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イクメンスーパースター  作者: 猫様を崇める人
2/2

天才ルミちゃんと凡人アミちゃん

評価や感想もらえるとやる気でるのでお願いします。

 不知火瑠美と不知火亜美は見た目以外はまるで違う姉妹だった。

「じゃあ今日はお絵かきをしましょう。みんなの好きなものを描いてね」

 二人の組の担当である翔子に言われて各々画用紙に好きな絵を描き始める。

「おおー。さすがルミちゃん、上手だね」

「えへへ。サッカーしてるパパだよ」

「ルミちゃんのパパかっこよく描けてるね」

「うん! 明日もゴール決めてくれるの!」

 瑠美の隣では同じ顔の亜美も絵を描いていた。翔子も見回りで亜美の絵を見る。そして、固まった。

 翔子は考える。褒めなくてはならないが、どう褒めればよいかわからない。それほど亜美の絵は独特、もっと端的にいうなら下手だった。

「え、えーとアミちゃんは何を描いたのかな?」

 翔子は自然に亜美からまず何を描いたのか聞き出す作戦に出る。だが、

「……なんだと思う?」

 その作戦は霧散した。

「え、えーと」

「あ、アミもパパ描いてる!」

「え?」

 隣から覗き込んできた瑠美がいとも簡単に答えを出した。しかし、この絵が瑠美と同じものを描いていたとはどうしても思えなかった。

「パパかっこいいもんね。あ、でもパパと結婚するのはルミとだから」

「……アミだってあげないもん」

 喧嘩の気配がして、すぐに翔子がまあまあと二人をなだめる。

「藤村先生、たけしくんが」

「え?」

 亜美に言われて振り返ると少年がもじもじと立っていた。

「あ、トイレかな?」

 こくりと少年が頷いたので、いいよと見送る。

 たけし少年を見送りながら、翔子は瑠美の謎の能力について考えていた。しかし、考えても思いつくはずもなく。

「ま、ルミちゃんは天才だし」

 翔子は双子でなぜここまで才能の差があるのかと不思議には思ったが、それ以上考えることはやめて業務に戻る。

「……先生危ないよ」

「おっと、ありがとうアミちゃん」

 亜美の声にハッとして床に落ちていた色鉛筆を踏むことを回避できた。亜美は才能はないかもしれないが、いいところはたくさんある。翔子はそう思った。


 この幼稚園にはサッカーボールは置いていない。だから今瑠美と亜美が蹴っているものは自宅からもってきたものだ。

 大好きな父親がサッカー選手なのだから、女の子だからといって憧れても不思議ではない。

「翔子ちゃんもやろうよ」

「でも先生は下手っぴだよ?」

「大丈夫だよ。アミも下手だし」

「むう」

 亜美は瑠美を睨むが、瑠美は気にする様子もない。他の子も各々遊んでいるし目が届く範囲である。

「少しだけだからね」

「「やったー!」」

 瑠美は本当に天才だった。ボールが足に吸い付くようで、翔子はディフェンスを頼まれてやったが、大の大人が幼稚園児にいいようにやられた。

 ただ、亜美も翔子に挑んだが、亜美の場合はスピードが早くないため、取ろうと思えば取ることができた。もちろんそこはボールを奪わず華をもたせてあげた。

「はあ、二人とも上手だね」

「えへへ、でもルミの方が上手でしょ?」

「うん、ちょっとだけね。でもアミちゃんだって」

「ルミ、来て」

 亜美はムッとした表情で瑠美にボールを渡す。

「ふうーん。ルミに勝つつもりなんだ」

「いつもアミに負けてるくせに調子に乗るな」

「引き分けの癖に勝ってるつもりなんだ。アミこそ調子に乗りすぎ」

 瑠美が亜美に負けている? いや、引き分け?

