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第6話

「……はいはい、知ってた知ってた。やっぱり『半端者』は私だけ――」

「有沢さん! まだ、試していない呪文が……」

「はぁ? 4元素全部やったけど」


 隣で呪文を聞いていたはずの百合園さんがおかしなことを言うので、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


「……極まれに、4元素以外の性質が出る人もいる、と教科書に書いてあったのを覚えてない?」


 彼女の言葉を聞いて、遥か昔に読んだ教科書の内容を思い出す。そういえばそんなことが書いてあったっけ。魔法が使えない私には関係ないと思って、適当に読み飛ばしていた気がする。でも、あれは、少なくとも今生きている人は誰も見たことがないような大昔の文献にあった話だ。まさに――。


「……いや、あんなの都市伝説でしょ? この国どころか世界にもいないんじゃなかった?」

「でも、可能性があるなら……」

「っああ、もう分かった! やればいいんでしょ、やれば!」

「あ、ありがとう!」

「……で、呪文なんだっけ」


 そんな都市伝説級の呪文まで覚えている百合園さんに教えてもらいながら、ひとつずつ呪文を唱えていく。

 順番に試していくが、どれも出る気配がなかった。


「もう有沢さんは、無理なのよ。そろそろ諦めたらどう?」


 教師が面倒くさそうに言う。私もそう思う。4元素で出なかった時点で意味がないだろうとほぼ確信していたが、百合園さんの意志の強さに押されてつい承諾してしまった。

 無駄に足掻いて、また惨めな思いを味わってしまった。

 諦めよう。そう彼女に提言しようとした。


「有沢さん、次は、光魔法の呪文で――」


 でも、彼女は諦めてくれなかった。やってもいいと言ったのは私なので、彼女の気が済むまで付き合おう。

 聞いた呪文を正確に唱えたその時、辺りがぱあっと明るくなった後、1本のレーザーが室内に現れた。

 質量で言えば中級程度だろうか。初めて見る魔法だから、通常の指標が意味を成すのかは分からないけど。

 いや、初めてじゃないような気がする。この光どこかで一度見た記憶がある。どこだったかまでは、思い出せないけど。


「……今の、なに……?」

「有沢さん、すごい! 文章でしか見たことがなかったけど、光魔法ってこんな感じなんだ!」

「は? 光魔法? 私が?」

「今唱えたの、光魔法だから、間違いないよ!」


 光魔法。4元素のどこにも属さない魔法。

 それを『半端者』の私が出せたの? どういう原理でそんなたいそうな魔法が出てきたのか。


「……ていうか、ほんとに『半端者』が合わさったら1になったってこと? はは! 笑える!」


 彼女の話を聞いた時、馬鹿げた仮説だと思った。でも、それが現実になった。

 私たち『半端者』にだけ搭載されている、気付かなければ分からないとんだ迷惑な仕様だけど、気付けてよかった。私より嬉しそうに喜んでいる百合園さんを見て、私も安堵した。

 これから大きく日常が動くことになるとも知らずに――。


 --------------------------------------------------------------------------------


「あの光、は……ぐっ!」


「は、はぁ、はっ……まさか、そんなこと……」


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 私と百合園さんがお互いに触れている間は魔法が常人、いやそれ以上に使えることが分かった日から、真面目に練習に取り組むようになった。触れている面積が関係するのか、とか、肌に近ければ近いほどいいのか、とか。いろいろな実験を繰り返して最適解を探し続けた。

 授業も以前に比べたら出席するようになり、忙しい日々を送っていた。私たちと同じで達輝も何やら忙しいようで、あの光魔法を出せた日から一度も補講に見学に来ていなかった。


 魔法が使えるようになってから変わったことは他にもある。以前一度見た不思議な夢を何度も見るようになった。最初に見た夢とは場面がすべて違ったが、どの夢もあの強そうな女性視点で描かれていた。夢を見る時は浅い眠りだから疲れがとれた気がしないとよく言われているが、私の場合は身体はすっきりしていたが心がどこかモヤモヤしたままだった。

 今日も、補講の休憩中にその夢を思い出し考えを巡らせていたら、百合園さんが私の顔を覗きこんでいた。


「っ! びっくりした、なに?」

「あ、ごめんなさい! なにか、悩んでいるのかと思って……」

「悩み……まあ、そうとも言えるかもね。最近、ずっと変な夢を見るんだよね」

「! わ、わたしも! 出てくる人は同じだけど、場面が違ってて」


 まさか『半端者』だけでなく夢を見るところまで同じ境遇だとは思っておらずびっくりしたけど、新しい共通点ができたみたいで少し嬉しかった。

 お互いの夢の内容について話してみると、夢の見方は同じでもその中身はさすがに違うものだった。

 百合園さんの夢は、どこか小さな村や町のようなところで両親と親戚かなにかの同い年の男の子と暮らしているというものだった。何度も見るうちに二人は成長し、その男の子はおそらく就職のために住んでいた場所から都会へと出て行ってしまう。百合園さんと思われる女の子は離れてしまった男の子と手紙のやり取りをするが、徐々に返事が来なくなり悲しくなるという夢らしい。


「ふーん……私のも百合園さんのも物語の筋がちゃんとあるの、なんか不思議ね」

「そうだよね。普通、夢って支離滅裂なこと多いから……」

「はは、確かに。この夢見始める前に見た夢も――」


 それから、補講のある日はその休憩時間に最近見た夢の話をした。

 夢の報告会をしていて気付いたことがあるが、どちらの夢もある年齢から先の場面は一切出てこない。内容に一貫性があるわりには、その結末は何も分からない。

 本当に不思議な夢。その時はただそう思っていた。

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