歩き出す、恋心 5
過去に自分がやっていた乙女ゲーム=乙ゲーの二次小説を書いていて、
その中のキャラがこんなことを考えていたらどうだろう?
…というのがキッカケで書き始めた作品です。
舞台は、よくある高校です。
メガネ・崩したスーツor白衣が好物の作者です。
意識が戻って、毎回願う。
どうかあの娘を傷つけていませんように、と。
どんなキャラ付けになっているのかさっぱりだけど、体の関係にまで発展したことだけはわかった。
以前のようにやりかけてやめて、話を書き直して展開を変えたっていうことはなかったようだ。
体の関係はその後も続いていて、同じ学校で教師と生徒という関係上、マズイという現実だけが重くのしかかる。
そんな俺たちの関係を誰かに知られているのか、ちゃんと隠せているのかも掴めないままだ。
「なんせ、作者サマが俺の記憶をぶっ飛ばしてくれてるもんな」
聞こえるはずがなさそうな愚痴を吐きつける。
俺の恋愛なのに、俺のものになっていない。
彼女との体の関係も、ちゃんと互いの同意の上なのか違うのかもわからない。
避妊は、してたっぽい。
歯がゆい、とは、こういうことをいうんだな。
あいつのことは、好きだ。
作者の誘導とかどうとかをほっといても、生徒ってことがなきゃ口説きにかかっていただろう。
というか好みの女なんだよな、あいつ。
髪の長さ、胸の大きさ、年齢差があるのに話していて心地よさすら感じる雰囲気。
あいつが呼ぶ「先生」という声。
たまたまだとしても見てしまったあいつの事後の寝顔。
体から香る、女の匂い。
俺じゃない俺は知っているんだろ?
あいつがベッドの上で、どんな表情をして、どんな声で啼くのか。
これ以上ないほどに密着する二人。
本当のゼロ距離。
キスだって、触れ合うだけのものじゃないだろう。
何度も何度も味わったんだろう? あいつって女の味を。
「一体俺は誰に妬けばいいんだ」
そうボヤきながら、俺はとある駅の前であいつを待っていた。
それは一枚の年賀状からわかった約束で。
今時、SNSじゃなくアナログでかよと思ったけど、年賀状の中のあいつは可愛いおねだりをしていた。
『部活が始まるまでに、先に先生に会いたいです。初詣、一緒に行けたらいいけど、きっと無理だよね?』
ってさ。
初詣は別に市内の神社に行かなきゃ出来ないわけじゃない。
ハガキという形だと、さすがに親に見られかねない。
アナログにデジタルで返事を返す。
『明日、あいてるか』
そう送信すれば、すぐさま既読がついて、あいつの顔が見えそうな返信が来る。
『会えるの? 明日? 会いたい!』
予定を聞いているだけなのに、感情だけの返事が来る。
「バカか」とぽつりともらしてから、「……ほんと、可愛いとこあんだよな」って顔がほころぶ。
俺をあっさり笑顔にさせる女。
『じゃ、10時に今から指定する駅まで移動してこい。待ってるから』
そう返信した俺。
――――っていう感覚を、なんとなーく把握した。
記憶っぽい記憶はないけど、その履歴を見ているだけで顔がゆるみっぱなしになった。
恋人っぽいことしてるなって思った。
と同時に、さっきのあの感情へとつながったんだ。
約束をしててくれたのは、正直うれしいし、感謝しきりと言ったところか。
だけど、あいつが好きなのは、俺じゃない俺のことなんだろう?
(それとも万が一でもそうじゃない俺のことも、好きになってくれていたり……)
期待したい。
あいつが俺のどこを好きになったのか知らないだけに、不安は大きいけれど。
(そういや、俺じゃない俺は知ってるのか? 神田が俺のどこを好きなのか)
そんなことを今更のように聞けるはずもない。
とある駅前。
「……あっ! せ…」
先生と言いかけたあいつの姿が視界に入る。
人差し指を立てて、ナイショの形にして唇に当てる。
一瞬、「んっ」と緊張したような声とも何とも言えないモノを出してから。
「か、和沙…さん」
俺の名前を、真っ赤になりながら呼んだ。
俺自身は初めて聞くその一言には、ものすごい破壊力があった。
(頼む…。今日、この時間は絶対にこのまま)
――――願う。
俺自身で過ごさせてくれ、と。
俺を見てもらうために。
……俺を、好きになってもらうために。
こいつを、もっと知るために。
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