第7話
現状で一番効率のいいやり方も見つかり二人で魔法を出すのが安定してきたため、補講の回数が減ってきたことでふと気が付いた。
達輝が私のことを避けている、と思う。
魔法の練習で忙しくしていたから、彼の行動にまで気が回っていなかったが、多分、いやおそらく、いや絶対に、そうだ。目が合ったから近くまで行くと、直前まで何もしていなかったのにもかかわらず逃げていく。明らかに避けられている。
何か気に障ることをしてしまっただろうか。とうとう傍にいることに嫌気が差しただろうか。
「……あー、もう!」
何をしたか見当もつかないので、手っ取り早く達輝に直接聞いてみることにした。
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「はぁ、はぁ……! やっと、捕まえたっ!」
「おま、足、そんな早かったっけ……っ」
「あー! つっかれた!」
避けている理由を直接聞こうと達輝の元へ行くと、私に気が付かないフリをして逃げていくので、それに構わず彼を追いかけた。徐々にスピードが早くなっていったので、私も合わせて早くする。校内を走り回って、屋上に辿り着いた末にようやく達輝を捕まえた。先に走り始めたのが達輝だったおかげか、スタミナも先に切れたらしい。
屋上に置いてあるベンチに達輝の手を掴んだまま腰かける。幼少期ぶりに全力疾走した気がする。心臓がバクバクと悲鳴をあげている。身体は疲れ切っているが、どこか心地いい。
「……はぁ。なんで、追いかけてきたんだよ」
「なんではこっちの台詞ですけど? ……なんで逃げるの」
「っ! そ、それは……」
「……私のこと、嫌いになったなら面と向かって言ってくれた方が助かる」
本当は嫌いなんて言われたくない。ずっと傍にいてくれた達輝が離れていってほしくない。でも、他の人たちと同じように何も言わないで、ある日突然関係性がなくなったみたいな態度をとられる方が心が苦しくなる。
「……は、え? なんでいきなり嫌いとか出てくるんだよ」
「今まで、みんなそうだったから」
「あー……悪い、そういうつもりじゃ」
「じゃあ、どういうつもり? どうして避けるのよ」
隣に座っている達輝にずいっと近付いて問い詰める。分かりやすいくらいに瞳が泳いでいる。こんなに慌てふためく彼を見るのはいつ以来だろう。もしかしたら初めてかもしれない。
「っエステラさん……ぁ」
「なに、その横文字のな、まえ……っ!」
達輝の口からこぼれたカタカナの名前を聞いた瞬間、急に頭が割れるように痛む。なに、この、頭痛。思わず彼の腕を掴んでいた手を離し、頭を両手で押さえる。このまま死んでしまうんじゃないかと思うくらい痛い。痛みだけしか考えられなくなるはずなのに、脳内では今まで散々見てきた夢のいろいろなシーンがぐるぐると現れては消えていく。
頭だけでなく、いつの間にか腹部まで痛み始める。違う。私は、このお腹の痛みを、知っている。エステラ。それは、私の名前――。
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「チッ! また、あの女か!」
「ちょっと魔法が強いからって調子に乗りやがって……!」
男たちが私に聞こえるようにわざと大きな声で文句を言っている。
「気にすることはないよ、エステラ。君が優秀なのを妬んでいるだけだからね」
「閣下……気遣っていただき、ありがとうございます」
閣下――私の上官にあたる人は、魔法はそれほど強くないが政に長けており、この国のトップによく助言をしていた。裏から国を動かしていると言っても過言ではないほどに、彼は頼られていた。
そんな彼に私はとても気に入られていた。魔法が強大であり貴重な光魔法の使い手だったから、国のための兵器としてだが。
利用されていることは分かっていた。閣下を嫌う軍内部の敵対派閥からもよく嫌がらせを受けた。自由はほとんどなく、彼に言う通りの行動を求められ窮屈だった。それでも、天涯孤独だった私を受け入れてくれた軍や閣下には恩を感じていた。
あの日までは――。