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夢見る乙女は、暴走したい 4

過去に自分がやっていた乙女ゲーム=乙ゲーの二次小説を書いていて、


その中のキャラがこんなことを考えていたらどうだろう?


…というのがキッカケで書き始めた作品です。


舞台は、よくある高校です。


メガネ・崩したスーツor白衣が好物の作者です。



(何がどうしてこうなった?)


放課後。


部活後の廊下。


先輩教員に頼まれた資料の返却@第二資料室。


タイミングが次第じゃ、この手のことは日直や運の悪い生徒に任せがちな先輩教員だったのに。


(なーんで、今日に限って俺が運が悪い後輩教員って扱いみたいになってんだよ)


とか思いながら、両手で抱えて第二資料室へとあれやこれやを抱えて歩いてきた。


部活が終わったところも多い時間帯の中、忘れ物を取りにきたという生徒にちょっと手を貸せと声をかけ、教材をおもむろに資料室内の机の上に置かせる。


「助かった! じゃあ、気をつけて帰れよ?」


そう言ってから、とりあえずで置いていた教材を元の場所に片していた俺。


夕暮れ。


放課後。


奥まった場所にある第二資料室の方には、あまり人が寄ってこない。


そんな場所でひとり、作業に集中していた俺の耳に金属音が聞こえた気がして、「ん?」とだけ言いつつ振り返った。


けれど、振り返った先には誰もいず、何もなく。


「…気のせいか」


とか言いつつ、作業を再開していた。


やがて、ガタンッと何かがぶつかったような物音がして、もう一度振り返る。


「……誰だ?」


奥まった場所にある棚へと教材を置き、振り返った先を見つめた。


窓のすぐ前。


逆光。


まるでそういうクイズみたいに、シルエットしか見えない。


かろうじてわかるのは、性別くらい。


髪の長さ、肩のライン、全体的な体のライン。


髪が長い…女性? いや、このシルエットなら。


「…何年何組だ」


女生徒で間違いない。眩しいほどの夕焼けを背に、影がゆるっと動き出す。


俺へ向かって、一歩ずつ。


妙な緊張感に、俺は息を飲む。


この場所は奥まった場所で、あまり利用者がいないこともあって、”ああいった”間違いがないようにと職員会議で年に数回通達が出るような場所だから。


ふ…と別の影が差す。夕焼けに雲でもかかったのか、途切れ途切れに暗い場所と明るい場所が目の前で交差する。


目の前の光景が揺らいで、その中から現れたのは。


(…やっぱりな)


彼女だ。


距離にして2mほどまで彼女が近づいた時、途切れ途切れの光が彼女の目元を照らす。


ニッコリと表現できそうな、作った笑顔。


(これは、作家の方の神田なのか? もしかして)


何かを仕掛けられるのか、それともこの場所に俺が来ること自体をわかっていた上で、とっくに準備万端か。


仮にも好いている相手のはずなのに、警戒せずにいられない俺。


目の前の神田が、キャラを作れなくなってきているじゃないかという書き込みもあったのを思い出す。


自分を主人公にしているから、尚更なんだろうけど、書きながらああだったらこうじゃなかったら…って何度も書き直すんだろう。


ネットにあげている小説なのか知らないけど、これで良しと思ってもネットにあげたものを自分で読み返してみたら、なんか違う! と思うこともあったのかもしれない。


それが顕著に表れたのが、あの…過去の時間軸に俺が戻された時のやつかもしれない。


原因というか理由がそれだけじゃないって思いつつも、それも原因の一つだったのかもと思えてならない。


ごく…っ、と唾を飲むと、喉仏が上下する。


棚を背に、これ以上下がれない位置に俺はいる。


「……センセ、ぃ」


細く、力なく、俺を呼ぶ神田。


そして、また一歩近づいて。


「今日、夜…電話できないかもしれない」


なぜか唐突に会話が始まる。ちなみに、特に夜に電話をするとか約束していたわけじゃない。会話自体もその内容も、俺からすればすべてが唐突だ。


ふう…と短く息を吐き、神田の方から見えているのかわからないけど、いつものように笑顔を浮かべる俺。


「なんか用事でも?」


そう言いながら、俺の方から神田の方へと一歩踏み出す。


「…こっち、おいで?」


そして、誘うように手を差し出して、棚の間に二人で身をひそめるためにその手を引いた。


息すら触れあいそうな距離に顔を近づけ、「ほら。こんな時は、何て呼ぶんだっけ?」と甘く囁く俺。


「和沙、さん」


甘くねだるような声で返ってきたそれに、俺はよく出来ましたとでも言っているように、啄むようなキスをする。


短く、チュ…チュ…ッと触れるだけの。


当て馬云々のことで、俺に直接何かが起きているわけじゃない。神田の方で細かい出来事が起きているだけ。それを藤原経由で内容を把握しているだけの距離感だ。


神田がここに来たことと、最近のその当て馬云々の関係が変化するのかどうか…何とも読み切れない。


藤原と直接話したことは、記憶が改ざんされているのか、差ほどないようで。


相手にしなきゃいけない対象者を、知らなすぎるのは危険だ。


だからこそ藤原が情報を寄こしているのもあるんだろう。


「ね…和沙さん」


甘えた声に、俺を抱き寄せて体を押しつけてくる感触に。


(絶対ワザとだろ? これ)


