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第5話

 普段の授業はサボりながらも補講は相変わらず行われた。適当にやっても何一つ文句を言われなかったから、卒業の権利を保持するためだけに参加し続けた。たまに補講を見に来る達輝には練習したら、と何度も言われたけど、私だけが『半端者』だからと答えると、そうかとだけ返ってきた。しつこく言ってくるが、深追いはしないところが達輝らしかった。今日は来ていないから何も言われないけど。

 そんな怠惰な私に対して、百合園さんはずっと練習を続けていた。でも、あの日以来一度も魔法は出ていなかった。浮遊魔法も以前のままだった。


(……ほら、やっぱりまぐれじゃん。不安定がどうとか、そういう問題じゃないでしょ)


 口には出さないが、彼女を見ながら心の中で思った。教師が言っていたように、一度出せた人と一度も出せていない人には大きな差があるかもしれないが、これだけ出せないとなると本当に偶然だったんじゃないだろうか。いや、違う。……偶然であってほしい。

 百合園さんが転校してくる前にはこんなこと思わなかっただろう。でも、私が、『半端者』が一人じゃないと知ってしまったから。もう誰も離れてほしくない。


「……はぁ」


 練習を中断し休憩に入った百合園さんがため息をつきながら椅子に座った。

 水筒を取り出し飲み物を飲んでいる最中も、あの魔法について考え込んでいるようだった。数分後、百合園さんは練習を再開しようと立ち上がった時、何か思いついたかのようにそういえば、と小さく呟いた。


「あの時、たしか、有沢さんとぶつかって……」

「は? ああ、そういえばそうね」


 私が後ろを通っていたのに気付かず、(さが)ってきた彼女とぶつかった瞬間にあの魔法は出た。


「じゃあ、何かしらの衝撃、が必要……とか」

「衝撃、ですか……。では、百合園さんが怪我をしない程度に衝撃を魔法で与えてみましょう」


 教師はそう言って、ぶつかるのと同等の衝撃を百合園さんに放ち、そのタイミングで百合園さんも呪文を唱える。呪文を唱えるタイミングや衝撃が加わる箇所を変えながら、何度も試していたが成功はしなかった。


「百合園さんに負担がかかってしまうので、これ以上の実験は難しいですね……」

「は、はい。ありがとうございます、先生。……もしかして」


 教師の魔法が止んだと思ったら、百合園さんがこちらに振り向き歩いてやってきた。次は私に試せって言うのだろうか。


「あ、あの!」

「……なに」

「まだ、仮定だけど、ぶつかったが大事ではなくて、有沢さんに、の方が大事なのかもしれなくて……」

「? どういうこと」

「えっと……有沢さんに触れていたから、魔法が出せたのではないか、ってことなんだけど……」


 言っていることは理解できる。でも、その原理までは分からない。ゴールに向かうための実験の仮定ってそういうものなのかもしれないけど。


「……そんなことで、出るわけないじゃん。なに、『半端者』同士だから合わせたら1になるってわけ?」

「分からないけど……でも、少しでも生まれた可能性は試してみたいの。だめ、かな?」


 馬鹿げた話だとは思う。彼女の言う可能性で言えば、1%にも満たないようなものだ。

 口調は遠慮がちだが、私を見据える目の奥に初めて会った日に感じた一本通った芯のようなものが変わらずに存在していた。絶対に諦めないとでも言いたげな瞳の根気に折れるほかなかった。


「……分かった。触れるだけでいいのね?」

「! う、うん! ありがとう!」


 先ほどまでの練習の疲れを見せない笑顔で彼女は嬉しそうに言った。


「じゃあ……ぶつかった時だし、肩でも持てばいいんじゃない」

「そう、だね。 ……?」

「っ……?」


 少し間をおいて、上級相当に該当する呪文を唱えると、あの日と同じ魔法が出現した。


「!?」


 私も百合園さんも驚いて二人で顔を見合わせる。1%にも満たないはずだった可能性が、一気に半分以上まであがっていく。


「どうして……今、指先に何か、電気のような……」


 百合園さんが呟いた言葉に私も覚えがあった。彼女に肩に触れられた瞬間、服越しに何か静電気のような刺激を感じた。他人に触れられたことへの緊張のようなものだと思ったから気にも留めていなかったが、今大きな魔法を放った彼女の口から同じ感覚の言葉を聞いた以上、偶然には思えなかった。

 もしかして、私も……。そう思って、彼女と同じ呪文を唱えた。だけど、小さな火の玉さえ出ることはなかった。

 まだ、まだだ。魔法は4元素からなっている。あと3つの性質がある。ずっと諦めていたはずなのに、今は諦めたくない。続けて残りの呪文を唱えた。そのどれからも応答は返ってこなかった。


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