃え、腕まくりしてタブレットの画面を覗き込んだ莉愛だったが、その気合も長くは続かなかった。
「うぇえ……遠距離武器って結構色々あるんだね……。威力が高いものを選択すると、動きが悪くなる、と。とはいえM45みたいに接近戦に全振りはリスキーだし。どれにしたらいいんだろう?」
画面に表示された様々な武器とその効果のリストを見て、莉愛は頭を抱えて大きくのけぞった。
「そ……そうだ先に見た目を作ろう! コンセプトが決まったら、それに合わせた武器にしたらいいじゃん! ううん……プリセットも結構あるけど、どれもイマイチかなあ。自分で作るとすると……3Dモデリング? うぇえ……」
莉愛は項垂れた。そんな技術は彼女にはなかった。
「あ、作ってくれるサービスがあるんだ。希望を伝えて一から作ってもらうか、デザイン画を渡してモデルを起こしてもらうか、なのか……。って……一からだとお値段四万から? デザイン画有りでも二万から? うう……高い。でもアイドルたるもの見た目は大事! デザイン画は自分で描かなくちゃ!」
解決手段を見つけたものの価格の高さに莉愛は思い切り顔をしかめたが、将来への投資と割り切った。
「何にしてもコンセプトを決めなきゃね。正統派特撮変身ヒロインはメロディアと被るから絶対ダメ! M45みたいに悪役路線? アン社長みたいな悪の女帝的なセクシー路線は需要はありそうだけど、あたしじゃあね」
彼女は自分の薄い胸に目を落としてため息をついた。
「ま、メロディアはちょっと古めのヒロインて感じだったし、他はイマドキ魔法少女系だし、そこを外して考えよう。ガンガン動ける感じがいいな! あ……明日バイトだった。早く起きなくちゃだから、もう寝ないと。設定はバイトの後かな……」
今日は試合その他で疲れたこともあるし、明日の朝も早い。ということで莉愛はさっさとタブレットのカバーを閉じ、ベッドにぱたりと倒れ込んだ。




