歩き出す、恋心 13
過去に自分がやっていた乙女ゲーム=乙ゲーの二次小説を書いていて、
その中のキャラがこんなことを考えていたらどうだろう?
…というのがキッカケで書き始めた作品です。
舞台は、よくある高校です。
メガネ・崩したスーツor白衣が好物の作者です。
ぐったりだ。
「お待たせしました。こちらをどうぞ」
礼儀正しい声とともに、目の前に置かれたコーヒー。
「…どうも」
あのメッセージを頼りにたどり着いた場所に赴けば、俺には縁のないタワマン。
『1005と押して、ロックを解除してもらってください』
と、まるで到着したのを見ていたようなタイミングでメッセージが届いた。
機械的な声の対応。
開いた自動ドア。エレベーターでさっきの番号通りに10階へ上がってみた。
ドアの前には、いかにも執事でございます…な上品そうな老人。
老人って言っていいのか、ためらうほどの空気をまとった男性?
(表現しにくいな、こういう相手って)
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
と、案内されて、従うように入るしかなかった。
「……これ、すっごく美味しいです!」
「それはよかった。こっちもおすすめだから、食べてみるといいよ」
「わあっ。どうしよう。こんなに食べたら、太っちゃう」
「あぁ。その心配はいらないよ? ローカロリーなケーキばかりだから」
「…もう! そうやって誘惑するんだから。……どうしよう。全部食べたいくらい」
「食べられなかったら、テイクアウトしたらいい」
「えぇっ。いいんですか?」
案内されて進んでいく奥の部屋はドアが開けっぱなしになっていて、会話が丸聞こえ。
(やっぱりそういうことか)
捕獲されたのは、あいつ。
「思ったよりも遅かったですね」
入った部屋の窓際で、優雅にカップとソーサーを手にした藤原が笑っている。
「お前な」
「あ、先生!」
その傍らには、見たことがないような服装の彼女が座ってて、ニコニコしながらケーキを頬張っていた。
「藤原、ちょっとこっちに来い」
彼女の前から、今、自分が入ってきたドアの方へと手招きをする。
「……なんですか」
めんどくさそうな声色のわりに、何とも言えない笑顔で。
「お前、メッセージが短すぎ。説明する気、なかっただろ」
ため息まじりにそう愚痴れば、「えぇ」と肯定される。
「しろよ、説明」
文句を言ってみても、どこか楽しそうに笑うだけ。
「さあ、先生もこちらへどうぞ。先生は甘いものはあまり召し上がらないんですよね」
「え、あ、あぁ」
「…加納。こちらの方にコーヒーを。ブラックでよかったですよね」
と、さっきの執事っぽい男性に声をかける。
「は、あぁ」
「あぁ、ビターなチョコだったら召し上がりますよね。…加納、準備を」
「かしこまりました」
「…………」
言葉が出ない。
俺の飲み物とかの好みを知っているって家族や彼女ならいざ知らず、ただの部員っていうか生徒で、しかもこいつは男で。
(俺はなんでここに呼ばれたんだ)
どうしてか藤原の部屋にいる、俺の彼女。
パッと見、部屋の空気は悪くない。
悪くはないんだが、呼ばれ方が問題だ。
「あたしもこれくらい作れるようになりたいなぁ」
何個目のケーキかわからないものを、満面の笑みで咀嚼しているのは俺の彼女。
(なんか、俺とのデートの時よりもリラックスしてて楽し気に見えるのが面白くない)
胸の奥のモヤモヤする存在をもてあます。
嫌でも見ろと言われているようで、たまらない。
“俺なんかよりも同年代の方が、こんなにも楽し気に気楽にしていられる”
という、事実を。
「先生。そろそろ落ちつきましたか?」
俺にそういいながら、彼女へさりげなく紅茶を手ずから淹れてやっている。
対応の違いに、若干イラつく。
普段は女生徒が集まってきていても、曖昧に微笑むだけで特別何かをしてやるわけじゃない。
クールなところが好かれているって聞いていたが、目の前の藤原は紳士だ。
そして、甘い。
「クリームがついているよ?」
なんて言いつつ、彼女の口元を指先で拭ってやるほどなんだから。
「……か…神田」
一瞬、名前の方で呼びそうになった。
独占欲丸出しになって、余裕がないと思われる気がした瞬間、開きかけた口を一度閉じた。
そんな俺の気持ちなんか知らないかのように、ただただ目の前のスイーツに喜んでいるだけの彼女。
「先生も試しに食べてみたらいいのにっ」
とかなんとか、なんの裏もない笑顔でそう言ったんだ。
戸惑う俺と、楽し気な彼女。
藤原はずっと穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりとコーヒーを飲んでいた。
誤字脱字、ございましたら、ご指摘お願いいたします。
お気に召していただけましたら、いいねetcもお願いしまーす。




