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追放アイドルは最強闘士をおとしたい  作者: 須藤 晴人


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ファンたちの熱き戦い

 樫尾の先導で辿りついた個室はふかふかの紺青の絨毯が敷き詰められ、アリーナに面した部分は全面ガラス張りの豪華な空間だった。四人で入っても十分な広さだ。ガラスのすぐそばには革張りのロングソファがしつらえてある。


「うわあ……広いし豪華ですね。こんなところもあるなんて。VIPルームって感じです」


 通された莉愛は、中を見回して驚きの声を上げた。


「まあ、そんなところだね。さあ、掛けてくれ」


 哲に勧められ、莉愛と飛鳥も腰を下す。ソファにはまだ随分と余裕があるのだが、世話係の樫尾は座ろうとはせず後ろにじっと控えていた。


「私は特にドリーミィメロディアのファンでね、彼女の試合は必ず見に来るんだ。今日もどんな試合を見せてくれるか楽しみだよ」


 今までのどちらかと言えば作ったような笑顔とは異なり、楽しそうに哲が笑った。それを聞いて、


「メロディアの……⁉」


 飛鳥がぎくりと、引きつった笑みを浮かべた。


「おや、君はひょっとして殺戮機械M45のファンなのかね?」


 ゆっくりと哲が飛鳥に振り返り、彼女を射竦めた。飛鳥は困ったように視線を彷徨わせる。


「ははは、安心したまえ。別に贔屓の相手が違ったからといって追い出したりはせんよ。好きな闘士を応援するといい」


 しばらくそんな飛鳥の様子を見ていた後、老紳士はからからと笑った。その言葉に、飛鳥はほっと胸をなでおろす。


「だがまあ、いくら彼が無敗でSクラスまで上がってきたとはいえ、メロディアには勝てまいよ。彼女なら、彼が近づく前に仕留めるさ。キャリアが違うしな」


 だが、そんな飛鳥に哲はきっぱりと言い切った。彼女はあからさまにムッとした表情で、


「そんなことありませんよ! 殺戮機械、強いんですから! あのスピードでさくっと近づいて、メロディアなんて瞬殺しちゃうんですから!」


 と、さっきまでの挙動不審もどこへやら、強く抗議した。どうやら彼女は好きな物のこととなると突っ走る性質であるらしい。熱の入ったファンの様子に、哲は面白そうに目を細めた。


「莉愛ちゃんも殺戮機械でしょ? さっき、試合見たいって言ってたし!」


 飛鳥が凄い勢いで莉愛を振り返り、肩を掴む。仲間を増やそうと必死なようだ。


「え? うーん……まあ殺戮機械M45は気になるんだけど、ファンてわけじゃないかな……。大体あいつ、女子闘士のことよく思ってないみたいだし……」


「女子闘士っていうか、アイドル出身の女子闘士のことを嫌ってるのは知ってる。でもいいの。嫌うのも分からなくはないし」


「どういうこと?」


「この試合を見たらきっと分かると思う」


 飛鳥はふっと軽くため息をつき、アリーナに目を落とした。莉愛もそちらに目を向ける。


「うわぁ……なんかハリウッド映画の悪役っぽいヤバそうな機械が来た。どう見てもアレが殺戮機械M45だよね。ああ……子供怯えちゃってるよ。確かにあれは怖い」


 入場してきたのは骸骨を思わせる鈍色の金属骨格のサイボーグだった。それを観客の大ブーイングが迎える。サイボーグは怪しげに赤く光る瞳で観客席を睨みつけた。反射的に静まり返った会場の中を、彼は悠々と歩いていく。

 その反対から、今度は割れんばかりの声援に包まれて、目元を隠す赤い仮面をつけた美少女が入ってきた。白い羽根のついた紺のベレー帽から編み込んだ艶やかな黒髪をさげ、肋骨服のような飾り紐のついた白いミニ丈のコートとタイツにサイハイブーツを履き、濃紺のマントを翻している。


「わー、可愛い。あのドリーミィメロディアってきっと、さっきロッカールームにいたキレイな子だよね?」


「そうそう。といってわたしも素顔は初めて見たから、確証はないけどね。メロディア、素顔は公開してないんだ。まあ仮面ごしでも美人だから、納得って感じだけど」


「悪の殺戮機械対正義の変身特撮ヒロインって感じだね。これだと応援したくなるのは断然メロディアかな」


「莉愛ちゃんの裏切り者……」


 はしゃぐ莉愛に、飛鳥が恨めしそうに呟いた。


「そうだろうそうだろう! 秋山君、分かっているじゃないか! ふふふ……そして彼女は可憐なだけでなく強いんだよ。まあ、じっくり見てみようじゃないか。そろそろ始まる」


 飛鳥とは対照的に、哲は声を弾ませ、満足げにうなずいた。その後ろで、樫尾がやれやれ、とでもいうように小さくため息をついていた。

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