森の中1
暖かな陽の光に導かれて瞼を開けるとそこは木漏れ日の漏れる静かな森の中だった。
(そうだ!あいつは!?)
微睡みから目覚めた俺は周りを見渡すと、すぐ近くに幼馴染が倒れていることを確認できた。
駆け寄って様子を見れば異常はなさそうで、口元に手を当てれば呼吸をしていることも確認できた。
(よかった…)
ホッと胸を撫で下ろして俺は再度周りの様子を確認してみる。
風に吹かれた木々によってちらちらと姿を変える光に、獣の声一つしない森。自分たちが倒れていたところは丁度開けた場所のようで近くに木は生えていない。地面はフカフカとした葉っぱが積もっていた。穏やかとしか言いようのない状況であった。
(あのリタクとかいう神様が言ってた通り危険はなさそうだけど…ここからどうすればいいんだ…?)
ある程度状況が判ると今度は違うことに頭を悩ませなくてはならないことに気がついてしまった。
(人が通るような場所でも無さそうだしなぁ…)
「ううん〜…」
そんなことを思っていたときに傍らで倒れていた彼女からうめき声が聞こえた。
どうやら目覚めが近いようだ。
「おはよ〜、あれ〜?ここどこ〜?」
寝ぼけているのだろう、そう声を漏らす彼女に俺は声をかけた。
「おはよーさん。ここはどこかは判らん、けど、あのリタクとかいうやつが言ってたイセカイってとこじゃねぇの?」
自分の言葉に返事が返ってくるなんて思っていなかったのだろう。彼女は体をビクリと縦に浮かばせ、そろそろと俺の方を見た。
「あー、良かった…きみかぁ…びっくりさせないでよぉ………って声出る!?」
「まぁ、無事に移動できたってことなんじゃね?……んで、起きて早々悪いんだけど、どうするか決めたい」
「どうする、っていうのは?」
「俺が見た限りだとココはとりあえずヤバいのがいなさそうな森なんだが…ここから何をすればいいのか、どこに向かうべきなのか、そこがわかんないだろ?」
「あ、そうなんだ。それでどうする、ね」
むむっ…と眉間に皺を寄せて考えだした彼女にまずは提案する。
「ここは俺たちが生まれた世界とは全然違うってきいたよな」
「うん、あの神様が言ってたよね」
「だからさ、俺たちの名前…自分で新しく決めないか…?」
その提案に彼女は目を輝かせた。
「すっっっごくいい!私達しか知らない情報って言うのもいいよね!おもしろそう!」
と、言うわけで俺達が異世界に転移してから始まったのは飯の確保でもなく、寝床の確保でもなくまさかの名前を考えることだった。
今思うとなぜとしか言いようがない。
「決めたわ!私はティアリアにする!」
「俺はハヤトにしようかな。」
オッケーとそれぞれの名前を確認しあって、間違えないように口の中で言葉を遊ばせて。
そして示し合わせたようにお互いを見る。
「それじゃあ…改めてよろしく!ハヤト!!」
「俺の方こそ、これからもよろしく!ティアリア」
そうして満面の笑みを浮かべて俺を見るティアリアに俺は同じように笑みを返した。
ぐぅぅぅ…
そのタイミングで二人のお腹からお腹の音が鳴り
「…ご飯探そっか」
と少し頬を染めながらティアリアは俺に提案したのだった。