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夢見る乙女は、暴走したい 2

連載再開です。

長らくお待たせしました。

改めて、よろしくお願いしますっ!


(当て馬、か)


藤原から渡されていたあの紙の束の中に、それと同じ言葉が何度か出ていたのを記憶している。


結構な量の資料だったけれど、まるで受験前のように何度も読み返した。


読んで、記憶して、自分の中で確かめるみたいに自分へと質疑応答を繰り返して……。


キスの余韻をしっかり残したままで、その先はまだおあずけ&他の誰にも目を向けるなよと呪いのようなセリフを吐いて。


毎日毎日、ここまで神経を張りつめなきゃいけないんだろう予想はしていたものの、実際行動してみると疲労感が半端ない。


体だけじゃなく、どっちかっていうとメンタルの方がエグい。


というか、コッチの予想していない斜め上のポイントで、あのセリフが脳内に響くことが増えたもんだから、余計に疲労感が増したのかもしれない。


神田とまたなと別れてから、睡眠時間を削って今日の状況を思い出しながら書き出して。


藤原からもらっていたものとの照会と、そこにはなかった出来事は赤ペンで書き込み。


それから藤原への報告と、メールもしくは電話で諸々についての相談。


「かなり疲れる作業ですよね」


電話で藤原から呟かれたそれに、ため息をつきながらこう返した記憶がある。


「作業……じゃ、ねえよ。これは一応恋愛なんだから、俺の」


電話の向こうで、藤原が小さく笑ったのがわかったのも憶えている。


「んんんーーーー…っっ。背中バッキバキだな」


思いきり両腕を天井へ向けて引っ張り上げるようにして、背中を伸ばす。


そうしてて、ふと思い出したのが合宿の時にこんなことがあったと後から聞かされたネタだ。


(ネタと言っていいのかわからないがな)


たしか、バスケ部の誰かの部屋に、神田がマッサージをしに行ったとか聞いた。


その話を神田に探りを入れても、サラッと話題をすり替えられる。


神田にとって都合が悪いのか、本当はそんなことは起きていないのか。


後者だった場合、その嘘は誰が流したのかもポイントになる。


起きていないのに、起きたという噂を流して、誰かが得をする。だから、嘘を吐くんだろう? メリットがあるから。


「んー……。なんなんだろうな。それに……もしも誰かがマッサージを受けたのなら、神田はその手の知識があるってことか? 神田の中身が、そういう知識を持っている? 作者サマは、実際は話を書く以外に何かの仕事に就いているか勉強している…とか」


なにが現状を打開するか見えてこないだけに、どんな情報でも拾わなきゃ。


メガネのブリッジを指先で押し上げて、ふう…と息を吐く。


トライアンドエラーの繰り返しをしていくと、藤原に俺の恋愛だと言っておきながら本当に神田のことが好きでこれを推し進めているのか迷いが生じる時がある。


生じては、答えを出して、また歩き出して。


こんな非日常な恋愛だから、こんなことばかり考えるのかもしれなくっても、普通に恋愛をしていてもそんなもんだよなと急に前が開けたような感覚に陥ることもある。


その感覚になる時は、本当に自身の感覚で…なのか、作家の神田の思考に重なってしまった歪な感覚で…なのか。


自分がアイツが書いている話の中の登場人物なんだと理解していたって、俺からすれば俺は生きていて、子ども時代から今のアイツと同じように高校生の頃もあって、教師になるために資格も取って。


時々どうしようもないってわかってても、恐怖感も俺を襲うんだ。


自分が普段使っているパソコンのように、俺の物語を神田が書くのをやめたら俺の人生はその先どうなるのかわからない。そして、何よりも怖いと思うのが、まるっと俺の物語が削除されたら? ということだ。


「なにもかも、神田の手のひらの上。…それでも抗いたいって思って、こうしてる…んだよな…俺」


イスの背もたれに体重を少しかけて、真っ白な天井を仰ぎ見る。


「……この後は、またテスト期間。それから、体育祭。………あれ? 神田って今、高2だろ? あのイベント、まだやってないんじゃないのか? 作家の神田、忘れてる気がするんだけど」


不意に思いついて、藤原に一本のメールを送りつけた。


『修学旅行ってイベント、神田のそれには含まれてないのかよ。ここまでの間にやった記憶ないんだが』


と。


メッセージを送ってから20分ほどしてから、着信。相手は…。


『神田』


「このタイミングかよ。藤原とやり取りしたいんだけどな…」


とボヤきつつも、警戒しながら通話を始めた。その操作の直後に、藤原に状況を伝えるメッセージを送っておく。そっちから何かアクションがあっても、すぐには反応出来ないかもしれない…とだけ。


