神の子の気持ち
セラフィールはそこまで言ってとうとう涙をこぼした。
………そう。最近、沢山のお手紙やプレゼントが来る。
それは全て、わたくしを愛しているとかそういう言葉を綴ってあるけれど、サクリファイス皇族に入りたいだけなような気がして………そう思う自分が、とてつもなく嫌だった。
アダム様に迷惑をかけてしまうから言わないようにしていたけれど、いつもと変わらないアダム様を見て………弱音が溢れて、弾けた。
「わたくしは、お父様やお母様のように心の底から愛せる御方と結婚したい。
けれど………わたくしは皇女で、この国を担っていく人間。恋愛など二の次で、御子を持つことが女の使命……わかっています、わかっていますが___ッ」
そこまで言った時、アダム様はわたくしの腕を引っ張って、抱き締めてくださいました。草木の優しい匂いがします。でも、何故__「しなくていい」
「え………?」
「____そんなこと、しなくていい。
セラは、………皇女とか国とか言うけど、そこにセラの意思がないじゃん。
意志のないことをしなくていいんだ。
もっと自由でいいんだ。
泣くほど嫌なこと、無理にしなくて…………いいんだ」
「…………ッ」
そう言ってくれたアダム様はわたくしを見た。紅い瞳に熱が篭っている。
___また、胸が大きな音を立てた。
最近は、……いいえ、昔から。この御方と話していると胸がうるさくなるのです。ぐちゃぐちゃになっていた思考が真っ白になって、この御方の事ばかりになる。
____アダム様が、わたくしの婚約者であればいいのに。
婚約の申し込みが来る度に思っていた。この言葉を紡ごうとして、出来なかった。恥ずかしかったのだ。
この気持ちは、なんなのでしょう?
そんなことを思いながら、暫くアダム様に抱き締められていた。
* * *
セラフィールが婚約の申し込み、と言った時、『ある感情』が胸を占めた。
____怒りだ。
泣くほど嫌がるセラフィールに送ってくる男達に本気で天罰を下そうかと思った。実際セラフィールから聞き出して全員の家を燃やしてやろうと思ったぐらいだ。
そんな感情を抱く理由が分からないほど僕は馬鹿じゃない。
____セラフィールが、好きなんだ。
セラフィールの傍に居たい。いいや、傍に置きたい。セラフィールの悲しいこと、苦しいことから全部守りたい。
嗚呼、今ならわかる。
アマテラスは___この気持ちを抱いて、神の地位を捨てたんだ。
僕にはできるか?___いいや、僕は神を捨てずに、セラフィールをブロセリアンドに攫ってしまえばセラフィールが皇族とか関係なくなるか?
……………今日、父上に『好きな女ができた』と言ってみよう。
アダムはそんなことを思いながら、胸で泣いているセラフィールを慰めた。
* * *
「ううん………」
セラフィールは唸っていた。
…………アダム様に抱き締められてから、ずっとアダム様のことばかりを考えている。
アダム様の胸は、とても温かかったな…………って!殿方の胸でわたくしは泣いてしまいました!恥ずかしい!
嗚呼…………わたくしは不埒な女です…………
「…………はあ、今日もセラの脳内は騒がしいわね~」
「はうっ!」
不意に自分以外の声が聞こえて、思わず飛び起きる。見ると___小さな頃から幼なじみのナナちゃんと、ビスカリア様が。
セラフィールは大いに慌てて顔を真っ赤にした。
「な、何故おふたりがここに居るのですか!?」
「何故ってねえ………ここはリンドブルム孤児院よ?」
「え」
セラフィールは周りを見た。沢山の机に大きな黒板がある。たしかにリンドブルム孤児院だ。