 どちらにせよ、二人の会話に翔子は違和感を覚える。明らかに瑠美の方が上手いのに、亜美が引き分けることなどできるはずがないと思った。

「奪えるもんなら奪ってみてよ!」

 瑠美がプロも驚くようなネイマール並のフェイントで抜きにかかる。翔子のときよりも明らかに本気で翔子は瑠美が抜いたと思った。しかし、

「そう来ると思った」

 亜美の右足が体重のかかった方とは逆に伸び、亜美がボールを奪っていた。

「あーもう、また! なんでアミを抜けないの!?」

 瑠美は地団駄を踏んで悔しがる。

 そんな瑠美を尻目に亜美は翔子に問いかける。

「アミの方が上手?」

「い、今のはアミちゃん上手だったね」

 翔子は何が起きたのか理解できず、一言絞り出すだけで精一杯だった。


 昼寝を挟んで歌の時間。

 やはり瑠美は音感がありとても上手だが、亜美は他の子と同じあるいはそれよりもひどく、とてもではないが才能があるとは言えなかった。

 これまで何をやっても瑠美はなんでもでき、亜美は何もできない。強いていえば、走るのはそこそこ速いが、瑠美に比べれば全然だ。

 いつしか園内の先生たちの間では天才のルミちゃんと凡才のアミちゃんと呼ばれるようになった。翔子も同じように考えていた。

 けれど、今日二人とサッカーをしてみて本当にそうなのかと疑問に思った。確かに瑠美は優れているが、本当にすべてにおいて亜美を上回っているのかと。

 サッカー素人の翔子はサッカーの優劣はわからない。けれど、少なくともサッカーにおいては瑠美と亜美の間に優劣はないのではないかと思った。

「すみません、また遅くなりました」

「不知火さん、お疲れ様です」

 翔子はいつもの営業スマイルで達也を出迎える。不知火達也はサッカー無知の翔子でも知っているスーパースターである。

 しかし、実際に会ってみれば子育てに没頭するただの二児の父親だった。だから最初こそ緊張していた翔子も今では一人の父親として接している。

「あの、ちょっとだけお話いいですか?」

「え? あのまた瑠美が何かやらかしました?」

「いえいえ、ルミちゃんはいい子でしたよ。もちろんアミちゃんも」

「ならよかった」

 ほっと肩を撫で下ろす様子を見ればやはりただの父親である。

「それでお話というのは?」

「はい、その少し失礼なお話とは承知しているのですが、ルミちゃんとアミちゃんは私たちの間では天才ルミちゃんと凡才アミちゃんと呼ばれています。あ、もちろんそれで贔屓したり本人たちに何か言っているわけではないですよ」

「天才ルミちゃんと凡才アミちゃんか。なかなか言い得て妙ですね」

 怒られると思っていた翔子の予想とは裏腹に達也は笑っていた。

「まあ瑠美は確かに天才ですよ。別に親バカだからとかではなくて、何をやらせてもすぐにできてしまう。才能に溢れています。その点亜美は不器用で、俺に似ちゃいましたかね」

 あははと笑う達也が翔子からすると意外だった。

「不知火さんはアミちゃんみたいだったのですか?」

「そうですね。昔から何をやってもダメダメで。でもサッカーだけは人より少しだけ上手でした。俺にはサッカーしかないんですよ。まあさすがに亜美はもう少しマシだと思いますが」

 多分達也と同じだとは翔子の口からは言えなかった。

「でもどうしてそんなことを?」

「失礼ながら私もルミちゃんがアミちゃんよりも優れていると思っていました。でも、今日二人とサッカーをしたんです。そうしたら」

「亜美が瑠美からボールを奪ったでしょう?」

「え、ええ。いつものことなのですか?」

「そうですよ。そして、今の瑠美では亜美を抜けない。絶対にです」

「それはどうしてですか?」

「ここからは少し細かい話になっちゃうので。まあ簡単に言っちゃうと瑠美に見えないものが亜美には見えているってことですかね」

 翔子にはさっぱりわからなかった。

 そうだと達也は鞄の中からチケットを三枚出す。

「よかったら明日の試合見にきませんか? チケット余ってるみたいで誰か瑠美と亜美の世話をしてくれると助かるのですが」

「えっとお気持ちは嬉しいのですが特定の子に肩入れするわけには」

「行ってきなさい」

「へ?」

 たまたま通りかかった園長が背中を押す。

「いいのでしょうか?」

「不倫ならともかく、独り身同士のプライベートにまでうちの幼稚園は口出ししません」

「ありがとうございます、園長」

 片手を上げて去っていく園長の背中を見てかっこいいと翔子は思った。園長も独り身だけど。

「えっとそれじゃあいいってことでしょうか?」

「ええ。ぜひ応援させてください」

「なになにー」

 気づいた瑠美が達也と翔子の元へやってくる。

「瑠美、なんと明日お前たちと一緒に藤村先生がスタジアムに行ってくれるそうだ」

「やったー!」

「藤村先生ほんと?」

 いつもはおとなしい亜美も興奮気味に尋ねる。

「うん。明日はいっぱいお父さんを応援しようね」

「うん」

 こうして大事な首位鹿島と一戦を翔子も観戦することとなった。

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