いつ、誰がこの恋をはじめた? 3
過去に自分がやっていた乙女ゲーム=乙ゲーの二次小説を書いていて、
その中のキャラがこんなことを考えていたらどうだろう?
…というのがキッカケで書き始めた作品です。
舞台は、よくある高校です。
メガネ・崩したスーツor白衣が好物の作者です。
今度は何だとすこしだけ身構える。
『セリフを選んでください』
『もう遅いから、気をつけて帰りなさい』
『もう遅いから、送っていくよ』
さっきより長いお知らせのようなもの。
(どういうことだ)
聞こえてくる音声は、女の声。頭の中に直接囁かれているような、そんな距離感の声。
「先生?」
ジャケットから手を離すことなく、上目づかいで俺をみつめている彼女がいて。
(さっきのは、どう考えてもこの子に対してのセリフだよな)
ということだけはわかって。でも決められなくて。
「もう、帰るのか?」
とりあえずで話しかけてみる俺。
「そうですねぇ。思ったよりも勉強できたから、今日はもう帰ろうと思います」
とかいうから、「そうか」とだけ返す俺。けど、すぐに彼女から逆に質問をされる。
「あの、先生」
「ん?」
「テスト準備期間で部活が休みの間って、ここで勉強していたらダメですか?」
とかなんとか。
「は?」
なんて返しだよ、俺。「は?」ってなんだ、「は?」って。
「あ、やっぱりダメ…で、すよ、ね?」
バツが悪そうな表情をして見せてから、ジャケットを手渡してきた。
ためらって、俺も似たようなバツが悪そうな顔になっているのがわかる。
受け取ったジャケットの袖に腕を通しながら、どこかを見ているようで見ていなくって。
「…あ」
あわてて片づけようとしたんだろう。床にワークが数冊落ちてしまう。
「そんなにあわてなくてもいいぞ」
顔を赤くしている彼女と一緒になって、それらを拾う。
「すいま、せん」
なんとなくパラっとワークをめくると、「ん?」と思わず声が出た。
「ここ、答え違うんじゃないのか」
担当教科外。数学の答えが違う気がして、問題からもう一度流し見てみる。
「んーーーーーーっと? ここの計算、多分違うな。やっぱ。凡ミスだな、これ。もったいないぞ。書き写しミスでそのままやってるから、おかしなことになってる」
「え? ど、どこですか」
机の上にワークを広げて、「ここ」と指さす。
「ここからここまではいいんだけど、ここでミスってる。…惜しい」
うんうんと頷きながら、俺の話をちゃんと聞いている彼女。
「じゃあ、え…っと、ここを………えっと、こう、で、それから……」
立ったまま、二人で今にも頭がくっつきそうなほどの距離で問題を解く。
「そうそう。そこでどうしてか数字が逆に書かれてるから、おかしくなってる」
「あぁっ! だから解答みながら何度やってもダメだったんだ」
「……どんだけの回数やったんだよ、そこ」
「えーっと、嫌になるくらい?」
ふふふと照れ笑いして、やっと解けた問題を指でなぞると、
「あー、スッキリしたぁ」
なんて、本当にうれしそうに笑うんだ。
普段の部活で見たことがない、緊張感がない笑顔。
素の表情に、俺の手に力が一瞬だけ入った。
なんでかは、わからないけど。
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