天使の悩み
「へえ。前皇帝は同じ皇族を処刑したのか。凄いな」
「アダム様」
「ん?………またお前か」
ベットから少し身体を起こして見ると、やっぱり従者のラウが立っていた。コイツはノックもせずに人の部屋に入ってくるから嫌なんだ。
しかし。
「またお前か、じゃないです。……セラフィールという人間から借りた本を読むのはいいですが、少しくらい私の話を聞いてください」
ラウはそう言って溜息をついた。
コイツは俺以外で唯一セラフィールを知っているのだ。それは、城を抜け出す時にコイツの力がどうしても必要で仕方なく教えたというだけなのだが。
だからと言って、コイツの言葉を聞くつもりは無い。
「僕の勝手だろう?約束通り、セラフィールと会うために勉強も魔術もしている」
「そうですが………相手は人間ですよ。何故ご執心するのですか」
「執心なんてしていない」
「…………」
そう言ってふい、と顔を背けるアダム。
………アダム様は、セラフィールという子供と会うようになってから楽しそうだ。もちろんそれは従者として嬉しいことだが………それでも、心配だった。
___『破戒の女神』のように、もしかしたら女に恋慕の情を抱いているかもしれない。
人間に恋することはこのボックス=ガーデンでは禁忌なのだ。禁忌を侵した神はこのボックス=ガーデンで処される。酷い場合は消滅させられる。
こんな生意気な主人でも、私の主人だ。
____そうなって、欲しくない。
それなのに、アダム様はそんな私の気持ちなど知らずに再び上機嫌で、私に『サクリファイス大帝国は中々に興味深いんだ!』と、声をかけてくる。
………本当に、お気楽な主人である。
そんなことを思いながら、話を聞いていた。
* * *
「セラ!」
「アダム様、ごきげんよう」
いつも通り、4日に1回の逢瀬に向かうとやっぱりセラフィールはいつもの大木の下にいた。
もう出会って7年が経った。
セラフィールは14歳、僕は16歳だ。
とてもかわいい女性になっていった。ふわふわな髪が伸びて、もう背中ほどあり、着ている服もその可愛さを引き立てる。
で、僕もワンピースは流石に恥ずかしいからロープに変えた。
それはともかく、7年経った今も僕達は話をし、様々な遊びをする。何して遊ぼうか……と思っていると、セラフィールの顔が暗いことに気づいた。
「………?どうした、セラ」
「あ、え、えっと、ななな、なんでもありません」
そう言ってセラフィールはふい、と顔を背ける。………この子は隠し事が下手なのだ。だから、すぐにわかる。
アダムは持っていた本を草むらに置いて、改めてセラフィールと向かい合う。
「いいから、教えてよ。今更僕達の間に秘密事はなしだろう?」
「ひ、秘密事というか…………悩み、というか」
「悩み?………教えてくれないと、セラフィールの嫌いなデコピンするよ?」
「う………」
セラフィールはデコピン、という言葉を聞いて眉を下げる。指で額を弾かれるのが嫌いな可愛いセラフィールは『私事ですが………』と小さな声で言った。
「…………婚約の申し込みが、来るのです」
「…………え」
セラフィールの言葉に、アダムは固まる。婚約………婚約!?まだ14歳だぞ!早いだろう婚約なんて!
あからさまに狼狽するアダムを他所に、ぽつりぽつり、と言葉を紡ぐ。
「幼少期から来ていたものが、最近更に増えて…………勿論、お母様もお父様も拒否をしてくださいますが、城にわざわざ来たり、プレゼントを貰ったり……
わたくしは、まだそんな事を考えたくないのに………」