歩き出す、恋心 3
過去に自分がやっていた乙女ゲーム=乙ゲーの二次小説を書いていて、
その中のキャラがこんなことを考えていたらどうだろう?
…というのがキッカケで書き始めた作品です。
舞台は、よくある高校です。
メガネ・崩したスーツor白衣が好物の作者です。
(あぁ、もう、嫌だ)
強制フラグってやつか? これも。
最近は、あの張り切ったような声がしないもんな。
だいたいなんで俺に聞いてくるような言い方だったんだろうな、あの時。
『強制フラグを発動しますか?』
ってさ。
選択肢が与えられるうちは、まだマシって考えた方がいいのか?
「はぁあああ」
前髪をかき上げながら、盛大にため息を吐く。
「なんだよ、朝から疲れてんの? センセ」
「オッサンだもんな、俺らからしたら」
「……ほっとけ。それより、さっさと教室に入れよ。お前ら」
「オッサンって言われたから、機嫌悪くなったんだな。な?」
「あー、はいはい。わかった、わかった。早く教室行かねえと抜き打ちテストするぞ、お前ら」
「…うっ。や、やめろって…それだけは」
「やっべ。行くぞ、お前ら」
にぎやかな朝だ。
あいつとのことやさっきまで部屋で悶々としていたのが嘘みたいな。
「……おは、よ…ございま、す」
時計に一瞬視線を動かしたら、背後から小さな声が聞こえた。
「…………ん」
ん←って、なんだ!
ん←って、なんだよっ!
視線を彼女に合わせると、どこもおかしくないのに、髪を手のひらで撫でつけたり、制服を手のひらで整えていたり。
「神田」
俺がそう、彼女の名を呼んだのが分岐点だったのか? ってなタイミングで。
「今日も、可愛い」
軽く振り返るような格好で、そう彼女に囁いていた。
俺が決してしないだろう囁きに、肩先をピクンとさせ固まった彼女。
でも一番固まっていたというか、動揺していたのは他でもない俺。
(ちょ…なにしてんの? 俺)
俺が顔を離すと、耳まで真っ赤になってしまったままフリーズする彼女がそこにいた。
(やっちまった)
とかなんとか後悔したところで、自分でその行動をしようと決めた感覚がない。
なんとも無責任な感じがして、俺は口を尖らせた。
こっちに聞こえる状態の予告がなかった。
(作者だけに、好き勝手に展開を決める権利があるもんな)
キャラクターとしては、大人しく従うってのが正解なんだろうけど。
「……はぁ」
すこしうつむき、前髪をかきあげる。
「まいった…」
小さくボヤいたはずだったんだ。
なのに、さ。
「先生?」
周りの生徒らは、遅刻しないようにって小走りで玄関へと向かっているのに。
「…あの、ね?」
目の前の彼女は、俺を心配そうに見上げて。
「手を出して?」
なんて言ってから。
俺に右手を重ねるようにして、なにかを手のひらに乗せて、左手でそれを包み込むように。
(いや、隠すように?)
結果的に彼女の両手で俺の左手を、ぎゅっとされた。
そうして、囁いたんだ。
「あとでこそっと食べてね?」
って。
まるで言い逃げのように、それだけ囁いたらダッシュしていなくなった。
ゆるく握られたままの、俺の左手。
「食べてね? って、一体」
人気がなくなった校門にもたれかかって、すこしだけ手のひらを開く。
「……あ」
小さな袋にクッキーが数枚入っている。
その袋は、ほんのりあたたかくて。
人目につかないように、また手のひらをゆるく閉じておく。
もしかしてずっと手にしていたのかもしれない。
片手にはクッキー、反対の手で口元を隠す。
「ダメだ、ニヤけちまう」
とっくに大人のはずの俺なのに、こんな些細なことで簡単にほだされている。
作者に好き勝手にされているというよりも、もしかしたらあいつの好きなように誘導されている気にすらなる。
でも、嫌じゃない。
もしも後者ならば、好き勝手されたっていいんだけどな。
(なんて考えている時点で、とっくにダメダメだな)
恋愛って、いくつになっても人をダメにする。
「とはいえ、だ」
俺は教師、あいつは今はまだ生徒。
ゆるんでいた口元をきゅっと引き締めて。
「さ、行くか」
俺も校舎へと足を向けた。
誤字脱字、ございましたら、ご指摘お願いいたします。
お気に召していただけましたら、いいねetcもお願いしまーす。