と、思う俺。


「大事にしてくれるの、ホントに嬉しいの。……でも、和沙さんはそれで…大丈夫かなぁ…なんて思ったりして」


完全にお誘いの文句じゃねえか。しかもコレ、誘っていながら明言は避けて、俺が先に動き出せば俺の責任になるパターンかよ。


(選択肢は…出ない、な)


過去にあったはずの選択肢が脳内に浮かぶことが、最近は極端に少なくなってて。


ほぼ自己責任で取捨選択をしつつ、後になって藤原からの報告で答え合わせって流ればかり。


(今日は、どうしたもんかな)


キスをしながら、彼女の左手を握る。指を絡めてつないでから、左手で腰を抱き寄せる。二人の距離は、ゼロだ。


「ずっと…一緒にいたいから。だから…今は、シない」


とか言いながら、目の前の神田を抱けない代わりに脳内で好きにする。消されたはずの過去が、時々夢に出てくるのを思い出せば。


「…あっ」


神田もソレに気づいたようで、わかりやすく声をあげて真っ赤になってうつむいた。


「そんなに…なってても?」


抱き合う俺たち。


神田の声が俺の左耳に、誘惑の呪文をこぼす。


「そんなに反応、しちゃってるのに?」


と。


腰を抱き寄せながら、もっと…とジワリと固くなっていくそれを神田の腹に押しつけた。


「こんなに反応…しちゃってても…だよ」


そして、俺からも神田の左耳へ甘い囁きを。


「でもね、花音」


ここで、やっと彼女の下の名前で呼んでから。


「家に帰ってからの俺の中は、花音にしたいことだけでいっぱいなんだけど」


クスッと小さな笑いを混ぜて、お前だらけだって伝えてやる。


「……っっ!!!」


それでなくても大きな目を、さらに大きく見開いて。


「じゃ、あ。……あたしを想って…シたり、するの?」


真っ赤になるほど恥ずかしいだろうに、聞いてくることは極端なほどに大胆。


(キャラ、ブレッブレになってきてないか? 今日も)


毎回なにかしらの誤差っぽいものが、なんとなく引っかかる感じで残る。例えるなら、小さな棘みたいに。


「シて…ほしい? 今日は寝る前に声が聞けないんだっけ? …じゃあ、尚のこと、花音のことでいっぱいにしなきゃな? 俺」


彼女が欲しがっていそうな言葉を何とかひねり出しながらも、バッドエンドにはならないようにと思考を巡らせる。


「……あたしも、シて…みよっかな」


俺の言葉に乗っかったみたいに、神田が囁き返してきた瞬間。


「かーのん? ここかー?」


ゆっくりとしていて、ハッキリとまっすぐに通る声で腕の中の彼女を呼ぶ声がした。


(いつ、ドアが開いた? っていうか、ここって滅多に人が来ない場所なんだろ?)


神田を呼ぶ声に、腕の中にいた神田が俺を軽く押して距離を取った。


「お兄ちゃん? よくわかったね、ここだって」


本棚の間から上半身を出して、相手に声をかける神田。


「なんとなくこっちなんじゃないかって、俺の勘だな」


神田がお兄ちゃんと呼ぶ人間。


(八木春斗か!)


八木がこっちへ近づく前に、神田が八木の方へと向かった足音がした。


「用事はすんだのか?」


「…うん」


「そっか。…じゃあ、一緒に帰るか。今日も一緒に勉強だもんな? 荷物置いてきたら、飯も風呂も家でいいって母さんが言ってたぞ」


「あ、ほんと? じゃ、そうしようかな? 着替えだけ持ってくね?」


「下着以外いらねえぞ? いつもみたいに、俺の服テキトーに貸すから」


「…お兄ちゃんが持ってる服、ダボダボじゃない」


「着れないわけじゃないんだから、いいだろ?」


「よくないよー。…ほら、あたし…こう…大きいから…はだけちゃうっていうか…その」


「あ…っ、んんっ! いや、そういうつもりはなくてだな……。あー…じゃあ、帰りに俺んち専用のパジャマかその代わりの、買ってやるか」


「…え、いいの? やったあ!」


「じゃあ、一緒に教室に戻るか」


「うん! 帰ろう、お兄ちゃん」


まるで会話全てを聞かせるつもりか? っていう状態で、ここまでの会話が第二資料室内で交わされた。


二人の足音が同じリズムで鳴り、そしてドアは閉ざされた。


「……どういうつもりだ」


八木が来るまでのあの甘い会話はどこに行った?


「選択肢、ミスったのか? もしかして」


いくつの選択肢が自分の中にあったのかなんて知るか!


「…クソッ」


俺が棚の間から出て、窓から校門の方へと顔を向けていると、あの懐かしい音が脳内で響いた。


ピコン、と。


その音にザワッとした表現しがたい感覚が、背中を走っていく。


と同時に、まるでセットのようにあのアナウンスが聞こえた。


『強制フラグを立てました』


と。




誤字脱字、ございましたら、ご指摘お願いいたします。


お気に召していただけましたら、いいねetcもお願いしまーす。

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