『了』


たった一文字だけ返信してきた藤原に、神田へ「どうした?」なんて言いながら心の中で笑う俺。


かなり警戒はしたものの、藤原からの情報やその存在がなきゃ、もっと俺は振り回されていたかもしれない上に今よりも病んでしまった可能性だってある。


「ごめんなさい、和沙さん」


二人の時の呼び方に、まだぎこちなさを感じて、神田のどこか幼い部分を知る。


もしかしたら、作家の方の神田自身が恋愛経験自体薄いのかもな。


「もう寝ようかなって思っていたんだけど、今日の終わりに…声、聞きたくなっちゃって」


あぁ…。俺の神田が可愛いセリフをぶつけてくる。こっちに遠慮なしに。


「嬉しいことをいうね。…俺も花音の声で今日を終えられたなら、きっといい夢が見られそうな気がするよ」


だから、作者=神田が好みそうなガムシロップみたいな言葉を吐く。


「あ、あたしも、きっといい夢が見れそう。夢の中でも先生に会えるなら…あたし」


どんな表情でその言葉を呟いているのか、なんだか見えてしまいそう。ビデオ通話じゃないのに。


とか思っていたら、そっちに切り替えてとおねだりをされる。


やれやれと思いながらも、「いいよ。俺も顔が見たかったんだ。どうしてわかったの?」とか返す。


クスクスと小さく笑う声の後に、互いにビデオ通話に切り替えた。


「あ! シャワー後? 髪の毛、前髪が下りてて…可愛い」


「三十路前の男に、可愛い…はないだろ? それにさっきの、俺…聞き逃してないからね? また先生って呼び方に戻ってたけど。……そっちの方がいいならそうするよ?」


さり気なく、こっちに優位さのようなものを印象付ける。


「あ、え…っ、嘘っ、違うのっ。なんか急に…その……最初のころに気持ちが戻っちゃう時があるんだもん。まだ、和沙さんって呼べる前の時間に」


アワアワしているのが、スマホの画面いっぱいに広がって映っている。


「ふぅ、ん。なんだかその時の方が幸せって顔…してるよね。俺はいいんだよ? 別にさ。こんな三十路手前のオッサンよりも、お前に似合うだろう同年代がいくらでもいるはずだしな?」


そうして、追い込むように妬いているっぽいことも付け加える。


「や! 違うもん。同級生とかなんて、今はもう」


ポロッと漏らした言葉を聞き逃さずに、なおも追う。


「今は、だろ? 今はたまったま俺が好みになってるだけで、いつ…また、同級生や後輩や先輩って名がつく誰かに心惹かれるか」


そう俺が、まるで壁ドンだかをしているような圧迫感で、笑顔で画面の中のアイツに笑いかけてやった瞬間だ。


『あ! 当て馬にぴったりなの、いるじゃない! お・さ・な・な! 幼なじみのお兄ちゃんキャラ!』


って、聞きなれたテンション高めの声がした。


『えー…っと、一つ年上の柔道部で、先生よりも幼いのに包容力は大差なしで、身長だけは先生の方が少し高いことにしよっかな。髪は黒髪短髪。細マッチョ。うーんと、甘く低めの柔らかボイスがいいなぁ』


設定でも考えているのか、一気にまくしたてるような感じで言葉が続いていく。


『さーて、と。当て馬くん投入するから、その前に小ネタのパートを書いて…。それからベタなあたりで、テスト勉強でお兄ちゃんキャラに助けてもらっておこう。その間は、先生は』


今浮かんでいるものを書いてしまいたいってのが、なんとなく伝わってくる。


先生は、と言いかけたその直後に、パチンとスイッチを切ったように極端なほどの静寂が俺を包み込んだ。


いつもの俺の部屋の中なのに、違和感があるほど静かすぎる。


神田とビデオ通話をしていたはずなのに、手のひらに載っているスマホの画面は真っ暗で。


「……え?」


入れ替わったかのタイミングで、藤原からメッセージが届く。


それを開いて読んだ俺は、反射的に舌打ちをする。


『強制フラグ、立てられましたね。あっちに。今回は抗う隙もなかったようで』


俺が何かをやらかしたのか、俺が登場しない別の話が進行していると藤原が告げた。


『状況報告のメモが、あと1時間ほどでそちらに手渡したものの中に追加されるはずです。追加された場合、表紙にあたる部分に、追記などと書かれた注意書きが浮かんでくるはず。一定時間が経てば、他と同じ扱いになるので、追記されたものか否かの判別が出来なくなります。その表記を決して見逃さず、自分が知らない場所で何が起きているのかを知ってください』


藤原がどうやってこの状況の中で、情報を集め、それを俺によこし、対処を促せているのか。


そっちへの何とも形容しがたい感情を抱えつつも、それでも今は藤原からの情報に頼るしかない。


『わかった』


短く返すと、すこし乱雑になっていた藤原からの情報の紙束を集める。


表紙にあたるものだけを手元に置き、その時を待つ俺。


落ち着かず、何本目かのタバコに火を点けかけたその目の前に、表紙の中に一瞬のフラッシュの後に文字が浮かび上がった。


「…これか」


初めての出来事に、ごくりと唾を飲み、追記と書かれた先のページ番号を探す。


「………あ、った」


そのページ番号はものすごく中途半端な場所を示し、藤原が言っていたように見逃していたならば後から見つけ出すのは困難だっただろうページ数。


中途半端なそのページ数にあたる場所は、紙束の半ば。


俺と神田の話が、話の折り返し地点まで来ているんだとここで初めて意識することになった。


「起承転結でいえば、どのあたりなんだか」


ボソッと愚痴のようにこぼし、そこに書かれたことをタバコを吸いながら繰り返し読みふけっていた。


気づけばかなりな時間が経っていて、書かれていた内容に俺の心はかき乱されつつあり。


「恋愛って、人の業みたいなもんだな」


何かの壁があり、越えられるもんなら越えてみせろと、誰かに急かされているみたいだ。


「俺は、神田のことが、好き」


自分への問いかけか、違う誰かへの答えか。よくわからないその言葉を、朝になるまで何度か俺は繰り返し繰り返し噛みしめていた。




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